379話「懸念事項」
ディアマントは事前に報告書で確認をしていたとは言え、特務総監であるガーネからの直接言葉で示されると改めてその不穏感に思わず眉が寄った。
「ガーネ」
「はい」
ヘルソニアに名前を呼ばれガーネが顔を向けると、ヘルソニアも同じように少しだけ渋い顔をしていた。
「私と陛下は一応報告書では案件は把握しているが、今一度『特務として』均衡教徒とどういった対峙をしたのか共有しろ。特に魔女2名に」
「はい。…俺がこの案件に触るようになってからのものでよろしいですか」
「構わない」
「資料配布頼めるか」
ガーネが記録係の書記官に声を掛け、事前にまとめて準備しておいた資料配布を依頼した。各人の手元に資料が配布され、ガーネもそれを捲りながら掻い摘んで概要の説明を始めた。
「デカいところだけ。細々したのは資料見てください。最初は『表面上』禁書庫と呼ばれている王立大図書館に安置された呪具の障りによる呪いの伝播ですかね、記憶に新しい方も多いと思います。呪いの暴発で一般人数名が被害。これに関しては俺が直接、連中に『呪詛返し』で落とし前付けさせました。次が地方都市の警察署長、これは均衡教徒の中でも序列もローブも与えられていない下っ端の使い捨て。事件そのものは警察案件なので引き継いでいますが、この時は俺1人に対し教徒3名で分が悪いと判断し一般人救助を優先し取り逃がしました。その後ビーテン区の遺跡に赴き、異界異物の回収。これは『鍵の無いものを無理矢理こじ開ける』系のタチの非常によろしくないもので、禁書庫最深部安置済みです。俺も『こじ開けられて』比較的大変な目に遭ってます。その後特務として組織発足、当時統裁官として…つってもものの数ヶ月前ですけど、別の異界異物案件発生。この時初めて『序列持ち』と対峙してます。異界異物は回収してますが、敵に関してはこの時俺が左肩撃ち抜かれたせいで取り逃がしました。療養後に新聞コラムで喧嘩を売られ、特務引き連れて西のバウエル伯爵領地へ行きました。伯爵の弟が均衡教徒で、俺への毒殺未遂。こいつに関してはその場で『女王への不敬』で処断。ヴェルトラウリ区の国境防衛結界のこじ開け事件、泳がせ目的で監視のみで放置。休暇中に結界の座標に触った連中の観測対象が『俺』であることを確認し逆探知しましたが失敗。王都貧民街近くの廃劇場で異界異物確認、この時に俺の左肩撃ち抜きやがった教徒の捕縛に成功、尋問後処理済み。ビーテン区再調査実施、封鎖済みの南ビーテン遺跡に細工の痕跡確認。王都の結界基盤のある公園の結界杭に細工、この時に仕掛けた教徒はその場で処断。その後は俺の『魔力属性』を探る目的の侵入や細工が数件、3人に仕掛けられたのでこの連中は序列でもなんでもなかったので2名『盟約術』の試し打ちで処理、1名は女王への不敬で処断。外遊先の下見で向こうも下見だったらしい雑魚数名も処理、外遊先ゲルブ辺境伯領で序列3名下っ端20処理。うち序列2名のみ捕縛。帰路で捕縛した教徒の口封じに来た教徒8名処理。帰城後尋問し処理済み。陛下の王都散策に当たって、商店への通達などから漏洩した断片的な情報で暗殺計画を企てていた下っ端3名処理。王都散策当日の敵襲も全てその場で処理。後は細々とした単発の吹っ掛けだったりと読み上げるほどのものでもないので、こんな感じですかね。────これより前は、不穏な動きはあっても件数自体は1年に5、6件。ただ特務として発足して動いていない分のものになるので、警察資料と衛兵の記録、新聞などで洗い出した情報になるので若干不確かです。この1年でこれだけのデカさの案件で仕掛けられているのに、2ヶ月ほど前から一切何も起きていない。地方も含め『1件も』です」
ここまでを一気に喋り終え、ガーネは手元のグラスの水を一口飲んで改めてヘルソニアとディアマントへと視線を向けた。
