365話「新年拝賀式」
暇な特務と相反してなんだかんだとガーネ1人が多忙に過ごす中、あっという間に年末を越して新年となった。
「新年に際し、陛下の御前へ賀を奉ります。王国と王城の安寧、ならびに陛下の御威光が、本年も変わらず国土を照らされんことを。特務総監ガーネ・ディーム・ロット以下、異界対策特務局一同、本年も陛下の剣として職責を全うすることをここに誓います」
特務を引き連れ騎士服を纏ったガーネが、特務の長として女王ディアマントに新年の挨拶を述べ、特務一同共々と敬礼をした。
「うむ。お前たちの忠勤、今年も期待しておる。 王都と民、そして王城の守護、変わらず任せるぞ」
「は。……お前ら、下がれ。配置につけ」
「ふ、相変わらずお前の『建前』と『外面』は目を見張るものがある。ガーネよ、妾の犬として今日はずっと妾の傍におれ」
「御意に、女王陛下」
新年早々、『新年拝賀式』として一日忙しない予定である。
ガーネはすっかり『王室近衛騎士』としての姿も板につき、ディアマントの隣にいるのも当たり前のように過ごしていた。
この日はこの後、王城バルコニーへ出て民衆への顔見せをした後、貴族や来賓の拝謁対応、昼過ぎに昼餐会、その後個別謁見や年始の挨拶対応、王城責任者と一部その配下が集まっての夕食会。ディアマントもガーネも、この日は一日まともに座るタイミングも無さそうなほどにスケジュールが詰まっている。
「侍女長、陛下の着替えはどのタイミングだ」
「昼餐会前と、夕食会前ですわ」
「少し早めに下げさせる。陛下を休ませる時間を取らせろ」
「かしこまりました」
「ガーネ、ガーネ」
「なんですか陛下」
「今日の妾はどうじゃ!」
そういってディアマントはドレスの裾を翻してくるりと回ってポーズを取った。
白に金糸の繊細なレースがふんだんにあしらわれたプリンセスラインのロングスリーブのドレスに、編み込みで纏められたヘアスタイルとティアラを冠した姿。アクセサリーは、いつだったかにガーネが贈ったルビーの首飾りと耳飾り、ブレスレット。ブレスレットはガーネと『お揃い』のサファイアのものも重ね付けしていた。
「よくお似合いです。大変お美しゅうございます」
「なぜ今日はそんな外面じゃ!気に食わぬ!」
「はいはい。……そのルビー似合うじゃん。どこの男に貰ったんだ」
「ふふん、妾の犬じゃ!最高級のピジョンブラッドじゃ!」
「可愛いじゃん。随分目利きの出来るセンスのある男だな。なぁ?侍女長」
「ええ、陛下のためにお作りになられたのが手に取るようにわかりますわ。さぞ陛下のことをお慕いしていらっしゃるんでしょうね」
そこまで言われてすっかり機嫌の良くなったディアマントは、満足そうにガーネの肘を取ってバルコニーへ向かう回廊を歩いた。
「……おい、俺は毎回毎回公式公務の度にこうやって小娘の機嫌を取らないといけないのか」
「そこはガーネくんの腕の見せどころじゃないのかな」
「ざけんなよスメイラ。……特務の配置と、合図の確認」
「はいはい」
「陛下、いつもよりヒール高いんだから足元気を付けて下さいよ。……なんで今日そんな高い靴履いてんだよ」
「バルコニーのお手振りですから、特務総監様の身長に合わせましたわ。お顔見せのあとは玉座でお座りになれますのでよろしいかと」
「お前の背が高過ぎるのが良くないのじゃ」
「小せぇよりいいだろが。大体、自分で言うのもなんだけど騎士の選考基準ってそういう『見栄え』も入ってんじゃねーのか」
「入っておる」
「なら選んだお前が悪いな」
軽口を言いながらスメイラが窓の外を眺めガーネに『異常無し』の合図を送ったのを確認し、侍従がバルコニーの扉を開いた。
この数ヶ月で露出の増え始めた女王の姿に、民衆の歓声が大きく上がった。バルコニーの正面に立ったディアマントがにこやかに笑顔を浮かべて国民に手を振る半歩後ろに控えたガーネは、特務だけでなく衛兵や近衛の配置にも視線を向け左手を腰の剣に添えた。
「スメイラ、第3区画の右後方の金髪の男。年齢は30代半ばの黒い外套に白のズボン、身長175前後、小太り。何か持ってる、警戒させるように合図送れ」
ガーネの数歩後ろに控えたスメイラが指示を聞いて小さく頷き、事前共有通り伝令役の衛兵にそれを伝えて走らせた。
「……ガーネ、なぜわかる」
ディアマントは表情を変えないまま絶えず歓声の中民衆に手を振りながらガーネに問いかけると、ガーネも顔を変えないまま短く返答した。
「警官センサーですかね。視線含め挙動が怪しいのと妙に懐に手を出し入れしてる。職質するには十分だ」
「ふん、犬の嗅覚というやつか。随分目が良いな」
「視力は両目とも2.0なんで」
『陛下』や『ディアマント様』と、ディアマントへの歓声が大きく湧く中に混じって『ガーネ様』や『騎士様』『特務総監様』とガーネを呼ぶ黄色い声が明確に混じっていた。
「よ、呼ばれておるぞ」
「俺だけじゃなくて近衛総監も呼ばれてるでしょ」
やや引きつった声のディアマントをあしらうように『ジェレイド様』と呼ぶ黄色い声を拾い上げて返すと、同じくバルコニーで護衛に立っていた近衛総監であるジェレイドはあからさまに顔が引きつった。
「き、君は」
「お前はほんと顔に出るなジェレイド。仏頂面出来ねーのか」
「仏頂面は君だけで十分だガーネ」
「俺はいいんだよ、見せつけの抑止力・威圧の護衛だからな。お前みたいな優男面下げてこの女の隣に立てるか」
「なぜ唐突に矢面に立たされて唐突に私はディスられているのか」
「お前がそこにいたからかな」
観衆から名前を呼ばれたジェレイドは少しだけ引きつった顔のまま手を振り返すと一層黄色い悲鳴が一部から上がり、ガーネのファンの女性陣が負けじとガーネに向けて黄色い声を張り上げていたがガーネは微動だにせず警備の目を民衆へと向け続けていた。




