386話「質疑」
「では、『律衡評定』の第2日目を開始する。本日は昨日の各部門の顔合わせと担当ごとの現状共有をもとに、深堀りした質疑や補足の確認とする」
ヘルソニアの声で評定が始まり、ディアマントは周囲を見回して腕と脚を組んだ。
早速と言った様子で、恐らく評定の雰囲気を察した過去に参加経験があり魔女2名とも面識のある侍従長が挙手をし、ヘルソニアに短く「侍従長」と指されると静かにその場に起立して口を開いた。
「今後の運用についての確認でございますが、よろしいでしょうか。陛下は今後外遊に出る機会も増えるとのことで初めて騎士をお立てになりましたが、外遊の際に嚆矢及び終焉の魔女様は随伴されるのでしょうか」
その質問にアミュが面倒そうな顔で狐を抱き直し、侍従長を一瞥した。
「アミュ、めんどくさいから行きたくない。でも、おいしいごはんのばしょだったら行ってもいい。遠いのはめんどう」
「…正直、都度随伴の必要はないかと。ただ、王命として呼ばれれば私もアミュも随伴します」
リエーブも同じように返答し、ディアマントに視線を移した。視線を受けたディアマントは顎で指すようにガーネを示してヘルソニアに目配せをし、ヘルソニアは短く「ガーネ」と呼んで返答を促した。
「…前回の外遊の護衛最高責任者を任せていただいた立場兼特務としての回答になりますが、『均衡の懸念がより強ければ』抑止力と純粋な戦力の面で随伴命令は無しではないかとは思います。が、素直に指示命令が通る女共では無さそうなので、ぶっちゃけ『王命執行最高責任者』の立場で言わせてもらうと命令の通らない奴は邪魔なので、ケースバイケースじゃないですかね。外遊先と、外遊目的、その時の懸念状況などまあ色々あるんじゃないですか。どう思いますか、衛兵総監と近衛総監は」
唐突に話を振られたエーリックとジェレイドはどこか恨めしそうな目で一瞬ガーネを見てから互いに目配せし、先にエーリックが口を開いた。
「衛兵として、警備の面での話しをすると抑止力としてはこの上ないかと。実際『魔女が随伴している』だけで牽制になる場面も多々あるかと思いますし。ただし、特務総監の言う通り運用面は別問題。行動制限やなんかは事前に整理しないと厳しい」
「近衛としては、特務総監に概ね同意です。戦力は多いに越したことはない。先のゲルブ辺境伯領での襲撃が良い例だが、『序列下位以下』で特務総監以外はほぼ苦戦を強いられている。特務でもまともに戦えるのは魔導師と巫術医官のみで、ほぼ特務総監1人で制圧をしている。彼の懸念通り『序列中位以上』を我々は知らない。その状態で、魔女様たちの安全確保まで、近衛や衛兵、特務が担うのかなどの懸念はある」
「魔女の護衛?ははは、いらねーだろ。俺が銃撃っても傷一つつかねーぞ、絶対。なぁ?アミュ、リエーブ」
ジェレイドの『魔女の安全確保』の話に思わずガーネが鼻で笑いつつ正面の席のアミュとリエーブに目を向けた。
「まぁ、魔女にビビり散らしてるお前らに余計なビビリ要因を与える必要もないと思うけど試して欲しいなら見せてやるけど、どうする」
「……遠慮しておこう」
「とにかく、この女共の警備なんか必要ない。俺は陛下さえ守れるなら、魔女の随伴だろうがなんでもいいが、命令が通らないことで陛下が危険にさらされるなら邪魔だ。いらん」
ガーネが魔女に対しての雑な扱いをした挙句『ディアマント以外どうでもいい』と言ってのけたのを聞いて、ディアマントは堪らず肩を揺らして笑った。
小娘の顔ではなくしっかりと『女王の顔』をした少しの冷酷さと傲慢さを滲ませた目を向けて会場内の臣下をぐるりと見回した。
「ふふ、妾の犬はほんによく躾られた犬じゃ」
「さて、では他に質疑はあるか」
「はい」
「大司祭」
「陛下及びヘルソニア様にご質問ですが、よろしいですかな」
挙手して指名された大司教が立ち上がり、昨日と同じように人の良さそうな柔和な笑みでディアマントへ視線を向けた。
「なんじゃ、申してみよ」
「昨日、特務総監殿が言っていた神殿の件だけどね。あの後ボクの方でも少し調べてみたんだ。神殿は南北東西に4つ、うち1つが北のフロースト神殿だね。他、今は使われていない古い教会や礼拝堂は各地に点在しているけれど、その分も含めて調査はボクたち『教会』の主導でよろしいかな」
「構わぬ。必要とあらば、特務及び聖女と連携をせよ。ただし特務の業務に越権はせぬように。…まぁ、お前なら心配はないか」
「あ」
ディアマントが話している最中に、ガーネが何か思い出したように小さく声を漏らした。一同の視線がガーネに注がれ、ディアマントも「なにかあるなら申せ」と声をかけたことで、ガーネも口を開いた。
「すんません、昨日喋るとき割愛したんですけど。『特務発足前』、俺が単独でトーリステノート…例の、警察署長が教徒で上に献上目的で女数人誘拐監禁強姦暴行してた事件。あの時に俺がギリ戦闘避けた教徒連中、廃れた教会で集まって話してたな、と」
「ふむ…ならばやはり、『現状使用していない教会施設全般』、奴らの根城にされていないか確認すべきか。そうなると、やはり特務も出ねばならぬな」
「俺らだけで調査すんのは現実的じゃない。聖女の貸し出しはしても構わんが、ウチの人員考えても長期持っていかれるのは困る。特務としては一旦教会で調査して、きな臭いとアタリつけたリスト回してくれるならそこに調査に出るのはまぁ可能かと」
ガーネの返答にヘルソニアとディアマントも少し考えたように腕を組み、小さく唸った。
「…ガーネよ」
「はいヘルソニア様」
「其方、前にも打診したが、特務の人員を拡充してはどうだ」
「いりません。俺も前にも言いましたが、俺が信用出来ないやつは使える・使えない以前に邪魔でしかない。そも、今の特務のメンバー考えてください。魔導師長や巫術官長の前でこれ言うのもなんですけど、ウチの魔導師も巫術官も宮廷お抱えの『筆頭並かそれ以上』と陛下のお墨付きです。アメジは魔導だけでなくフィジカルはやりようによっては俺より火力があるし、ラズリも俺はあの女以上に優秀な医者見たことありません。サイフィルもバカだし余計なことしか言わねぇが、鑑定能力と耐毒性は最高値だし、スメイラも頭がいいし回転が速い。アレは諜報も出来る。それに何と言っても、カルセは聖女だ。これ以上のメンツで、かつ俺が信用できるなら考えます」
「………厳しいな」
「でしょ?だからいりません」
「…まぁ、よい。とにかく、教会施設の調査に関しては一旦保留じゃ。最終日に結を出す。大司教、よいな」
その後、現状の異界異物の保管状況や異界異物の特徴、今後のディアマントの外遊の予定などの質疑が出て、その場で結論の出るものは取り決め、即決出来ない案件については翌日の評定で詰めて最終日までに結論を出すということで、本日の評定も無事に終えた。




