380話「かくしごと」
本日の評定も無事に終わり、退室の流れになったはずであったが、ディアマントが動かないため誰も立ち去れずにいた。
おもむろにディアマントが立ち上がると、先程までの真面目な顔とは打って変わって小娘のような顔を浮かべて一同を見回した。
「事前通達を受けた者、場所を移動せよ。ガーネは妾と来い」
「は?なんかやだ」
「命令じゃ!」
「なんかお前のその顔すげーやな予感する」
「来るのじゃ!!」
「なんかやだ…」
ディアマントに腕を引かれ半ば無理矢理連行されたガーネは、渋々ディアマントに従い執務室へと向かった。
「とりあえず、座れ」
「なにすんの」
妙に警戒した顔のガーネににんまりと笑みを浮かべディアマントは無理矢理ガーネをソファに座らせ隣に腰を下ろした。
ガーネは腰の剣をローテーブルに置いて隣のディアマントに視線を向けた。
「なにかなお姫様」
「妾と遊べ!」
「いいけど、戻って仕事あるしちょっとだけな」
「妾と仕事どっちが大事じゃ!」
「お前」
「なら妾と遊ぶのじゃ!」
「はいはい。なにして遊ぶんだ」
「えっと、えーと…オセロじゃ!」
「どこにあんの」
「向こうの棚じゃ」
面倒そうに息を漏らしながら言われた棚を漁り、最近妙に増えた遊び道具に苦笑いを漏らしながらオセロをローテーブルに置いた。
「お前先と後どっち」
「ふふん、後じゃ!」
「どっちでも変わんねーと思うけどな。はいどーぞ」
適当に黒の駒を置いて1枚ひっくり返し、ディアマントはものすごく得意げな顔で白の駒を置いて同じようにひっくり返した。
数分無言でオセロに興じており、白の駒が大多数埋め尽くされてくるとディアマントはにんまりとと得意げな顔をしてガーネを見た。
「ガーネ!」
「なーに」
「妾が勝ったら、妾秘蔵のちょっといかがわしい小説を音読して聞かせよ」
「俺が勝ったらどうすんの。つーか、『ほぼ白の盤面』でそういうこと言うのずるくねーかお姉さん」
「ガーネが勝ったら妾命令でお前の休みを1日増やしてやる。その休みは妾がずっと一緒にいてやる」
「まじで?言ったな?」
「ふふん、でも妾が勝つのじゃ!」
「じゃああと3手は夢見させてやるよ。お前の番だぞ」
勝ちを確信したディアマントはガーネの宣言通り4手目で何故か殆どの駒がひっくり返り絶望した顔をした。
「なぜじゃ!妾が勝ってたのに!」
「勝ってねーよ。お前の5手目くらいから俺の勝ちだ」
「いやじゃいやじゃ!妾の勝ちが良かった!!」
「あーはいはい、そんなに言うなら休みなんか別にいらねぇよ。もうそろそろ戻るぞ俺は」
癇癪を起こしたディアマントのあしらいも、今日は疲れて面倒になるとさっさと駒を片付けてローテーブルに置いた剣を手に立ち上がった。
「いやじゃ!だめじゃ!まだ妾と一緒じゃ!!」
ディアマントは慌ててガーネの服の裾を引っ張り足止めをしようと声を張り上げた。
「仕事終わったら顔出すから。多分」
「多分はもっとだめじゃ!!」
「なにお前、なんかさっきから変。視線泳いでるし声上擦ってるし手元落ち着きないし瞬き多い。あ、今ちょっと心拍上がったな」
「………」
唐突に尋問モードになったガーネに思わず下手なことを言わないように唇を結んだディアマントを見て肩を竦めたガーネは、ぽんぽんと頭を撫でてから改めて立ち上がった。
「言いたくないことは別に無理に言わなくていいけど」
あからさまに隠し事をしているような態度に『それを暴くのが俺の仕事なんだけど』という脅し文句は押し留め溜息混じりに小さく呟きながら部屋の入口に向かった。
言う程ガーネ自身も精神年齢がそこまで高いわけではないために、わかりやすく隠し事をされて普通に面白いはずもなく、ただ自分のプライドもありそれを口にすることもなくいっそ距離を取ろうとドアノブに手を掛けた。
ディアマントが慌ててガーネの背中に抱きつき小さな声で「いかないで」とこぼしたところになんとなくきゅんとしたのは否定しないが、それとこれとは話が別である。
どうしたものかと思っていた所で、ドアがノックされた。
ガーネが丁度ドアノブを握っていたためにそのままガチャリとドアを開くと、ドアの向こうには侍女長がおり、腹部にディアマントの腕の回ったガーネと目が合い戸惑った様子で声を掛けた。
「あ、あの、陛下?準備整いました……ま、泣いていらっしゃいますの?」
「泣いておらぬ!」
「特務総監様!」
「泣かせてねーよ」
事実『泣きそう』にはなっていたものの、際どく泣いてはいなかったディアマントがむくれた顔でガーネを見上げて腕を掴んだ。
「行くぞ!」
「はぁ?今度はどこに」
「命令じゃ!!」
ディアマントに腕を引かれ、侍女長と共にディアマントの私室に近い小広間へと連れられた。
扉の前に立った侍女長がディアマントに目を向け、確認のために声を掛けた。
「陛下」
「うむ!開けよ!」
侍女長がディアマントの合図で扉を開くと、ガーネの視界にとんでもないものが目に入り軽い炸裂音がいくつか響いた。




