433話「小娘の加護」
「あー……最悪に気持ち悪い……」
エーリックにおぶられたガーネがか細い声で呟くと、背中側で不穏な言葉を聞いたエーリックは思わず振り返った。
「頼むから、そこでゲロすんなよ」
「……」
「返事をしろ返事を!」
「……努力します」
「しかし衛兵総監、其方以前にガーネの吐いた血を被っていただろう」
「血とゲロは違いますからね」
「…小娘の『加護』が無いと、『絞り取られ死』してたな俺」
「だがお前さんの持ち前の霊力値故か、土地柄故か…はたまたその両方か。一晩休めばお前さんの場合はどうにかなりそうで安心だの。儂のような年寄りだとあの娘っ子の言う通り『絶頂死』だ」
「巫術官長、『ああいう女』好み?へー」
「肉付きのよい女子は男であれば好きだろう、なぁ?衛兵総監」
「俺は奥さんが一番好きなんで」
「俺も、自分のカノジョが一番可愛い」
「其方たち、元気だな」
迎賓館に戻った一行だったが、出迎えた留守保守組面々はエーリックにおぶられ口調のわりに真っ青な顔をして気分が悪そうなガーネを見てぎょっとされ事の顛末を聞いてそれぞれ悩まし気に腕を組んだ。
ソファで横になって目を伏せたガーネを一瞥し、ジェレイドはヘルソニアへ視線を移した。
「……外遊そのものを、取り止めた方がよろしいのでは」
「難しい問題だな、それに私の見立てでは律衡評定の時にガーネが対峙していた『第一席』の言葉通り『一年は休戦』を律儀に守ってはいた様子であるし、ガーネの生命力ごと霊力を搾り取る最中でも『暴発する』と言っていた。この男に迂闊に手出し出来ないし、『今は』するつもりも無いということだ」
「…それに、『勝手に動こうとしてた下っ端への落とし前』って言ってたからな。落とし前付けに来たついでに俺やヘルソニア様のこと確認しに来たんだろ。俺の予想通り、ヘルソニア様には触れもしなかった。多分陛下だとしても触らないだろうな」
ガーネが寝転がったまま声を上げ、侍従長に向かって指でグラスを指し示し『寄越せ』と指示をした。
侍従長がグラスに水を注ぎ、ガーネの傍に持って行くと、甲斐甲斐しく背中を支えて身体を起こしてやり手にグラスを持たせてやった。
ガーネはその水を一気に飲み干して小さく息を漏らし、先程より幾分か顔色の良くなった様子でジェレイドを見た。
「……ジェレイド、お前、カルセが好きってことはおっぱいのデケー女が好みか」
「待て!なぜ昼間から私が聖女様をお慕いしているような話になっているんだ!」
「じゃあカルセはいいよ、アレはさておいてだ。ボンキュッボンの色っぽい身体の女に迫られたらどうだ」
「そ、それは……その…」
質問の意図がわからないながらも反射的にガーネの言う体型の女性を想像したジェレイドだったが、その女性はまさしくカルセの顔をしており慌てて首を振った。
「わ、私は近衛として!陛下の御身を守護するために!」
「あの女の御身は俺のモンだし俺が守るから大丈夫だ心配すんな、まぁその反応から見てワンチャンあればってところか。…………ああいうので一番心配なのはウチのサイフィルクソボケ童貞だな、コロッと行きそう」
「確かに」
「しかし霊脈加護の水のお陰で命拾いしたな。明日はちょっと踏み込んで懸念点全部洗い出すか。連中の下っ端が好き勝手動いてる可能性があるのと、人種差別ではないがあのメイジーエの奴隷身分の連中がどこでどう繋がってるのかが知りたい」
「そうだな、ガーネどうするつもりだ」
「それが俺の仕事なんで、この件はさっきも言った通り俺が貰います。その上でヘルソニア様はどっかの国のお忍びのお姫様とかお嬢様にでもなってもらいますかね、んで衛兵総監と近衛総監はその護衛。他は付き人の設定だ。あんまり時間も無いから、明日の17時までで切り上げて夜間の復路チェックがてら王都に帰る算段で行こう。とりあえず今夜は休んで、明日また動くぞ」
「待て」
ガーネの言葉で一旦は解散の雰囲気になったものの、エーリックがそれを制した。
真面目な顔をしたエーリックに一同何事かと小さく息を飲み、真面目な顔をして目を向けた。
「ジェレイド、お前はいつからカルセちゃんのことを好きなんだ」
「…………、は?え?」
「それは私も気になるな。其方、以前の外遊の時は確実に陛下をそのような目で見ていただろう」
「そ、そん、えっ、待っ」
「いや、ジェレイドお前、俺言ったじゃん。めちゃくちゃ顔に出るのがお前の良くないとこだぞって。普通にディアマントもお前の好意気付いてたぞ」
「そうだの、近衛総監。ガーネに間を取り持ってもらえばいいのではないか」
「ちが、私はそんな!」
「まぁまぁジェレイド。じゃあ聞くが、特務の女の子みんなタイプ違うけど誰が一番好みだ?俺はクールビューティ系のスメイラちゃんかな」
「あー、ヴィオリーさんあの系統ですもんね」
「ガーネお前は?」
「幼女趣味じゃないのは大前提としてダントツでラズリだな。線の細いいかにも女の子みたいなタイプで生意気そうな可愛い顔はわりと好み」
「あー、お前の元カノみんなあの系統だもんな。文官補のファルちゃん?もそうだし、お前がまだ義務教育の時に付き合ってたなんだっけ……エーデリアちゃんだっけ。あの子もそういうタイプだったよな。あとはリルちゃんとか、サンソニちゃんとか」
「待て待て待て、なんでアンタ俺の歴代の元カノの名前そこまで知ってるんだよ」
「あとラナちゃんとフィニアちゃんと?」
「やめろやめろ、絶対陛下の前でその名前羅列すんなよやきもち妬くだけなら可愛いけどあの女むくれ方がめんどくさいんだよ!ていうかなんでそこまで知ってるんだよ!俺の話はいいからジェレイドの話だろ、アンタが始めた物語だぞ!」
「そうだった、な?ジェレイド。そういうことだ。酒でも飲むか、酒盛りしながら話そうな」
なぜ急に修学旅行のようなノリで全員が悪ノリし始めたのかと途端にターゲットになってしどろもどろになったジェレイドを取り囲み、夜は過ぎていった。