ガーネの懸念の意味がわかっているのか、二人とも渋い顔で資料を見つめていた。
「……『特務総監』、よろしいですか」
「はい」
少しざわついていた室内が、リエーブの声で一気にしんと空気が冷えた。
ガーネはリエーブに対し仕事の顔を向け、何を言われるのかと続きの言葉を待った。
「敵の狙いは、…この資料だと明確に『貴方』と取れますが」
「言わずもがな俺です。…根拠は言わなくてもわかるだろ、『リエーブ』」
「そうですか」
リエーブはガーネの返答を受け、資料を持つ手に力が入り紙にくしゃりと皺が寄った。
『こう』なるのがわかっていたから、力を封印していたのに。
封印をしていても結果『こう』なってしまい、だったらもっと、してあげられることがあったのだろうかと眉を寄せたリエーブを見て、アミュが口を開いた。
「ガーネ。おまえ、つよいのか」
「弱くはないとは思うけど。ただ、資料にもある通り俺は何回か普通にやられてるし、直近普通に死にかけてる。まぁこれは均衡教徒でもなんでも無く俺自身のせい?みたいな感じも否めないけど。ついでに言うけど、肋はくっついたばっかだし体重6kg落ちたのはまだ2kgしか戻せてない。今の俺は正直あまり使い物にならない」
「なら、むだじにして、たましいアミュにくれる?」
「ははは、…そこのむくれた顔して睨んでる女王サマに聞いてみたらどうだ」
「ディアマント。ガーネのたましいアミュもらう」
「駄目じゃ!」
「…で、『律衡家として』の話に移っていいですかね。特務側でのご質問は他ないですか」
一応と言った形で周囲を見回し、特に挙手も発声もないことから特務として提出した資料を雑に机に置いて改めて口を開いた
「ではここからは『律衡』の立場で。改めて、律衡家当主として家督の承継を済ませたため現行当主としてお話させていただきます。先代が死亡したのは俺が4つの時なので16年経過していますが、その間の運用は筆頭分家であるハルマニーエ家の管理でした。が、これもご存知の方は多いと思いますがハルマニーエ一家全員の逮捕案件に発展し、筆頭分家の権利の剥奪と、逮捕と同時に家宅捜索も行っています。その際ことのついでに俺の方で色々調べましたが、形式上の律衡運用はしてはいたようですが管理が杜撰過ぎて情報が辿れない箇所が多すぎる。なので当代で昇格させた筆頭分家、インテグリータ家に履歴含め調査をさせている最中です。それとこれは教会側の判断も仰ぎたい案件にはなるが、ウチの敷地にある『フロースト神殿』。これは『今は使われていない古い祝祷教の施設』と資料にあったが、中はどう見ても祝祷教の施設ではなく邪教由来のものと判断する」
「…ボクもフロースト神殿は『祝祷教の施設』という認識だったが、具体的に特務総監殿はなにをもって『邪教施設』と判断したのかな」
王都中央の祝祷教の代表大司祭、ドワーフ族の男は少し短い手を伸ばしてガーネに質問をした。
「生贄です。神殿内部、奥に首切り台と血を流す排水溝、焼却炉、祭壇があった。聖女にも『偶像崇拝や生贄の歴史はない』と確認済みだ」
「……成程。我々祝祷教が、邪教の隠れ蓑にされている可能性もあるということか。わかった、ありがとう。ボクの方でも調べよう」
「ありがとうございます。ただし、人は選んでもらいたい。先の聖具盗難事件のような聖職者が紛れているともわからない」
「そうだね。わかったよ、ありがとう特務総監殿」
柔和な笑みを浮かべた大司祭はおっとりとした口調でガーネに返答し、ガーネも小さく頷いて周囲を見た。
「ご質問も特に無いようですので、俺からは以上です」
「うむ、では次に魔導師長」
「はい」
ガーネが着席し、魔導師・巫術官・衛兵と順に報告を並べ、この日は特に何かの結論を出す日では無いため夕方過ぎにこの日の評定を締める運びとなった。




