419話「ディアマントの訓練」
「なんかイマイチしっくりきてないんだけど、すげーのか」
「ハッキリ言って異常じゃ」
「へー、お前でどのくらい?」
「妾か?測定してみたことはないが、『城の中なら』お前の10倍か。城の外ではせいぜい100から150前後ではないか」
「フーン」
桁が大きすぎてピンと来ない顔のガーネとそれよりも桁違いの自分の霊力の概算をしれっと告げたディアマントに、霊力も魔力も『常人』レベルかそれ以下のエーリックとジェレイドはやや引いたような顔で黙り込んだ。
「陛下、聞いていいっすか」
「なんじゃ衛兵総監」
「ガーネくらいの霊力だと、具体的にどのくらいどうすげーのか数値だけ聞いても俺もピンと来てないんですけど」
「ふむ……そうじゃな、『扱い方』さえ理解しきちんと使えれば、手を触れずとも一般人相手なら殺せる程度か。例えば、お前らの生命力ごと霊力を吸い上げて他者に無理矢理流し込んで自壊させるなど、蟻を踏みつけて殺すよりも易い程度と言えばわかりやすいか」
「え、俺こんなおっかねー女と付き合ってんの?殺される?」
「その気になればガーネ程度、妾は手を触れずとも処せる」
「怖い」
「魔導師長よ。ガーネの魔力も測定せよ」
「そのつもりで用意してございます。少しお待ちください」
魔導師長が白い布と桶に液体を張って支度をしている最中、ガーネはディアマントをちらりと見た。
「魔力の方が扱いやすいってことは、俺は魔力の方が少ねーのかな」
「……一概にそうとは言えぬ。魔力量が多くて単純に出力が下手くそなお前が必要以上に溢れさせて『出しやすい』と思い込んでいる可能性もあるし、魔力回路の方が通りが良くてそう思っている可能性もあるのではないか。いずれにせよお前は常人と同じ尺度でモノを考えぬ方がよい」
「そんな人外みたいな。リエーブだって一応魔女とは言え人の子なんだし、俺も人の子のつもりだったんだけど」
「ちなみに、ガーネのその異常に頭がいいのは魔力とか霊力とか関係あるんですかね」
エーリックの問いかけにヘルソニアもガーネに視線を向け、鼻であしらうように笑った。
「この男の地頭の良さは持ち前だろう。ガーネの父親も相当に頭は良かったからな。ついでに言うが、この性格の悪さも持ち前であって霊力も魔力も関係は無い。目付きの悪さと頭の良さは父親似、生真面目なところと全体的な顔立ちは母親似、性格の悪さと口の悪さと態度の大きさは本人由来だ。私は個人的にこの男の頭脳の方も調べてみたいが、またの機会だな」
「性格、……確かにお世辞にもいいとは言えないものな」
「おいコラ」
ヘルソニアの言葉にジェレイドも納得したように小さく呟いたタイミングで、魔導師長から「整いました」と声がかかった。
「これも、先程の霊力測定と同じく原始的な測定で正確な数値は出ません。『魔導液』は魔力に反応する試薬でして、これと『魔導布』を使います。色と染まった範囲で、魔力種と魔力量を測るものです。ちなみに私を例に、教会で正式に測定を受けた数値で『基幹属性・魔力量113』ですが、魔力を流した状態で浸した布を引き上げますとこんな感じです。染まった範囲が約5cm」
魔導師長が引き上げた真っ白な布がじわりと黄色く染まっていき、一定の箇所で染色が止まった。
「『黄』が基幹属性ってことか。他の属性だと何色になるんだ」
「聖属性だと青色、盟属性だと緑色です」
「で、100で大体5cm前後の染まり具合ってことか。ふーん。手ェつけて魔力流すのか?」
「流さなくても勝手に反応します」
袖を捲って桶の液体に手を突っ込み、試薬液に浸った布を引き上げた。
魔導師長と同じように白かった布はみるみる間に『黒く』染まっていき、それなりの大きさの布はほぼ真っ黒になった。
「く、黒?ガーネ、君たしか前に盟約術を使っていなかったか。なぜ緑にならない」
「俺は魔女の息子だから基幹属性でも聖属性でも盟属性でも無い、『始祖属性』ってことだよ。始祖属性だから盟約術も基幹術も使えるんだよ」
ジェレイドの言葉に端的に返答し、黒く染まった布地を軽く絞って広げて自分の掌を当てて染まった範囲を測った。
「大体30cmってことは、6000前後ってことか」
試薬で濡れた手をハンカチで拭い、あまりにもあっけらかんとした本人とは裏腹に『国で最高峰』の筆頭魔導師である魔導師長の数値を大幅に超えるガーネの測定値に、ジェレイドもエーリックも思わず黙り込んで腕を組んで考え込んでいた。
意を決したような顔でエーリックが、核心をつくようにガーネとディアマントの顔を見て口を開いた。
「ガーネの能力値がバケモンなのはよくわかった。その上で聞くが、均衡の連中はどんなもんなのかわかるか」
「……肌感にはなるが、律衡評定の時に喧嘩売ってきた幹部の魔族の女……アレは魔力量も霊力量も俺よりは少ないと思うが、それでも100や200ってレベルじゃねーな、少なく見積っても3000は超えると思う。ただそれが抑えてそのくらいなのか、それが本人由来のものなのか、何かしらの仕組みがあって強制的に増幅させてんのか、そこまでは諸々定かじゃない」
「なら、量だけで言えばお前で勝てるってことか」
「ハッキリ言うけど勝てねーな。……例えばだけど、銃なんか扱ったことがない陛下に銃を持たせて殺り合うってなったとしても、俺はこの女を素手で数秒あれば殺せる。持ってるだけで使い方も錬度も低けりゃ意味が無い」
「……なるほどな」
「だから、妾と魔女2人でこの男を調教してやるのじゃ。魔力の方はリエーブとアミュに託すがの」
「じゃあ俺の可愛い可愛い女王陛下、手取り足取り腰取りご教示願えますか。ついでに疲れたら膝枕して」
「たわけ。妾はこの件に関しては甘やかすつもりは無い。お前は知識はあるから教えることはこれじゃ」
ディアマントが机の上にことんと音を立てて砂時計を置きガーネに差し出した。
「なにこれ、砂時計?なんか変わった砂時計?」
「いたって普通の砂時計じゃ、お前にはこの砂時計の砂を『上げる』訓練をさせることにする」




