413話「特殊訓練」
「おし、中断中断。集合、全力疾走」
訓練場で走り始めて小一時間程度の特務の面々に向かってガーネは手を叩いて止めさせて自分の元に呼んだ。一同ガーネから一番遠い所にいるタイミングであり、ガーネの『全力疾走』の号令に反射的に全員が走った。
当然のように一番ビリでガーネの元に到着したのはスメイラであったが、ガーネは小さく「フーン」と感心した声を漏らしてスメイラを見遣った。
「スメイラお前、大分走れるようになったな」
「え、ほ、ほん、し、しぬ」
既に息も絶え絶えで全く喋れてはいなかったがそれでもガーネは満足そうにしながらサイフィルの頭を分厚い書類の束で引っ叩いた。
「いた!なんで!?」
「俺は『全力疾走』と言ったんだ、サボったな。命令違反の罰則。次は俺の的にして蜂の巣にしてやる」
「怖い!」
「まぁいい、全員今日は外出ろ。着いてこい」
訓練場の脇の外に通じる出入り口から出て行ったガーネに、全員汗を拭いながら後ろを追いかけた。
少し歩くと広大な菜園が広がっており、庭師や下働き・食材管理担当と医官補佐が待機していた。
ガーネが近くに寄ると慌てて庭師が駆け寄り、深々とガーネに対して一礼した。
「待たせたな」
「いえ、…あの、……ほんとによろしいのですか?」
どこか心配そうな顔でガーネの後ろの特務の面々に視線を向けた庭師は、自分の後ろに控えている下働きたちを手招きして呼び寄せ整列させ、下働きもガーネに対して頭を下げた。
「構わねぇ、その代わり『俺のやりたいように』やらせてもらうのと見張りは頼むからな」
庭師と話しているガーネの後ろで特務の面々は不思議そうに首を傾げて菜園を眺めた。
小麦などの穀物だけでなく、季節の野菜や果物、薬草の生えた区画などそれなりの『農園』のような広さがあるそこはまさしく王城内の食事のための食材管理の菜園であった。
「よし、じゃあアメジ。お前はこの土嚢を2つ背負え、身体にくくっておけ。サイフィルは1つでいい。1つ30kgも無いし、十分だろ」
ガーネが近くに積んである土嚢を指差し、早速とばかりにアメジとサイフィルに指示をした。
「え」
「女連中はとりあえず負荷無しでいい。今日は農園の『雑草取り』の手伝いだ、時間は今から3時間。俺からの指示内容は『3時間立ち上がることと膝をつくことは禁止』だ。つまりしゃがんだ姿勢を維持しろ。あ、雑草以外の花やら薬草やらは抜くなよ、横に監視つけるからな。サボったら俺に報告させるように命令してある。サボった罰は…そうだな、下水の溝攫い2時間追加。じゃ、お前ら監視頼むぞ」
「は、はい!特務総監様!」
「え、え、ちょ、ガーネくん?えっ?」
「俺は外遊の評定に出てくる、何もないと思うが何かあれば評定の間に来い」
「かしこまりました、特務総監様!」
菜園を立ち去るガーネの後ろ姿に再度深々と一礼する庭師や下働きたちとは逆に、冬のしつこく根を張った雑草の生い茂った菜園をやや絶望した顔で特務の面々は見つめていた。
ガーネがそのまま評定の間に向かい、椅子に腰を下ろしたところで隣に座ったエーリックが妙に感心した顔でガーネに声をかけた。
「随分といいトレーニングメニューだな」
「だろ、奉仕活動も出来て一石二鳥。つーか、アイツらアメジ以外基礎体力無さ過ぎんだよ」
時計を確認したガーネは評定開始までまだ時間があるかと持ち込んだ紙袋からゆで卵を取り出し殻を剥いて頬張り、3つ程食べてから元々席に用意されていた茶で流し込んだ。
「お前なにそれ、昼飯?」
「おやつ」
4つ目のゆで卵の殻を剥き始めたタイミングでガーネの反対隣にジェエイドが腰を下ろし、真顔でゆで卵を頬張るガーネを見てやや引いたような顔をした。
「ガーネ、君はアスリートでも目指すのか」
「手っ取り早く体重増やそうと思って。体重増やして筋トレがてら絞っていきたい」
「その考えがアスリートなのでは」
「肺やったあとに体重6kgくらい落ちたんだよ。それと同時に滅茶苦茶筋力落ちたから、療養継続兼ねての身体作り」
再度茶で口の中を流し込んだガーネは紙袋の中で手を払い、頬杖をついてジェレイドの身体をまじまじと見た。
「な…なんだ」
「お前、身長は?186か187くらいか」
「昨年の健康診断では186だったな、なんだ藪から棒に」
「いや、いい身体してるよなぁと。体重どのくらいだ」
「79」
「見た目より重量あるな、筋肉か」
「ちょ、触るなガーネ!」
「足腰いい筋肉の付き方してんじゃん。どんな鍛え方してんだ。でも意外と腰太いなお前」
「触り方がいかがわしい!やめろ!」
「いいだろ減るもんじゃねぇし。それに俺だって好き好んで野郎の身体なんか触りたくねぇよ」
ガーネが容赦なくジェレイドの身体をまさぐり筋肉の付き方を確認し、周辺の他責任者からは妙に生ぬるい目をこの若い2人に向けられていた。
数ヶ月前の『第一回外遊警備評定』の際、この2人はあれ程火花を散らして論破し合う程に険悪だったのにも関わらず、随分と仲良くなったものだと感心した眼差しであった。




