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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第六章『兆候』

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35話「祝福と軽口」

御者が馬車の点検を終え、異常がないことを確認し旅は再開した。

「いやぁ、それにしても…ガーネさん?ガーネ君?強いですね」

「お前は殺す一生許さない」

「え、褒めたし助けたのに…なんでぇ…」

「まぁまぁ。ほら、飲尿療法って昔流行ったじゃない。大丈夫だよ」

「フォローになってねぇんだよスメイラ!もっと優しくしろよ!」

ガーネの左腕にある痛々しい噛み跡に、スメイラは容赦無く持参した酒を振りかける。

「夜に飲もうと思ったのに」と小さく文句を言いながら、手際よく消毒を施した。


「傷が深くなくてまず安心した。縫ったりするほどじゃないね。それにしても、いくら魔獣相手とは言えあまりの容赦の無さに引いたよ。助けてもらっておいてなんだけど、君…人の心持ってる?犬なの?」

「犬というよりゴリラじゃないですか?スメイラさん」

「もう二度とお前らのことは守らない」

妙に調子に乗ったような言い方のサイフィルにガーネはぶん殴りたくなる衝動を抑えつつ、手当てされたばかりの左手を軽く握ったり開いたりして感触を確かめる。利き腕ではなかったことも幸いし、この程度であればこの頼りない二人と御者を警護することに支障は出なそうだろう。不意に、左手の親指に仰々しく収まった指輪にサイフィルの視線が注がれる。


「……二人とも、いや、特にガーネ。愛されてる」

「は?なにお前」

まだ先程の『新婚旅行』の延長なのかと、ガーネとスメイラは怪訝そうに目配せをする。

「二人ともすごい祝福の持ち主だね。でも、特にガーネのはすごい。それこそ『複数の世界に愛されてる』ような祝福の絡み方してる。僕、結構鑑定士としては界隈で有名なんだけどさ、目利きには自信しかないんだ。その僕の目でも君たちの祝福の正体は見れない。こんなの初めてだよ。なんなら祝福が反転して呪われてるみたいなレベル、すごい」

「そんなご大層なすげーこと、起きたことないけど」

「私も」

サイフィルは「うーん」と小さく唸りながら二人を凝視する。そしてその視線はガーネの手元と、スメイラの胸元に一瞬だけ注がれ、無意識に彼も自分の口元を押さえた。

「ま、何かよくわかんないけど、何かの祝福か何かの加護が絡んでるから、ちょっとのことじゃ死なないよ。現にさっきのガーネの魔障も、普通の人間ならほぼ即死レベルの瘴気なのにピンピンしてたし。元々魔力とか霊障とか、そういうのの影響受けにくい体質なのもあるのかな…?」

「何か何かって、抽象的過ぎて全然わかんねーよ」

「とにかく、そういう装飾品には『意味』と『想い』があるんだ。何なのかはよく見えなくて申し訳ないけど、悪い気配は感じない。大事にしたらいいよ」

そう言ってサイフィルの視線が、ガーネのピアスと指輪、スメイラの結婚指輪とネックレスを順に辿る。

最後に「僕も」と言って舌先を出した際に、サファイアの舌ピアスが輝いているのが見えた。


「それより…」

会話が一区切りしたところで、ガーネは平坦な道を進んで揺れが少ないうちにと上着の下でショルダーホルスターに隠していた拳銃を取り出し、残弾数を確認する。

どうにも、魔獣の急な引きが気になって仕方がなかった。気配は近くには感じなかったが、魔獣使いが何か指示でもしたのだろうかと考える。

「げ、何この人銃まで所持してんの?物騒、怖い。ヤクザ?チンピラ…?」

「似たようなものだし安心していいよ、私もこの子ちょっと怖い。バカだし」

「お前らそれが魔獣から助けてくれた人間に言う言葉か」

一気に不機嫌モードに傾き始めたガーネを見て、スメイラがすかさず「ハイハイ」と鞄からチョコレートの箱を取り出しガーネに差し出す。

チョコレートを見て顔には出さないものの、雰囲気は明らかに不機嫌が解消された様子である。

ガーネはチョコレートを一粒口に放り込むと、窓の外に視線を投げた。


「…噂の『盗賊』?人数どのくらいかな。魔獣も全部仕留めてねーし」

「あの魔獣が魔獣使いに使役されてるのかも未知数だしね。…言っとくけど、私のことは戦力カウントしないでよ。ペンより重いもの持てないから」

「そもそも期待してねーよ。それに下手に動かれるくらいならきちんと逃げるか隠れるかしててくれた方がよっぽど安心できる」

「……君、意外とそういうところだよね。なんか、なんとなく納得」

「そういうところってどういうところだよ」

「わかんなくていいよ」

スメイラが珍しく小さく笑ったところで、サイフィルは改めて正面のガーネを見つめた。

「というか僕、ガーネが強すぎて引いたんだけど。戦闘狂?」

戦闘狂、と問われガーネは一瞬だけ視線をサイフィルに戻す。

何もわかってねーな、という呆れを含んだため息を小さく漏らしてガーネは口を開いた。

「ちげーよ。俺だって戦わずに済むなら戦いたくねーよ。普通に消耗するし、怪我だってしたくねーし、死にたくねぇもん。…お前こそ、格好だけやたらとイカツイけど戦えねーのか」

衣服を褒められたと勘違いしたサイフィルは得意気な顔で自信たっぷりに親指を立てる。

スメイラはほんの一瞬、その姿に勘違いと期待を孕んだ目を向けるも、すぐに考えを改めることになった。

「任せて。僕、鑑定することと好き嫌いが一切無いこと意外何も出来ないからさ。遠慮なく、安心して僕のことも守ってくれガーネ!」

「図々しくて馴れ馴れしいなお前。金取るぞ」

ガーネの機嫌が再び悪くなり始めたところで、すかさずスメイラは会話に割って入る。

「ところで君、相乗りしてまでどこいく予定だったの?すごい必死だったけど」

「僕?南ビーテン遺跡です。鑑定依頼がありまして」

「あれ、なんだ。じゃあ私たちと目的地一緒じゃない。ちょうど良かったね、ガーネくん」

「俺の目的地は遺跡じゃなくてその手前の湖なんだよ!」

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