415話「ご機嫌取りへのお付き合い」
評定が終わり、ガーネは再び菜園へと向かった。
時計を確認すると丁度大体3時間程度経過しており、庭師に声を掛けた。
「ありがとな。どうだ連中、サボってなかったか」
「サボりはしていませんが、やはりしゃがみっぱなしはキツイでしょうね。庭師である私でもしんどいです」
「はは、だろうな。俺もキツイと思う。また明日も頼むわ」
「こちらとしては助かりますので構わないのですが…」
「おーい、特務。今日の作業は終わっていいぞ」
「さ、さ、さむ、つかれ、さむ」
冬の冷たい風に晒された挙句3時間立つことも膝をつくことも許されずにしゃがみっぱなしで作業をしていた面々は色々な意味で震えながらガーネのもとに集まった。
「お疲れさん。焼肉と鍋、どっちがいい」
「な、なべ、さむ、あったかいの」
「おし、なら鍋奢ってやっから風呂で温まってきちんと足腰揉んで筋肉解してこい」
それぞれの宿舎へと下がっていくのを確認し、ガーネも書類の束を抱えて特務室へと戻って行った。書類を自席に置き、部屋に設置してある棚の前に移動し地図を何冊か引っ張り出した。
椅子に腰を下ろして地図を広げ、件の砂漠地帯の行路をいくつか確認して紙にメモを取り、特務の面々が入浴から戻るまでを過ごした。
入浴を終えた特務を連れて鍋料理屋でたらふく食事を取らせ王城に戻って来た後、ガーネはにんまりと人の悪い笑みを浮かべて特務一同を呼びつけた。
「腹いっぱい食ったな。腹ごなしに2時間侍女の手伝いだ。侍女長には話をつけてある」
いつものように柔和な笑みを浮かべた侍女長が、副侍女長と主任侍女を引き連れて広間入口で待機しており、ガーネの姿を見て一礼した。
「特務の皆様、お手伝い感謝いたしますわ。女性の方はお洗濯を、男性お二方は回廊の床磨きをお願いいましますわね。特務総監様からお言い付けがございますので、皆様お座りになったりお膝をついたりなさいませんように。さ、働きますわよ」
有無を言わさない侍女長のにっこりとした笑みにアメジとサイフィルは絶望した顔でトボトボと主任侍女に着いて行き、カルセとスメイラとラズリは副侍女長に連れられ洗濯小屋へと足取り重く向かって行った。
「おら、シャキシャキ歩け!ちんたら歩いてんじゃねぇ!せっかく摂取したタンパク質をきちんと動いて作り変えろ!」
ガーネの容赦無い言葉に一同は恨めしそうに視線を向け、ガーネ自身は悪どい顔のまま腕を組んで特務を見送った。
「では、特務総監様はご一緒にお願いいたします。陛下がお待ちかねですわ」
「俺いる?好きに選べばいいじゃん」
「女性心をわかっていらっしゃいませんわね」
「女心っつーか、プライベートならまだしも公務だぞ」
「先日怒られてから色々と陛下もお気にかけてらっしゃるんですのよ。少し陛下の特務総監様に対してのご機嫌取りにお付き合いなさいな」
「はいはい、ったく。アイツら働かせてる間の書類仕事は俺が全部引き受けてるから忙しいんだけどなこう見えて」
侍女長と共にディアマントの執務室へと足を運んだガーネは、仕立屋が来ている室内に少し面倒そうな顔のままに立ち入った。
「ガーネ!外遊のドレスじゃ!どれが似合う?」
「なんでもいいんじゃないですか」
「なんでもよくない!」
ムッとしたディアマントが鮮やかな布地をいくつも身体の前に当てて鏡を覗き込むのを見て、さもどうでも良さそうにガーネは肩を竦めた。
「何着たって綺麗ですよ陛下は」
「そんなの知っておる!」
「……それ、その緑の」
「こっちか!」
「ちげーよ、隣の翡翠色の方。それと向こうの青」
「どれじゃ!こっちとこっちどちらが似合う!」
「色のハッキリした方。右の紺のがいい。それと奥の牡丹色のと浅葱色のやつ。デザインは露出過多になり過ぎない程度の品のいい度合いの肌見せに抑えろ。谷間は出すな、背中も出すな、肩も出すな。鎖骨は許可する」
「こういうのはどうじゃ、かわいい!」
「足も出すな!」
「妾、水遊びもしたい!水着も!これはお姉さんぽいか!」
「ビキニは禁止だ!!」
「ね?特務総監様、面倒がらずにお顔出して良かったでしょう?」
あれだけ引き篭っていた小娘もといディアマントが『騎士を立てて初めての外遊』とあっていやに張り切った様子で仕立屋とドレスや衣装、水着まで楽しそうに選ぶ姿を見て侍女長は苦笑いを漏らしガーネは額を押さえて深々とため息を漏らした。
「……陛下」
「なんじゃガーネ!」
「遊びに行くんじゃないんですけど」
「何しに行くのじゃ!遊ばぬのか!」
「当たりめーだろが!!」
「街散策は出来るか?」
「…検討します」
「水遊びは?」
「あまり許可はしたくありませんが検討します」
「検討だけでなく実現せよ!」
「今回は警備の責任者俺じゃないんで。では、忙しいので失礼します」
「ガーネ!」
「なんですか!」
「あとでまた妾の部屋に来い!」
「夜な、夜!」
思わずと言った様子で小さく笑った侍女長と、気の毒そうな顔で目を向けた女官長の視線を背に、ガーネは疲労感たっぷりの雰囲気を纏わせて特務室へと戻って行った。




