384話「首輪」
冒頭若干『そういう描写』がありますので苦手な方は*****まで飛ばして下さい(読まなくてもストーリーに支障は全くないです)
「ディア、ディアちゃん」
「……なんじゃその呼び方は。坊やか」
「もっかいしたい」
「もうだめじゃ!むりじゃ!妾を殺す気か!」
「そんな、王族殺すなんて大逆犯すわけないだろ。いや、お前を犯すか」
「なぜIQが下がる!これか、噂の『IQ3』とは!」
「なんだそれ。噂になってるならしてもいいってことか」
「待て待て!お前の体力はどうなっておる!」
「なんだよ、あんなに気持ち良さそうにあんあん鳴いてるクセに。いいじゃんあと3回くらい」
「なぜ増えた!1回ではなかったのか!」
「いや、お前元気そうだし。いいかなと思いました」
「ま、待っ、あッ、んん…!」
「ほらすぐ鳴く。かーわいい。好きだよ、ディア。愛してる。可愛い」
「ずる、……ッあ、はぅ…っ」
明け方前のまだ暗い室内でベッドの軋む音が小さく響き、ディアマントは昨夜の自分の発言を後悔した。
シャワーを浴びたガーネにベッドにお姫様抱っこで運ばれ、ついお姉さんぶって「誕生日じゃ、好きなだけ妾を堪能せよ」と言ってしまったのである。最近読んだ小説の少しいかがわしいシーンの、『今日はアタシのこと好きなだけ堪能してね』というセリフに感銘を受けて安易に真似しただけであったが、ガーネという体力も性欲も底無しの男相手にはとんでもない地雷ワードだったと枕元に余裕無さげに散らばったいくつもの『ひにんぐ』の空袋を見て涙目で掠れた喘ぎ声を漏らした。
時折首元を甘噛みされ、胸元に吸い付かれ、内腿を丹念に撫で回されて身体を揺さぶられる快感に耐えられず腕を伸ばして目の前の男にしがみついた。
その瞬間、まるで獲物でも捉えたかのような目を向けられ、下腹部の奥が疼くような感覚に腕に力が入る。
「やだ、また、こわい、ガーネ!」
「怖くねーだろ。気持ちいんだろ。ほら、もっと俺にその可愛く乱れた顔見せて」
指先で何かを引っ掻くような感覚がした自覚はあったものの、手の力を緩める余裕などまるでなく目尻から雫が零れる感覚に腰が震えてしまった。
「可愛い。気持ちよくて泣いてんの?最高」
目尻にガーネの唇が寄せられ、耳元に近いところでちゅっと軽いリップ音が響いた。
その瞬間、腹の奥の方で言い様の無い感覚と頭の奥が散るような感覚が同時に来てディアマントは思わず息が詰まった。
「あー、やべ、無理。可愛い」
余裕の無さそうな切羽詰まった顔で愛おし気にディアマントの頬を撫で、限界が近そうなのを誤魔化すように無理矢理に唇を重ねた。
「んっ、ガーネ…その顔、もっと見たい」
ディアマントの強請るような言葉に思わず苦笑いしてガーネは有無を言わさずに華奢な身体を抱き締めて首筋に顔を埋めた。
「やだよ、かっこ悪い。お前がどう思ってるか知らねぇけど、俺わりとかっこつけだからな」
「知っておる、だから見たい、見せよ」
「やーだね」
耳元でガーネの少しだけ乱れた吐息と息を詰めるような明らかな余裕のない声に煽られ、ディアマントは幸せそうに顔を緩めてガーネの背中に腕を回し直した。
*****
「そうじゃ、ガーネよ」
「なんだ、もっかいしたいのか。俺はまだできるぞ」
「いい加減にせよ!妾の体力も考えよ!」
「言うて気絶してちょっと寝てたじゃん」
「気絶するまで抱く男があるか!!」
「で、なんだよ。可愛いディアちゃん」
「誕生日プレゼント」
「……プレゼント?ルビーピンクの総レースTバックのどエロい下着付けた俺のことが好きすぎてしょうがない小娘感満載の年上の可愛い彼女の膝枕じゃなくてか」
