373話「アンサー」
夕食会冒頭のちょっとした緊張はあったものの、その後は特に問題も無くそれぞれが談笑し、料理を口にし、酒を飲んで楽しんでいた。
ディアマントは相変わらずガーネの傍から離れようとせず、ガーネもあしらうこともなく隣に置いてエーリックやジェレイドと雑談をしたり他の責任者と会話をしていた。
どちらがどちらを侍らせているのかもはやわからない状態ではあったが、王城責任者の中ではほぼ『暗黙の了解』のように扱っていた。
実際に2人の交際関係を把握しているのはヘルソニアと特務の他エーリック、ジェレイド、侍女長、女官長、魔導師長、巫術官長のみではある。しかしどこからどう見ても『そう』としか見えない距離感に、ガーネ以外は全員20歳を大きく超えた大人ばかりであるためうっすらと察してはいた。
少ししてようやく会話が途切れたガーネは近くのソファに腰を下ろし、女王が冒頭で無礼講のようなことを言っていたのを良いことに首元のネクタイを緩め深々と息を漏らした。
「あー、疲れた。腹減った喉乾いた。…カルセ、なんか適当に俺の飯と飲み物取って来て」
「かしこまりました、『いつも通り』でよろしいですか?」
「任せる」
ディアマントも当然のように隣に座り、侍女長が持って来た皿をローテーブルに置いてからグラスのシャンパンを飲み小さく息を漏らした。
「お前も俺の傍ばっかいないで仲良いのと話して来ればいいだろ。あ、友達いねーか」
「なんと無礼な男じゃ」
「はは」
少ししてローテーブルにオレンジジュースとパン、スープ、ローストビーフ、白身魚のパン粉焼きや魚介のポワレ、カルパッチョなど、ガーネが好まないもの以外かつそこそこ口に出来るものが綺麗に盛り付けられていた。
「ガーネ様、好き嫌い多すぎましてよ。せっかくのお料理なのに選択肢がほぼありませんでしたわ」
「あとでなんか食うから今はこれでいいよ。ついでにスメイラ呼んできて」
「かしこまりました、お待ちください」
カルセが一礼して下がって行くと、ディアマントはシャンパンの入ったグラスをガーネに差し出した。
「お前が今日一番疲れたであろうな。ご苦労」
「ありがとうございます」
オレンジジュースの入ったグラスを差し出し、ディアマントのグラスよりやや下げて合わせてからグラスに口を付けた。朝から水を数口とサンドイッチ一切れで過ごしていたため、一気に煽るように中のジュースを飲み干したタイミングでスメイラがガーネの傍に来た。
「陛下、夕食会お誘いくださいましてありがとうございます。特務一同楽しませていただいております」
スメイラが特務を代表してディアマントに礼を述べ、ディアマントも感心したように小さく頷いた。
「ガーネは若い癖に『こういうところ』はしっかりしておるな。特務も今日は一日ご苦労であった、存分に飲み食いせよ」
「こういうところってなに」
「礼を尽くすところじゃ、特務室で妾に礼を言うように言っておったろう」
「当たり前でしょ。そういうのが出来ねぇと他部署の責任者やら他の貴族やらに『躾のなってない礼を欠く小僧』扱いされるの俺なんだよ」
「で、ガーネくん。朝の件?」
「おー、よくわかったな。忙しくて報告聞けてなかったから」
朝の件と言われ、ディアマントはガーネがバルコニーでの顔見せの際に警戒を促した男の件かと一緒に耳を傾けた。
「均衡教徒の呪符はなし、衛兵の二番隊長さんの取り調べで単純に『新年早々目立ちたかった』って供述してたみたいで、警察引き渡し済み」
「まじか、くだらねー。サンキュ、…ついでにジュースおかわり持って来て」
あまりの動機の程度の低さに思わず呆れた声を上げながら空になったグラスをスメイラに手渡した。呆れた顔のスメイラが近くの給仕に声を掛けてグラスを手渡し、ガーネのところにオレンジジュースを配膳するように依頼してから空気を読んでその場を立ち去った。
そろそろ宴も酣、といった頃合いになると、自然とディアマントが締めの口上を述べるタイミングを図るようにちらちらと視線が向けられ始めた。
長かった一日がようやく終わる安堵感と、一日ガーネを隣に侍らせていた充足感、ガーネを見せつけられた満足感と、素直にまだ一緒にいたいという不完全燃焼感にディアマントはやや疲れた顔のガーネの横顔を見て声を掛けた。
「ガーネ」
「あ?なに。まだなんか飲む?そろそろ水にしとけば」
「そうではない。あとで妾の部屋に来い」
注目の集まる中でのディアマントのある意味大胆過ぎる『お誘い』に、一瞬だけどよめきが起きてすぐにしんとした。
「なに、命令?」
ガーネも周囲の空気感に気付きつつも敢えて茶化すように返答し、ディアマントは小さく頷いた。
「命令じゃ」
「フーン。俺明日公休だし、泊まっていいなら行ってもいいけど」
「構わぬ」
「そ、じゃあ後で行く。さっさと締めろ」
2人の関係について完全に『答え合わせ』が出来てしまった空気の中で、ディアマントは立ち上がって簡単に締めの口上と「まだ飲みたい者は好きに過ごせ」と告げ、湯浴みや寝支度のために侍女長とともに下がっていった。
ガーネはその後姿を見届けてから立ち上がり、揃って退場しようとする特務の元に歩み寄り「まだ飯入るやつ、ラーメン食い行こうぜ」と雑に声を掛けて共に会場である広間を出て行った。




