383話「静かな二次会」
しばらくして部屋のドアをノックする音と話し声が聞こえ、ふと目を開けて時計を見るとたっぷり2時間眠っていたようだった。
疲れの抜け切らない身体を起こして立ち上がり、入口のドアを開けるとディアマントと台車を押した侍女長が立っていた。
「……あれ…なに」
「眠っておったのか」
「少しだけな」
遠慮なしに部屋の中に入るディアマントと、一応「失礼いたします」と一礼してからディアマントに続いた侍女長を見て思考が追いつかないまま続けて部屋に入った。
当たり前のようにソファにディアマントが腰を下ろし、侍女長が台車からケーキや料理、飲み物をローテーブルに手早く並べ、最早恒例となったディアマントの『お泊まりセット』を傍らに置いてにっこりと笑みを浮かべて再度一礼して退室していった。
その様子を見てガーネが首を傾げながらディアマントの隣に腰を下ろし、「なにこれ」と雑に声を掛けると、ディアマントは得意げな顔でガーネを見上げた。
湯浴みを済ませた様子で化粧っ気がなく、着ているものもゆったりとした部屋着のようなワンピース姿であった。
「誕生日パーティ第2弾じゃ!ふたりで!二次会というやつじゃ」
「フーン」
かなり小さめなホールケーキとグラタンやローストビーフ、白身魚のポワレ、小さなキッシュなどが綺麗に並べられ、グラスとシャンパンと瓶に入った水までご丁寧に添えられていた。
「げ、お前またこんな高いシャンパン開ける気か。飲みすぎじゃねーの」
「この程度では酔わぬ、はやく開けよ。妾のとっておきじゃ」
「はいはい」
添えられたナイフでラベルに切り込みを入れて剥がし、布巾をコルクに被せて片手で握り、もう一方の手でボトルの底面を支えるように添えた。
「音鳴らす?鳴らさない?」
「鳴らさず出来るのか、上級者の技だと聞いたが」
それを聞いてコルクを手で固定してボトルを回し、コルクをごく僅かに傾け小さな吐息のような音を立ててガスを抜いた。
ゆっくりとコルクを抜き去り、グラスにシャンパンを注いでディアマントへと差し出した。
「どうぞ、俺の可愛い女王様」
「うむ」
ガーネも自分のグラスにシャンパンを注いでからディアマントのグラスよりも下げて軽く合わせ、安酒でも煽るように一気に喉を通過させた。
「妾のとっておきだけある、それなりじゃ」
「お前意外と酒飲みだよな」
「娯楽と嗜好がそのくらいしか無い。最近でこそ、妾は色々遊びを覚えた。楽しい。交換日記の返事も待っておる」
「あ、やべ忘れてた」
「…………」
むくれた顔をしたディアマントから目を逸らし、空になったグラスにシャンパンを注ぎ直して再度ぐびぐびと飲み、再びグラスに注いで小さく息を漏らした。
「お前、安酒を飲むように妾のとっておきを飲みおって」
「なんとなく」
そのままグラスに口を付け、くいっと傾けて喉を鳴らして飲み流した。喉を通過する度に喉仏が上下し、ディアマントは思わずといった様子で手を伸ばしガーネの喉元に触れた。
「……なに」
「色気があるとはこういうことかと思ったのじゃ。本に書いてあった」
「お前、俺のこと結構好きだよな。俺のどこがそんなに好きなの」
「うーん?顔、あとは……目つきが悪いところ。強いところと意外と子供のようなところと、頭がいいところ、妾の言葉で一喜一憂する存外繊細なところか」
「あっそ」
聞いておいてやや興味の無さそうな返しをしたガーネに、ディアマントは少し身を乗り出して迫るように問いかけた。
「そういうお前は、妾のどこが好きじゃ」
「顔、身体、脚、髪」
「見た目だけか」
「クソ小娘なところと、ワガママなところと、俺のことが好き過ぎて可愛いところ」
「……ガーネは、いつから妾のことが好きなのじゃ」
「え、そういうこと聞く?……ちゃんとお前のこと好きだって自覚したのは、家督問題やら色々あった時期じゃねーの。めちゃくちゃ好き避けしてたろ俺」
存外素直に返答をしたのを見て、ディアマントは意外そうな顔をしてガーネを見つめてもう少し突っ込んでみるかと口を開いた。
「自覚する前から好きなのか、妾のこと。いつから妾のことが好きじゃ」
「初めて会った時から。一目惚れだな、今思えば」
「…………へ」
「聞いといて照れんのやめてくんない」
ガーネの発言で一気に赤面したディアマントに『そんな恥ずかしいことを言っただろうか』と考えながら、ガーネは断りなしにディアマントの膝に寝転がって腰に抱きついた。
「……なんじゃ、突然甘えた小僧になるのか」
「甘えた小僧ってのがなんかちょっと腹立つけど、別にいいだろ。それともダメなのか」
「ダメではない、好きにせよ。妾が許す」
「…あー。柔らか。いい匂い、ほっせー」
下腹部に額を押し付け、頬に触れる太腿の柔らかさと腰の細さと体温や匂いを堪能するように小さく呟きながら目を伏せたガーネを見下ろし、ディアマントはガーネの頬に触れながら首を傾げた。
「もう少し肉付きのよい女が好みか」
「うーん……まぁ男として嫌いではないけど、好みだけで言うなら華奢な子の方がなんか庇護欲と支配欲唆られて好みかな。不健康な痩せ方されると気にはなるけど」
そう言って寝転がったまま、ディアマントの腰周りを撫で回してから手を伸ばし胸元に触れてしれっと揉みながら返答したガーネに、ディアマントは「そういえば」と言ってガーネを見た。
「ミモゼが、『これならお前の好み』と言っておった。妾は『どえろいしたぎ』を着けておる。どえろいとは布が透けていたり色が派手なものをいうのか」
「はぁ?どれ見せてみ」
慌てて身体を起こしたガーネがディアマントのワンピースを捲り上げ、着用している下着を確認すると馬鹿正直に小さく喉を鳴らした。
「シャワー浴びてくる。寝るなよ、起きてろ。部屋も戻るな。ベッドにいろ、いいな」
「なぜ急に張り切る、なぜ突然そんな目をする」




