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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第三十六章『支配』

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391話「坊や」

その日の評定が終わり、無理矢理同席させた特務が先に退室し特務室に戻った。

スメイラは『ガーネの指示通り』、誰にも何も喋らせないように紙にペンを走らせて一同に見せた。


『聖堂での件、聞きたいことがあるのはわかる。今は喋るな口にするなとガーネくんの指示。お城の中で、その話題は絶対に口にしないで』


その文字の羅列を見て全員が小さく頷き、スメイラはその紙を部屋の簡易キッチンに持ち込み火を点けた。あっという間に燃えていく紙を見て、言いようのない様々な不安に手が震えた。

序列上位以上の七律冠。序列下位ですら、あのガーネが苦戦することもあるのに、その上の上を束ねる『幹部』の圧倒的な存在感と異質感と、肌で感じる明確な恐怖。そこに被さる、自分の『前世』。更には、あの『脅威』と対峙するために『4ヶ月で俺がしごき倒す。吐くまでやる』と宣言された別の意味の恐怖。

「…ガーネくん、…私たちのことどんなシゴキするつもりなのかな…容赦なさそう過ぎてやる前から吐きそうなんだけど…」

灰を水で流してから自席に戻り着席し、小さくぽつりと呟きながら頬杖をついて溜息を漏らした。

『前世』の話題以外となれば行き着く話題はそこしか無く、一同無言で考え込んだ。

「…土嚢を重りに、引きずりながらうさぎ跳びでお城の外周100周、とか」

「こわい」

「重りつけて腕立て1000回、失敗したら最初からとか」

「こわい」

「延々ガーネと模擬戦とか」

「こわい…無理だよ勝てないよ…」

「んな意味ないことさせねーよ、お前らは俺をなんだと思ってんだ」

呆れたような声のガーネが話に割って入り、全員思わずギクリと肩を揺らした。


「ア、アタシたちをどうするつもりよ!!乱暴しないでくれる!?」

「なんかその言い方、そこだけ切り取ったら誤解生みそうだから気を付けてくんない。とりあえずは基礎体力向上だな、特にスメイラとサイフィル。…俺は宣言通り『本気の療養』する。今のところ俺が一番使い物にならねぇ。まともに魔力も霊力も練れない、ちょっと人より体術使えて射撃が得意なだけの一般人だからな」

「だから怖いんだって、どこが一般人よ」

「なんでもいいけどラズリ、悪いけど手縫ってくれ。血止まらん」

差し出した左手に巻かれた白かったハンカチが真っ赤に染まっているのを見て、ラズリは慌てて立ち上がりガーネに駆け寄った。ぽたりと床に雫が滴り落ち、『どれだけ深く切ったのか』と呆れ半分、あの中で自我を保つためにはこの男ならそこまでやりかねないと小さく息を漏らした。

「…医務室行くよ。多分脂肪層までいってるでしょ、麻酔して消毒しないと相当痛いわよ」

「今も痛ェんだから早くしろよクソババァ」

「だったら早く着いて来なクソガキ!!」



その日の深夜まだギリギリ日付けが変わる前、ディアマントの私室の扉がノックされ、ディアマントはベッドに寝転んでいた身体を起こしてドアに顔を向けた。

この時間に部屋を訪ねて来る人物など侍女長かヘルソニアかガーネくらいしか居らず、ディアマントは「入れ」と短く返答をしてそれまで胸に抱いていたシロクマのぬいぐるみを枕元に置いた。

ドアが開き顔を出したのは案の定ガーネであり、何とも言えない顔にディアマントは腕と脚を組んでガーネを見上げた。

「なんじゃ」

「…怒ってる?」

「怒っておる!怪我をした!」

「そっか、まぁそうだよな。……悪い、おやすみ」

「ま、待て!」

「……なに」

「こちらに来い」

どことなく珍しくしょげたような顔と、自分が怒っていると告げた瞬間にどこか子供のような顔をして来たばかりにも関わらずあっという間に踵を返したガーネに慌てて声を掛け、ベッドの隣をぽんぽんと叩いて促した。

少しだけ考えるような素振りで視線を泳がせてから大人しく近くに来ると、これもまた珍しく普段よりも少しだけ距離を開けて隣に腰を下ろしたガーネを見上げてディアマントは小さく首を傾げた。

「……どうしたのじゃ」

「…ちょっと……あー……なんつーか、……傍にいたくなったから」

「へっ」

時折見せるこの大型犬のしょげたようなしおらしい顔付きに、ディアマントは思わず間の抜けた声を上げてしまった。恐る恐るガーネの頭に手を伸ばし、少し濡れた髪をそっと撫でた。

「…またきちんと乾かさずに来たのか」

「ほっときゃそのうち乾く」

「……膝枕、貸してやろうか」

「怒ってるんだろ」

「…もう怒っておらぬ。子供か、お前は」

少し呆れたように肩を竦め、組んでいた脚を直してベッドの上に脚を崩して座り直すと太腿をぽんぽんと叩いて促した。

怒っていないと聞いてかガーネも素直に膝元に転がり、小さく息を漏らしながら目を伏せた。


この男がこういう顔をする時は、余程疲弊している時だと見覚えのあるディアマントはしばらく何も言わずに膝を貸し、普段と異なり完全にラフに前髪の下りた顔を見下ろして時折優しく撫でた。

「妾のシロクマを貸してやろうか」

「いらねーよガキじゃあるまいし」

「やかましい小僧め」

半ば無理矢理ガーネの胸元にシロクマを押し付けると、ガーネも無意識にぬいぐるみに顔を寄せてすんすんと匂いを嗅いだ。

「……お前の匂いする」

クマを抱くガーネの顔を見て思わず小さく笑いながら、しっかりと包帯の巻かれた左手を取って傷に触らないように眺めた。

傷のせいか、包帯から露出した指先や掌の付け根付近がやや熱を持っており、ディアマントは確認するようにガーネに目を落とした。

「どのくらい深く切ったのじゃ」

「脂肪層までガッツリだとよ。麻酔して12針」

「…きちんと処置をしておるのなら、よい」

そこまで切らねば自我を保てない可能性があったのかと少しだけ苦い顔をして、シロクマを抱いて匂いを嗅ぐガーネを見つめた。

「……ガーネ」

「んー」

「妾のシロクマじゃ」

「お前が寄越したんだろ」

「なぜ抱き締める」

「お前の匂いするから」

「妾を抱けば良いじゃろ!」

「だって怒ってるから」

「もう怒っておらぬ!しつこい!」

「怖い」

「怖くない!!」

無理矢理シロクマのぬいぐるみを取り上げると、ガーネはそのままディアマントの腰元に腕を回して抱きついた。

ディアマントはようやくいつもの体勢になったところでガーネの髪を撫で、普段よりも少し優しく声を掛けた。

「疲れたのか」

「…少しな」

「甘えたくなったのか」

「……まぁな」

「…怖かったのか」

「さすがにな、少し」

「今日は、妾と一緒に寝るか」

「お前がどうしてもって言うなら寝てやってもいい」

「ふ、妾はお姉さんだから、今日はそういうことにしてやろうか」

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