呆れたような顔でややぐったりとしたディアマントが、小さく「今日の評定は午後からで良かった」と小さく呟きを漏らし、気怠い態度で自分の『お泊りセット』を指差した。
「妾の荷物を持って参れ。どこぞの犬がアホのように腰を振ったせいで妾は立てぬ」
「あんなによがってた癖に。あーあ、背中痛ェ」
使用済みの残骸を申し訳程度にティッシュに包んでゴミ箱に放り投げると、ディアマントの荷物を取りに立ち上がった。指示通り荷物をベッドの上に置くと「開けろ」と命令され、革製のトランクを開いてことのついでのように着替えの下着とネグリジェを引っ張り出してからディアマントに向けた。
ディアマントは鞄の奥にしまった、リボンのかかった小さなアクセサリーケースを取り出しガーネに差し出した。
「なにこれ、開けていいの?」
「構わぬ。日付が変わってしまったが、誕生日の贈り物じゃ」
ケースにかかったリボンを外し、蓋を開いた。部屋が暗いためにものがはっきりせず、近くの明かり用の魔法石のランプを軽く叩いて点灯し、周囲が明るくなったところでディアマントも身体を起こしてガーネの手元に視線を向けた。
「…ダイヤ?………随分年代モンだな。見たことないカットだ。リカットしてんのか、研磨の痕跡は…よく見ないとわかんねーな。でも…品質はめちゃくちゃいいんじゃねぇか、メレも含めてめっちゃいいダイヤだ」
「相変わらずの目利きじゃ。4000年前当時の最高等級のダイヤで、きちんと手入れをして来たものじゃ。お前の言う通り、何度か研磨はしておる。台座と鎖は整え直して新しいものだが、その雪の結晶のモチーフはそのままじゃ」
「は!?まじで!?そんな石あんのか、え、…普通に億すんじゃねーの…こわ。で、なにこれ。…ネックレス?女物?」
「妾が20の成年の時に、先代に…父に贈られたものじゃ。新品ではなく妾の私物で嫌かも知れぬが、お前に渡したい」
「いや、これはさすがにもらえないだろ。先代からのだろ、しかもお前4000年でこの保存状態、価値やべーぞ」
「石の価値はさておき、妾がまじないを掛けたものじゃ。守護の加護じゃ、お前はよく無茶をする。妾はあんな思いもうしたくない。…まあ、だからと言って不死になるとか絶対に怪我をせぬとか、そういう万能なものでは勿論ないただの『気休め』じゃ。…が、妾の力に耐えられるのがその石くらいしかなかったのじゃ。他だと砕けてしまった。…それに、『もらえない』と価値を感じてくれるのならば、尚更お前が付けておれ」
台座とチェーンは新品とはいえ、デザイン自体は変更もしていないということでどこからどう見ても女性物ではあるが、それほど大切にしてきたであろうものを敢えて自分に贈りたいという気持ちと自分のためにまじないまでかけたという言葉に、素直に受け取ることにしてディアマントにネックレスを差し出した。
「付けて、お前が。首輪」
「ふ、とんだ愛犬じゃ」
ネックレスを手にしたディアマントが背中を向けたガーネの正面に手を回し、首の後ろで長めに誂えたプラチナのチェーンの留め具を留めた。そのまま肩甲骨辺りにいくつ出来た引っかき傷を撫でると少し痛かったらしく僅かに肩が跳ね、ディアマントは小さく笑った。
振り返ったガーネの鎖骨より少し下辺りに揺れたネックレスに満足そうに笑い、「おいで」といつものように甘く呼ばれて胸元に収まりに行き、抱き締められたままベッドに転がった。
「ありがと」
「何度も言うが、『不死』や『無敵』『無傷』の類の守護の加護ではないぞ。無茶はするでない」
「わかってるっての。俺も何度も言うけど死にたくはないし怪我もしたくねーよ。痛いんだぞ、今回過去一だったわ肺はやべーぞ」
「…ガーネ」
「ん?」
「誕生日、おめでとう」
「ありがとな」




