377話「同い年」
「ガーネ様、参りましょう」
「え、どこに。なにに」
エナがガーネの腕を掴み小食堂広間へと促した。
「まあ、お聞きじゃないんですの?私たちにお祝い膳を陛下がご用意くださったんですよ。なので同い年みんなで昼食会をいたしましょうと」
「めんどくせ」
「いいから行きますわよ!こうでもしないと貴方、すぐお食事抜くんですから!」
「俺同い年の知り合いお前しかいないし」
「みんな同い年ですわ!」
半ば無理矢理広間に押し込められたガーネは渋々といった様子で席についた。一応気を使ったのかエナがガーネの隣に座ったものの、同じ卓の顔ぶれはものすごく気まずそうな顔をした。
庭師の息子の庭師見習いに、エナと同じく侍従の娘の侍女、厨房の料理人見習いなどそれぞれ職務は全く異なるものの同い年なのかとガーネは妙な感心を覚えた。
しかし周辺は真逆に、ガーネの肩書や職責の重さ、家格の重さに『同席する畏れ多さ』と『同い年という違和感』に苛まれたような顔を見せるも、ガーネはそれに気付きつつ無視をして料理を眺めた。
「エナ、なんか草とか葉っぱが多いんだけど」
「これはレタス、こちらはほうれん草です。草でも葉っぱでもございませんわ。なにお飲みになります?シャンパンですか?皆様もせっかくですのでシャンパンでよろしいでしょうか」
「俺は水でいい、この後評定がある」
「かしこまりました」
エナがガーネの世話をいつもの癖で焼きながら同卓のメンバーの飲み物を確認して給仕に依頼をした。
「ではガーネ様、代表して乾杯のご挨拶をお願いいたします」
「なんで俺が。一番ペラペラ喋ってるお前がすればいいだろ」
「もう!では進まないので、この後みんなお仕事もあることですし進めましょう。かんぱーい」
エナがにこにこと場を取り仕切るのを見て改めて『この性格は母親譲りか』と実感しながら嫌いな野菜をエナの皿に遠慮なく移し替えていった。
「ガーネ様!」
「俺は虫じゃないから葉っぱも草も食いたくない。あ、これもなんか辛そう。イラネ」
「見た目だけで選り好みはいけません!」
「うるせーな、飯くらい黙って食え。ついでにこっちなんか緑で苦そう、イラネ」
「ガーネ様!なんでたまに変なタイミングでIQ下がるんですか!」
「この黒いのなんだ。得体が知れないからイラネ。さ、静かに食えよ。さっさと食え」
ほとんどパンとスープと魚と数切れの肉くらいしかなくなった皿で満足そうに食事を始めたガーネを見てエナはぷりぷりと怒りながら食事をし始めた。
普段の『怖い特務総監』しかガーネの顔を知らない他の一同は、意外と子供っぽいガーネの様子に妙な親近感に似た何かを覚えはしたものの、今度はガーネの顔面偏差値の高さが気になって同い年として親しげに声を掛けるようなハードルが超えられないまま無言で食事をしていた。
「さ、食った食った」
「ほとんど召し上がってないじゃないですか」
「いいんだよ、腹一杯なったら会議中眠くなんだろ」
グラスに残った水を飲み干して早々に席を立つと、「じゃーな、お前ら同い年みたいだし仲良く飯食えよ」とよくわからない一言を残して出ていってしまった。
「……エ、エナさん」
「はい?」
「…特務総監様も、『同い年』…なんですよね?」
「ガーネ様、たまにIQ3になるので…」
廊下に出たガーネは評定の間に向かうエーリックとジェレイドの後ろ姿を見つけて声を掛けた。
「お疲れ」
「おー、新成年。立派だったな。改めて思うけどお前まだ成年前だったんだな」
「実はな。今祝い膳みたいなの強制的に食わされてきたけど食えるのほとんどなかった」
「部署外で集まって食事をするような機会もなかなかないだろう。楽しかったか?」
エーリックとジェレイドが成誓式後のガーネを見てそれぞれ声声を掛けた。ジェレイドに『楽しかったか』と問われたガーネは先程の昼食会の感想を思い返すように振り返るも、特にこれといった感想も無く素っ頓狂なことを口にした。
「なんか、みんな同い年だったらしい」
「…は?」
「同い年か」
どうにも脳みそが仕事モードになっていないガーネは眠そうに欠伸を漏らしながら自分で突っ込みを入れるように小さく漏らし、評定の間の入口前で3人揃って立ち止まった。
控えの近衛が3人を見て「お疲れ様です」と敬礼をし、名簿を確認してから入口を開いた。
外遊警備評定の時と同じように大きな楕円形の長卓が中央に鎮座し、部屋の奥に別の卓と椅子が並んでおり、その一部を書記官の記録用と侍従の評定進行用に確保するように資料や筆記用具が並んでいた。
上座は女王とヘルソニアが座し、その両脇は魔女と律衡家当主席というのが本来の席次であろうが、ガーネは立ち止まって少しだけ考えた。
既に着席しているヘルソニアを一瞥し、他の王城責任者もほとんど座っている中でガーネは周辺を見回して口を開いた。
「ヘルソニア様。俺どの立場でどこに座るべきですか」
「確かに」
ガーネの問いかけにヘルソニアも少し悩んだように腕を組み、未だ会場には来ていないディアマントが座る予定の席と魔女2名が座る席を見て「陛下に確認するか」とガーネに視線を向けるも、ガーネは首を振った。
「あの人、そんなこと聞いたら平気な顔して『なら妾の隣に座れ』とか言いますよ。あっちでいいですかね、衛兵総監と近衛総監の隣座ります。王城責任者席」
「まあ、良いだろう」
ヘルソニアもその光景が容易に想像が出来、面倒事は避けるかとガーネの着席する席を許可するとほぼ同じタイミングで、リエーブとアミュが部屋に入りガーネのほぼ真正面の席に腰を落とした。
やはりどこからどう見ても顔立ちが似ているリエーブとガーネに、過去律衡評定に参加したことのある侍従長と魔導師長、巫術官長は『嚆矢の魔女・リエーブは確か律衡家の前当主と結婚したのではなかったか』とうっすらとした記憶が蘇った。
その答えに結びつく直前に、改めて部屋のドアが開かれて一同は起立して女王ディアマントに一礼をして出迎えた。




