376話「成誓式」
成誓式が始まり、女王の短い祝辞を受けてから順に今年成年を迎える王城勤務者の名前が呼ばれ、女王の前に進み成誓の言葉を述べ記念品の授与を受け席に戻る流れ作業が始まった。
ガーネは退屈そうに周辺へと視線を投げ、ふと来賓席の魔女2人組に目が留まった。ガーネと同じように退屈そうに足を揺らしたアミュの膝の上で狐の尻尾がふわふわと揺れており、その隣でリエーブが感情の読めない顔で中央へと視線を向けていた。
「────…エナ・エレゲ・ルクシ」
「は、はい!」
ガーネの隣のエナの名前が呼ばれ、緊張した声で返事をして起立すると厳かな濃紺のロングワンピースの裾を踏まないように軽く持ち上げ中央の壇上へと上がり、ディアマントへと向かってカーテシーで頭を下げた。
「エナ・エレゲ・ルクシ。職務を違えず、民と秩序のため尽くすことを誓約いたします」
「励め、エナ」
「ありがとうございます、女王陛下」
ディアマントの激励の言葉とともに成年の誓約徽章を胸元に授けられ、再度カーテシーをしてから元の席に戻って来たエナは、着席と共に深く息を漏らした。
「き、緊張しました」
「ちゃんと出来てたよ」
緊張で顔を真っ赤にしたエナが頬を両手で押さえて呟き、ガーネはその様子を見て思わず小さく笑った。
「最後に、ガーネ・ディーム・ロット」
「は」
またトリか、と思いながら短く返事を返し、慣れた様子で壇上に上がりディアマントに一礼をしてからとてつもなく形式上という態度で誓約口上を述べるため口を開いた。
「女王陛下に忠を誓います」
「ふ、…期待しておる」
あからさま過ぎる形式ばった態度に思わずと言った様子で小さく笑いながら、ガーネにも他の新成年と同じように徽章を授けようとして一瞬手が止まった。自分が与えた肩書のせいで正装故に無駄に徽章が多く、どこにつけようかと少し悩みつつ空いている箇所に留めるとガーネは恭しく一礼して壇を降り席に戻った。
事前に『成誓式なんて出るつもりがない』『どうしても出て欲しいなら他と同じく『それなり』にしろ』と散々含めていたため、この見せしめ行事もこれで終わりかと小さく息を漏らして次の評定のことを考えた。
会場内も『今年も無事に終わったな』という雰囲気で祝いの拍手が湧き、少しして静かになったところで侍従が口を開いた。
「続きまして、家門成誓・職責成誓を執り行います」
「え」
話が違うとばかりにガーネが短く声を上げ、思わず壇上のディアマントを見た。ディアマントはガーネと視線が合い、『あれ、言ってなかったっけ』とでも言わんばかりの顔をしてすっとぼけたように肩を竦めたのを見てガーネは思わず顔が引きつった。
家門成誓とは貴族や旧家が『家』の一員として家と血統に誓うものであり、職責成誓は成人としての成誓に加えて、官職を背負う者として職責へ誓う儀であった。ただし、職責成誓についてはガーネのように若くして官職になる前例がほぼ無いため、一体どういう誓約口上を述べれば良いのかも含めガーネにとっては完全にぶっつけ本番の無茶振りも良い所であった。
だから嫌だったのに、と思いながら他の新成年の顔ぶれを確認するが、ガーネの記憶上今年の成年対象者は爵位持ちの家の出身は不在であった。
「なお、本年は対象は1名のみとなります。王命執行最高責任者兼異界対策特務局最高責任者、特務総監。グリーチェウト家当主。ガーネ・ディーム・『グリーチェウト』、壇上へ」
ガーネの心の内など知る由もない侍従の言葉で強制的に次の儀式が始まってしまった。
「…はい」
ものすごくふてぶてしい顔で返答をし、短く息を漏らしてから表情を整えて起立し、壇上へと上がった。
果たして一体どこの誰に何を誓うのかと考えながら中央に歩み寄り、一番当たり障りが無くかつ嘘もない口上で良いかとディアマントに対し膝をついて最敬礼の姿勢を取った。
「ガーネ・ディーム・グリーチェウト。グリーチェウトの名と責を継ぐものとして、家門の律を違えず、王国の秩序と民の安寧のためこの身を捧げます。王命を受けし特務総監として、職務を違えずいかなる時も陛下の御身のため尽力します。陛下の剣となり盾となり、我が忠誠は終生、ディアマント女王陛下へ捧げますことをここに誓約いたします」
そのまま真っ直ぐにディアマントを見つめると、ディアマントは薄く笑みを浮かべ手を差し出した。ガーネはその手を取り、手の甲へと口付けを落としてから額を軽く押し当てた。
「この忠誠の全てを、女王陛下へ」
「妾の犬として、今後も妾の剣であり盾であり、牙となれ」
「は」
ディアマントから儀礼用の記念短剣を授けられ、恭しく両手で受けてから立ち上がり、最後に一礼して壇上を降りた。
その所作の流麗さに会場内は思わずしんと静まり、少し遅れて拍手が響いた。
ようやく成誓式の式次第が全て完了し、ガーネは再び疲れた顔で深く溜息を漏らして椅子から立ち上がった。
どちらかと言えば気が重いのは、この後であった。




