395話「およめさん」
「ガーネ、あそぼ!あそぼ!!」
「母ちゃんから見える範囲でな、遠く行くなよ。お前の母ちゃんおっかねーんだから」
おやつも食べ終えて飽きたらしく、猫のぬいぐるみを抱いたプルデミに袖を引かれた。ガーネは渋々と言った様子で立ち上がりディアマントとヴィオリーがしっかり視界に入る場所でプルデミ
の相手をしていた。ディアマントの客人であるヴィオリーとディアマントがゆっくり話を出来るようにという配慮もあり、面倒そうにしながらもガーネは腰を下ろしてプルデミに付き合った。
「おい、勝手に花毟るな聞いてからにしろ。…侍女長、どれ摘ませていいんだ」
ガーネに声を掛けられた侍女長は、室内庭園内の花壇を見回し近くの小さな花壇を指し示してガーネとプルデミに声を掛けた。
「こちらの花壇のでしたら、構いませんわ」
「だってよ、プルデミ聞いてたか。ここの花壇の花だけだ」
「はぁい!ガーネ一緒におままごとしよ!!」
「やだ」
「やだくない!!プルデミおくさまで、ガーネはプルデミのだんなさまね、ガーネは『ただいまー』って、かえってきて」
早速とばかりに白い花を幾つか摘み取って並べながらガーネに声を掛け、本気で面倒そうに息を漏らした。しかし、日頃自分が世話になっている先輩でありかつての恩師でもある衛兵総監と過去自分が相当荒れていた時に締め上げた元警察官の嫁の娘となると、面倒そうにはしつつも今の仕事の兼ね合いもあり無碍にはあしらわずにあぐらをかいて適当に合わせるように付き合い始めた。
「めんどくせーな。ただいま」
「アンタ!またお酒飲んで帰ってきたわね!!」
早速役に入り切っているのかプルデミがそこそこの剣幕でガーネの胸ぐらを掴み、この夫婦の日頃の会話と娘にどうそれが映っているのかを察してガーネは思わず苦笑いを漏らした。
「すげー言いがかり。ままごとって家庭の縮図だってほんとだな」
「ちがうでしょ、ガーネは『ごめんねプルデミ、せかいいちかわいい俺のいとしいおくさまだよ』って土下座するの!」
「しねーよ。俺はお前のとこの親と違って亭主関白だからな」
「てーすかんぱくってなに?」
「お前の父ちゃんに聞いてみ」
「ままはだめ?」
「母ちゃんに聞いたら父ちゃんしばき倒されるんじゃねーの」
「ガーネ!アンタいい加減にしなさいよ!」
ヴィオリーの怒号に思わずぎくりと肩を揺らし、ガーネは「ままごと以外の遊びにしろ」とプルデミに言い聞かせた。つまらなそうに唇を尖らせたプルデミが摘み取った花を集めて「おいで」と呼び寄せると、膝に乗せて器用に花を編んでいった。
「ガーネ、なにつくるの?」
「冠。ほら、どーぞお姫様」
編み終わった花冠をプルデミの頭に載せてやると、すっかり目を輝かせて立ち上がりポーズを取った。
「プルデミ、おひめさま!?かわいい!?」
「可愛い可愛い」
「わー!ままぁー!」
猫のぬいぐるみを抱き締めてヴィオリーの元に走って行くのを見て、やれやれと肩を竦めて立ち上がり白手袋を嵌め直しディアマントの傍へ戻った。
「あら、よかったわね。…相変わらず小器用ねアンタ」
ヴィオリーがプルデミの頭を撫でながら感心したようにガーネを見上げ、ガーネも「まぁな」と適当な返事を返したところ、至近距離から注がれる別の視線が妙にじっとりとしているのに気付き隣を見下ろした。
むくれた顔をしているディアマントと目が合うと、あからさまに「フン!」と視線を逸らされ、ガーネは意味がわからなそうに眉を寄せるも一応『客人の前か』と放置して警備姿勢に戻った。
「…で、陛下。なんの話してましたっけ」
「この男の悪事じゃ」
「なんでそんな話してんだよ」
「まぁ大部分は喧嘩ですよ喧嘩、さすがに万引きとか強盗とか殺人とかそういうのはしてませんわ」
「ガーネけんかしたの?ごめんなさいした?」
「しねーよ俺悪くねぇもん」
「ガーネだっこ!だっこしてっ!」
「落ち着きねーなお前は」
大人の話はやはり退屈なのかガーネに構って欲しいと纏わりつくプルデミに苦笑いしつつ仕方なく片腕で抱き上げてやったガーネに、ヴィオリーも苦笑いを漏らした。
「悪いわね」
「別にいいけど」
抱き上げられて嬉しそうにしたプルデミが、猫のぬいぐるみごとガーネの首元に腕を回して抱きついて満面の笑みを浮かべた。
「プルデミ、ガーネだいすき!」
「そらどーも」
「ガーネかっこいい!」
「はいはい、そういうのは父ちゃんに言ってやれ」
「ぱぱもかっこいいけどガーネのほうがかっこいいもん、プルデミ大きくなったらガーネとけっこんする、ガーネのおよめさんになるの」
「もう少し将来性のある男の方がいいんじゃねぇのか」
「いやー!プルデミ、ガーネとけっこんしたいの!」
「俺は年上の女が好みだから、俺より年上になったら結婚してやるよ」
「ほんと!?ガーネいまなんさい!?」
「20」
「じゃあ、プルデミ20よりもおおきくなったらガーネとけっこんする!!21は20よりおおきい!?」
そのやり取りを微笑ましそうに見ていた侍女長とヴィオリーであったが、ディアマントだけはあからさまに不機嫌そうにガーネを睨みつけて紅茶を啜っていた。
少しして程よい時間になると、ヴィオリーとプルデミも「そろそろ」と帰り支度をし始めた。
「じょおうさまのくまちゃん、おなまえなぁに?」
「わ、妾のシロクマか。まだ考え中じゃ」
「じゃあ、おなまえきまったらこんどプルデミのももちゃんとじょおうさまのくまちゃんいっしょにあそぼうね!」
「…うむ」
「まぁ、…陛下、申し訳ございません」
「構わぬ。また茶会に誘う」
「ヴィオリーさん、タルト美味かった。また作って」
「アンタは今度遊びに来なさい」
「やだよアンタこえーんだもん、好き嫌いしたらしばき回されるじゃん」
ヴィオリーとプルデミを見送り、ガーネは懐の時計で時間を確認した。特務に命じた3時間まではもう少し時間があるかと妙に不貞腐れているディアマントに向き直り、一応何に拗ねたのか確認しようと目を合わせた。
「で、何に拗ねてるんですか陛下は」
「拗ねておらぬ!」
「むくれてるでしょ、なんですか」
「妾も花の冠が欲しい!」
「はぁ?…あー、じゃあそのうちな。今度庭出た時に」
「なんで妾とは結婚はせぬと申したのに、プルデミとは結婚するのじゃ!!」
「は?お前話聞いてた?『俺より年上になったら』って言っただろ」
「妾とは結婚しないと言ったくせに!!」
「代わりじゃねぇけど付き合うってなったんだろうが。なんなんだお前は5歳の子供相手に。いくつだ」
「妾が一番じゃなくては許せぬ!!」
「一番だろうが、どれだけ俺がお前を優先してると思ってるんだ」
「妾だけじゃなきゃいやじゃ!」
「お前だけだろ、何もかも」
「足りぬ!いやじゃ!ガーネのばか!!もうお前なんか知らぬ!!」
「そうですか。…ハァー………めんどくせーな。侍女長、俺は通常業務に戻る」
「は、はい。承知いたしました」
明らかに苛立った顔をしたガーネが深々と溜息を漏らして短く吐き捨てると、それ以上ディアマントには何も言わずに踵を返し部屋に送り届けることもせずに室内庭園を後にした。
シロクマを抱き締めて唇をへの字に結んだディアマントを見て困ったように眉を下げた侍女長がそっと肩に手を置いた。
「陛下、お部屋戻りましょうね」
「…ふん!」




