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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第三十七章『探査』

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425話「美しきオアシス」

「ほう、随分と美しい湖だ」

魔導師長の感嘆とした声に、テラスから一同は湖を眺めた。

朝日が差しきらきらと水面に反射する、透明度の非常に高い澄んだ美しい湖面が一面に広がっており、テラスから直接乗り込める小型のボートや遊覧船への乗り場へ繋がる船着き場が確認出来た。

湖には色鮮やかな魚が泳ぐ姿も視認出来、ガーネは屈み込んで湖の水を手で掬った。

「へぇ、…霊脈の加護を受けた水だ」

「さすが聖域に近いだけあるな。儂もこれだけの水は見たことがない」

「…加護を受けていると何か良いことがあるのでしょうか」

ジェレイドが首を傾げながら湖を眺めてガーネと同じように手を入れてみるものの、ごく普通の澄んだ適度に冷たい水という印象しか持たず首を傾げて問いかけた。

「まぁ、一番のメリットは結界の維持コストは下がるな。風水的にあんまりよくねー間取りだなと文句を付けたが、こういう水なら話は変わる。あとはこれだけ加護を受けてるならそれこそ精霊やら地霊やらは地位の高いのが集まりやすい。それと水ってのは土壌を伝って土地に染みていくから、その土地での疫病蔓延を防いだり水がそもそも腐りにくいとか、木や花が育ちやすいとかまぁ色々か。一番は、こういう加護は霊能者には一番相性が良いから、巫術官長とかヘルソニア様とか調子いいんじゃねぇのか。…ついでに、逆を言えばそれは『敵』も同じってことがデメリットか」

「へー、詳しいなガーネ」

「あのな、何度も言うけど俺の家はそもそも裏向きにはそういう家なんだけど」

「表向きは?」

「宝石商」

感心したような声で褒めたエーリックに対し肩を竦めながら面倒そうに返答したガーネは、少し離れた場所の遊覧船を見た。

「まさかと思うけどさ、神殿行くのにあの船乗るのか」

「あれに乗らずどうやって行く」

「お、泳いで」

「馬鹿か其方は。とりあえず行けるところまで行ってみるぞ」

「やだよ酔うじゃん絶対。馬車も酔うのに船なんか絶対酔うじゃん。俺船なんか乗ったこと無いけど絶対酔うじゃん」

「案ずるな、これだけ霊脈の整った壮大な加護を受けた水の上だ。大丈夫であろう。…多分」

「やだやだ無理無理」

「はい、ガーネくん行きますよー。…お前重くなったな!太ったのか!」

「太ってねーよちょっとだけ増量してるだけだまだ目標には達してない」

容赦なくエーリックに担がれたガーネは必死に船を警戒して抵抗するものの、ガーネ自身も乗らねばならない理由も理解はしているため抵抗らしい抵抗もしきれずに船に押し込まれた。

「吐いても怒らない?」

「怒りはしないが洗面所で吐け」

「具合悪くなったら優しくしてくれる?」

「それはわからん」

「誰か!カルセとラズリとスメイラ呼んで!俺の介抱担当!!優しくして甘やかして欲しい!!」

「なぜ君は時折IQが下がるんだ」

「酔いたくない!気持ち悪い!もう気持ち悪い!」

「まだ始まっておらん。酔ったら儂と魔導師長とで優しくしてやるわい」

「やだー!!可愛い女がいい!!なんでオッサンに優しくされるんだ!!」

「あ、大丈夫ですこの馬鹿は無視して出発して下さい」

ジェレイドが喚くガーネを無視して襟首を掴み逃げないように押さえながら遊覧船の船長に指示をした。

「絶対小娘も酔うから船なんかやめた方がいいって、だって絶対酔うもん」

「ガーネ、其方には残念な知らせだが陛下は割と乗り物の類は平気だ」

「なら俺、当日小娘の膝枕で介抱される…多分甘やかしてくれると思う、そういう時ばっかりお姉さんぶるから…だから俺年上の女好き…」

「待てガーネ、君は近侍護衛だろう。どちらが護衛なんだ。とりあえず本当に吐かれても困るし君がいないと下見の意味がないから少し辛抱してくれ、遠くでも見ていたまえ」

ジェレイドが始まる前から先入観で酔っているガーネをデッキのソファに座らせると、ガーネは気分悪そうに眉を寄せて真下を眺めて水の様子を確認した。

「あー、湖深いな結構」

「酔うなら下を見るなと言っているだろう!」

「一応水見てんだよ、落ちたらどのくらいの深さかなと。ここ深さどのくらいあるんだ」

「一番深いところで40〜50mくらいでしょうか」

侍従長の言葉にガーネは「フーン」と呟き、なにか良からぬことを考えたようないつもの悪どい顔をしてほくそ笑んだ。

「悪いことを考えているな」

「失礼な。俺、こう見えてまだお巡りさんの身分残ってるんだぞ。つまり俺は正義の化身だ、すごく清く正しい」

一同一番胡散臭いものを見る目でガーネを見遣り、湖上をゆっくりと航行していく船から少し遠くに見える街並みを確認した。どちらかというと街の中に湖があると言うよりは、湖を中心に街が展開しているような街並みであった。迎賓館から直接乗り込める船着場から真っ直ぐに湖を進み、サインドブリューグの泉へ繋がる運河に入った。

聖域に近付くにつれて空気感が特有のものとなり、ガーネもさすがに酔いも落ち着いた様子で周辺を確認して景色を見回した。

「……地霊も精霊もいなくなった。ほんとに聖域として機能してんのか」

「今更だけどさ、その聖域ってなに。他となんか違うのか」

ガーネの呟きにエーリックが不思議そうな顔をして問いかけ、どう説明したものかとガーネ自身も少し考えるように腕を組んだ。

「…俺も上手く説明出来ないけど、うーん…力の噴出口?火山とか湧水口みたいな。例えば川に魚は住めても、水が噴き出してるところには住めねぇだろ。押し流されるから。そんな感じか」

「ならばガーネ、東西南北にある神殿は全て聖域なのか」

ジェレイドもかねてより疑問だったような顔で問いかけ、顔色が幾分か良くなったガーネを見た。

「東は知らん、行ったことも興味も無かったからな。南北は確かにどデカい霊脈と魔脈と、ついでに神殿も存在してるが、あそこは魔女の土地だ。聖域なんてご大層な土地じゃねーな。そも、俺は聖域に立ち入るのも近寄るのも初めてだ。擬似的なものは体験あるが」

「擬似的?」

「それがカルセの『聖女の聖なる祈りの力』だ」

「聖女様の…やはり聖女様は凄いのか、そうだよな」

「どうだろうな。範囲広く祈りの力発動させようとしたら滅茶苦茶時間掛かるし万能ってわけでもないと思うけど。使いたい時に使い物にならねぇ時もあるし」

「しかし、聖女になろうとしてなれるものではないのだろう?」

「適正だけでなく陛下の認可がないとなれないらしいな。教会側の指名じゃ駄目らしい」

「聖女様は、」

「あーうるせーな俺に聞くな、カルセに聞けよ」

面倒になったらしいガーネがさも面倒そうな顔でジェレエイドに返し、水路の先のサインドブリューグの泉を一瞥した。泉中央にフローストよりは小ぶりな神殿が確認出来るものの、結界に阻まれそれ以上は進めないと船長の言葉を受けてガーネと巫術官長、魔導師長は船首の方へ歩み寄り結界に触れた。

「…こじ開けるとかそういう概念のもんじゃねーな。やっぱりカルセが必要だ」

「ならばやはりここは当日だな」

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