412話「アイスブルーム」
「なんじゃ、これは」
ガーネとディアマントが『仲直り』をした翌々日、1日休みを挟んでの通常公務日の近侍朝伺で、ガーネは紙袋をディアマントに差し出した。
「お前が舐めた真似してたから忘れてたけど、ノルデンの土産。いらねぇなら他に下賜しろ」
「妾のじゃ!」
ディアマントが紙袋の中を覗き、少し大きな筒状のラッピングされた物を引っ張り出し、わくわくした顔で淡い水色のリボンを解いた。
「これ!前にもらって美味しかったやつじゃ!」
ディアマントは目を輝かせて無花果の蜂蜜漬けの瓶を持ち上げ、嬉しそうに笑みを浮かべた。
「これは紅茶に入れるととても美味しい!妾、これ好きじゃ!」
「そんなに気に入った?取り寄せれば?」
「お前からの土産で貰うから良いのじゃ、……これは?」
紙袋の中にある小さなベルベットの箱を見つけ、首を傾げてそれも取り出した。
「どっちかっつーとそっちがメイン、言っとくけど希少だぞ。手に入れるの苦労したんだから」
「まぁ、何かしら陛下」
傍に控えていた侍女長と女官長も興味深そうにディアマントが開いた箱を覗き込んだ。
「あら、綺麗なダイヤモンド。特務総監様にしてはお珍しいですわね、石のみだなんて」
「加工してたら持って帰るの間に合わねぇからな」
ディアマントがダイヤモンドのルースを指先で持ち上げ眺めていると、慌てて立ち上がった。
「これ!ガーネ!雪華氷晶!」
「お、知ってた?」
「陛下、雪華氷晶とは」
ガーネの顔を見て驚いた顔をしながら声を上げたディアマントに、女官長が首を傾げて問いかけるとバルコニーの硝子戸近くに移動してルースを眺めた。
「アイスブルーム!北の寒い地域の、寒い時期にしか採掘されない超希少ダイヤじゃ!」
ディアマントが窓から差し込む光にルースを翳すと、透明度の高いまるで氷のように澄んだダイヤの中にうっすらと六花の光の筋が浮かんだ。
ノルデンの北側国境近辺の山の奥地の氷結の洞窟の更に奥で、しかも限定的な時期に魔力の干渉を受けて変異する。寒い場所では魔力を帯びて青白く光る希少性の非常に高いダイヤモンドで、ガーネが土産として適当に渡したルースでも入手は非常に困難なものであった。
「ほう、ガーネ。よく入手出来たな」
ヘルソニアも珍しそうにディアマントの指先にあるダイヤを見つめ、感心したように呟き視線を向けた。
「入手したら押さえとけって指示してたんで。ほんとはもう少しデカいのくれてやりたかったんですけどね、今年はそれしか手に入らないって」
「其方最近随分と私費を費やしているが大丈夫なのか」
「端金ですよそんなん。それ一粒だって億してねぇし、大体父親の遺産も養父母の遺産も、俺個人の給与所得もあるし家継いでからは普通に国からも金入って来てるし、家の運営も人使ってるとはいえ俺が回してるんでそこそこ金は入って来ますからね。下手な貴族より領地運営上手いんじゃないですか俺。金だけはそれなりにありますよ」
「特務総監様のご実家の方って、元々のご家業は何をなさっているんですの?」
侍女長がそういえばと問いかけガーネに視線を向け、ガーネは少しだけ考えたように肩を竦めた。
「表向きは宝石商。っていっても普通の宝石もだけど、魔晶石とか霊鉱石とかそういうのがメインかな。北は希少な宝石がよく採掘されるし、霊脈も魔脈もデカいのがあるから」
「なので宝石お詳しいのですね。…表向きということは裏向きには?」
「拝み屋。呪詛、霊媒、降霊、祈祷とか?ま、そんな感じかな」
「まぁ、でしたら元々『そういう方面』だったのですね」
「ま、俺はそっちの方面はからっきしだけど。知識だけだな……で、陛下。ルースなんで好きに加工してください。ネックレスでもブローチでも」
「うむ!何にしよう、せっかくならずっと身に付けていられるものが良い…考えておく!」
嬉しそうに笑みを浮かべたディアマントの顔を見て満足そうに肩を竦めたガーネは、ヘルソニアと今度ある外遊に関しての評定日程の調整をするためのやり取りをしてある程度話がまとまるとガーネは書類の束を抱えて部屋を出て行き、侍女長と女官長もそれぞれの仕事に戻るために退室した。
「あの男だと仕事が非常にやりやすい。頭がいいと話が早くて助かりますね」
ヘルソニアが書類を眺めながらソファに腰を下ろして足を組み、珍しくガーネを褒めるようなことを言うとディアマントはすぐにむっとしてヘルソニアを睨んだ。
「妾の犬じゃ!」
「またくだらないこと言って怒らせた癖に。聞いて知っているんですからね陛下、しょうもないやきもちを妬いたと」
「妾、謝ったもん!!」
「大泣きしたようですしね、昨日は目が腫れて大変だったのでしょう。今日も少し腫れは残っていますが。首でも絞められましたか、指の痕が残っていますね」
「それだけあの男は妾のことを愛しておるのじゃ」
「ふ、左様でございますか」
ディアマントが臣下に首を絞められようとどうでもいいとばかりに肩を竦めて視線を向けると、当のディアマントは物珍しそうにアイスブルームのルースと鏡を交互に見て耳に当ててみたり首元に当ててみたりとなにに加工しようかと悩んでいる様子であった。




