411話「ハネムーン期」
「……ガーネ」
「あ?なに」
「…お前はいつも、捕縛した連中を尋問するとき『ああ』なのか」
ディアマントを膝に乗せたままようやく泣き止んで互いに色々と落ち着いた頃合いに、ディアマントがおもむろにガーネの顔を至近距離で見つめて問いかけた。
質問の意図を測りかねる顔をしてガーネが視線を絡ませると、何を言わんとしているのかを確認しようと返答した。
「…『ああなのか』ってなに、どんな」
「怖かった」
「あー」
ガーネは少しだけ考えるようにディアマントの腰を抱きながら背もたれに寄りかかり、眠そうに欠伸を漏らして記憶を辿った。
要は、『ブチ切れた自分が余程怖かった』と見えてガーネは少し満足そうに肩を竦めた。
「……もう少し怖いんじゃねーの、『攻め方』がちげーもん。まあでも女相手でも容赦しないのはほんとだけど」
「具体的にどう容赦しないのじゃ」
「均衡の女は肩の銃創指で抉ったな、あとは例のはとこ一家。従叔母は普通に殴って骨折させたし、娘の方はナイフ突きつけて顔の皮膚剥がすって脅したわ。そこまでやる前に従叔父の方がゲロったから解放してやったけど。必要なら爪剥がすでも指一本ずつへし折るでも、目玉潰すでも何でもやるぞ。ただ、今のところ『そこまでしなくても俺に屈して喋ってくれる素直な連中』が多かっただけだ」
「…怖い男じゃ」
「フン、今更だろ」
何度目かわからない欠伸を漏らしたガーネがディアマントの腰に腕を回し、ディアマントもガーネに甘え縋るように膝上でしがみつき直した。久しぶりのガーネの体温と匂いに酷く安心したように小さく息を漏らし、甘えるように首筋に頬を寄せた。
「…ガーネ」
「………」
「ガーネ?」
さすがに8日目のほぼ完徹は限界をとっくに超えており、ガーネはディアマントの身体を抱き締めたままソファに寄りかかった姿勢で目を伏せ小さく寝息を立てていた。
色濃く浮かんだ隈を指先でそっと撫で、ディアマントもガーネの肩口に頬を寄せるようにして目を伏せ、大泣きして泣き疲れたままにそのまま目を瞑り眠りについた。
「────…特務総監様」
「…ン、…あ…?なに」
薄っすらとした光が窓から差し込む中、侍女長の小さな呼び声でガーネは目を覚まし顔を向けた。
そのままソファでディアマントを膝に乗せた姿勢で寝落ちていたらしく、全身が痛むのと同時に半端な覚醒に身体がまだ睡眠を欲しているようで妙に寝覚めが悪く微睡みが抜けなかった。
「昨日の時点で陛下の本日のご公務は調整してございます。陛下もここ数日まともに寝付けなかったご様子ですので、陛下はこのままお休みいただこうかと思いますが、特務総監様はいかがなさいますか?」
「…昨日でこの小娘に仕置きして終わらせてやるつもりだったから、俺も今日は休みにしてる…このまま寝る…」
眠そうに欠伸を漏らしながら未だガーネの膝の上で寝息を立てる華奢な身体を抱き上げてそのまま部屋の主のベッドに寝転がり直し、ディアマントを抱き込み直して目を瞑った。
「まったく…まぁ、ですが『仲直り』できたようで良かったですわ」
「仲直り、ね…『わからせてやった』だけだ。昼前には起こせ」
「承知いたしました」
ガーネはぐっすりと眠るディアマントの身体を大切そうに抱き締めて腕枕をし、髪を撫で梳きながら満足そうに笑みを浮かべた。身動いだディアマントがガーネの身体に縋りつき、数日ぶりに安心した顔で眠る様子を見て侍女長も小さく笑みを浮かべた。
数時間後、昼少し前にディアマントは目を覚ました。
「ん、んん…ガーネ」
「うるさ…」
抱き枕のようにしっかりと身体をホールドされ身動きが取れないディアマントは目を擦りながら未だ小さく寝息を立てるガーネの寝顔を至近距離で見つめた。
窓から差し込む光はすっかり高く、朝ではなく昼前後であることが伺える。
「ガーネ」
「…んー…」
眉間に寄った皺を指先でそっと撫で、昨夜と同じように目の下に残る隈を指先でなぞった。
珍しく起きる気配が無く、自分も身動きが取れずにいて抜け出そうと動けば動くほどに腕の力が強まった。
「…本当は起きておるな」
「寝てる…」
返答はあるものの明らかに声は寝起きそのものといった掠れた低い声で、それが妙に色っぽく聞こえた。
「ガーネ、起きよ。昼じゃ」
「まだ朝じゃねぇから…」
「朝は過ぎておる、昼じゃ」
「明日の朝に起こして…」
「寝すぎじゃ、起きよ。昼じゃ」
「…あー…うるっせーなぁ…」
ものすごく渋々といった様子で身体を起こしたガーネがようやくディアマントの身体を解放し、ベッドの上で胡座をかいて両手で顔を覆いながら未だ眠そうに微睡んでいた。
「眠いのか」
「眠てぇだろバカかお前は、誰のせいで不眠不休耐久してたと思うんだクソアマ」
「…妾、謝ったもん」
「はいはい女王様、だから許してやっただろーが。もう30分だけ寝かせろ、無理過ぎ」
身体を起こしたディアマントの膝枕に転がり直して再び瞼を伏せたガーネの寝顔を見下ろし、ディアマントは小さく肩を竦めてガーネの前髪を撫でた。
結局、その日ガーネがまともに覚醒したのはたっぷり何度寝かを繰り返し昼を大きく過ぎた頃合いであり、翌日以降も生活リズムの乱れに数日苦しむことになるのであった。




