362話「プリン」
「ガーネ、プリンは好きか」
「まあ嫌いじゃないけど。どっちかっつーと好き」
「た、食べるか。…持って来た」
妙に含みのある物言いをしたディアマントに小さく首を傾げながら身体を起こそうとするも、熱が出たせいか身体が気怠く、まさか恋人とはいえ女王に身体を支えさせるなど出来ず少しだけ考えて口を開いた。
「じゃ、少し食うかな。それ鳴らして」
ガーネは枕元の魔法鈴を指差し、ディアマントがそれを鳴らすと少ししてからラズリが部屋に来た。
「なに、起きた?」
「プリン食う。ベッド起こして」
「はいはい。ついでに熱測って」
ラズリの介助で身体を起こしたガーネが体温計を脇に挟み、顔を凝視するラズリと視線が合った。
「………なに」
「アンタら、こんなとこでいかがわしいことしてないでしょうね」
「してねーよ、まだ」
「口紅ついてんのよ!防音だからって好き勝手しないでくれる!?自分の身体の状態考えなバカガキ!」
「だからしてねーよ、まだ。キスしか。…『防音』か、フーン。………へぇ」
ラズリがぎろりと睨みを利かせてから改めてガーネとディアマントを一瞥し、ベッドを起こしてから念押しするように腕を組んで口を開き、そのまま部屋を出た。
「盛るんじゃないわよ」
「がんばります」
「ガーネ、さかるとはなんじゃ」
「お前は知らなくていいんだよ小娘が」
また自分のわからない単語で蚊帳の外にされたと少しむくれた顔をしたディアマントは籠の中からプリンの入った瓶を取り出し、小さなスプーンと共にガーネの前のオーバーベッドテーブルに置いた。
妙に鬆が入ったプリンを一瞥し、ガーネは先程の含みのある言い方をしたディアマントを思い出して視線を向けた。
「どうしたんだ、これ」
「つ、……作った、妾が。……あまり上手に出来なかったが、材料や工程は料理長が見ていた故問題ないと思う…」
少し不安そうに視線を泳がせたディアマントは、自分でも自覚があるらしく相当に見た目が不格好なプリンを改めて見つめた。
ガーネは思わず額を押さえて深々と溜息を漏らし、ディアマントはビクリと肩を揺らした。
「……一応、料理長が手本で作ったプリンもある。こちらの方が美味しい、お前はこちらを食べよ」
「は?やだよ。俺こっち」
即答して少し見た目の悪いプリンの瓶を手に取り、ガーネは少し考えてそのままスプーンと共にディアマントに手渡した。
食べる前から突き返されたのかと若干ショックを受けた顔のディアマントに向き直るように少し無理をして体勢を変えたガーネは、熱っぽい潤んだ目を向けてディアマントを見つめた。
「ディア、食わせて」
「へっ」
「ほら」
強請るように口を開けたガーネを見て、本にあった『恋人はあーんで食べさせ合う』だと思い出したディアマントは一気に顔を明るくしてスプーンで一匙プリンを掬い、ガーネの口元に運んだ。
咀嚼するほどのものでもないためそのまま口の中で味わい、口内に広がる甘さを堪能してから喉を通過させた。
「ど、どうじゃ」
「めちゃくちゃ美味い」
「せ、世辞ではないのか」
「まずいときはまずいって言うって言ってるだろ。まぁ強いて言うなら蒸しすぎて固いけど、俺固めのプリンの方が好きだしそれはいい。あとはカラメルはもっと苦くなくて甘いヤツのが好きだから次はもっと甘めのカラメルで作ってくれたら尚いいくらいか。美味しいよ」
嬉しそうにディアマントの顔が明るくなり、二口目も掬ってガーネの口元に差し出した。
ガーネが口を開けて頬張る姿に、ディアマント自身妙に母性本能に似た何かを覚え次々とスプーンを差し出した。
あまり食が進んでいないとは聞いていたが、問題なくプリンを完食したガーネを見つめてディアマントはしみじみとガーネの名前を呼んだ。
「…ガーネ」
「なんだ」
「お、お前……可愛いな」
「…………はぁ?」
唐突に可愛いと言われたガーネは、意味がわからなそうに眉を寄せディアマントの顔をまじまじと見た。
「なに、藪から棒に」
「なんだか妾、今とてもお前が可愛く見えた」
「お前さ、男にあんま可愛いとか言うもんじゃねーぞ。まして俺はそういう属性を売りにしてねぇんだけど」
「可愛いは嬉しくないのか。妾はお前に可愛いと言われると嬉しいが」
「可愛いのはお前だけで十分だろ」
ベッドの上をぽんぽんと叩いて座れと促し、ディアマントは素直にガーネの傍に腰を下ろし直した。
そのままディアマントの細い腰に腕を回し、少し強引に抱き寄せて首元に顔を擦り寄せて匂いを嗅いだ。
ものすごく久しぶりに感じる嗅ぎ慣れた香油の甘い香りに、言いようのない安堵感と身体が疼くような感覚に抱き締める力が強まった。
「…ガーネ」
「…んー」
「……?ガーネ?」
「……」
「ガーネ!?」
起こしたベッドに凭れて寄りかかるガーネの吐息と肌が妙に熱く、ディアマントは妙な期待感に似た何かに少しだけ身体を強張らせた。しかし、がっちりと抱き締めた腕は離れる気配も見せず、挙句小さく寝息のようなものが聞こえてディアマントは困惑したように名前を呼んだ。
背後から抱き締めるガーネの様子を確認しようと顔を向けるも、首元に擦り寄られているためにそれ以上見ることができない。
恐らく寝ていると思われるが、相変わらず力が強く身動きが全く取れず、ディアマントはどうしていいかわからずにそのまま数十分身動きが取れずに過ごす羽目になった。




