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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第六章『兆候』

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33話「デジャヴ」

二日後、王都の駅前。

スメイラの仕事の目処を待って、駅前で待ち合わせた。

「輩か君は」

「輩じゃねーよ」

女王の執務室や、噂で聞いた限りの女王の名代っぷりをまるで感じさせない座り姿にスメイラは思わず引きつった顔で声を掛ける。

しかし、周囲から僅かに聞こえる女性の黄色い声に、スメイラは『そういう事』かと察した。

「というか、今日は私服なの?」

「治安わりーとこ行くのにそんな格好してたら悪目立ちすんだろ、俺一人ならともかくお前もいるんだし」

「…ま、とりあえず行こうか。君のわがままで途中まで汽車で行く羽目になったんだから」

「いいだろ別に!そんなに所要時間変わんねーだろ!」

「二時間は変わるんだけど、鉄道路線は迂回路なんだから」

「さ、行こうぜ」

都合の悪いことを聞かないガーネがそそくさと駅構内に入っていき、スメイラは荷物を背負い直してその背中を追いかけた。


一等車両の個室に入り、隣に座るのも違和感があり二人は向かい合って腰を下ろした。

「すごいね、さすが女王様の犬。毎回一等車の個室?」

「普段はそんなことねーよ、移動だけだし。あ、でもこないだは寝たかったから席広い一等車乗ったか。個室じゃねぇけど」

「へぇ?」

聞いておいて適当な相槌を返しながら、スメイラは鞄から資料や筆記用具を取り出し個室内の備え付けの机に広げ出した。

「…仕事片付けて来たんじゃねーのか」

「片付けたよ。でも仕事してないと落ち着かなくて」

「フーン」


ガーネは動き始めた景色に目を向け、なるべく遠くの方を見るように視線を投げた。

汽車の揺れる音と時折聞こえる汽笛と、対して無言の個室内。


「お前と初めて会った時にさ」

「……うん?」

ガーネの問いかけに、スメイラは手を止めて顔を上げた。彼の視線は未だ窓の外に向いており、視線が絡むことはない。

普段であれば、声を掛けるときは基本的に相手の顔を見る男だった。スメイラは無意識にペンを置き、軽く転がるような音とともにガーネの視線がゆっくりとスメイラに向けられた。


「……なに」

「前世、って話し。してたじゃん」

スメイラの指が僅かに震える。乗車前に買った飲み物へ誤魔化すように手を伸ばし、プルタブに指を引っ掛けた。

「したっけ」

ガーネからの視線が妙に冷える。細められた目と、窓から差し込む光の加減か、腕組みしたガーネの肘の辺りで主張する指輪が微かに光る。有無を言わさぬような逃げ場のない圧に、スメイラは少しだけ視線を泳がせた。

「…私、は……正直、夢が怖くて、あんまり寝ないようにしてるから…でも最近はあんまり見なくなったけど。夢、ってさ自分の意思ではどうにもできないじゃない」


元々、どちらかというとそんなに寡黙ではなく見た目の割にそれなりに喋る方ではあったが、核心に触れない時のスメイラは妙に饒舌だった。

その『癖』にガーネは気付いており、敢えて相槌を打たない事で無言の圧をかける。

観念したようにスメイラが深く息を漏らすと、珍しく小さくか細い声でそれは告げられた。

「………隠してる、とかじゃなくて。はっきりしない。わからない。でも、……君に会った」

「…俺?」


ようやくガーネが口を開くと、無意識にスメイラの肩が揺れた。

喉の奥で唾を飲み込む。


この男には、得体の知れないところがある。単純に、見ていて時折怖くなることがある。だからそれに気付かないように、その彼と対峙しないように、彼を極力無意識に遠ざけていたつもりだったが、学者としての興味関心に負けた結果出立してものの数分で暗雲が立ち込める。

スメイラはゆっくりと目を伏せ、両手で力いっぱい握ったせいで少しだけぬるくなった缶コーヒーを一口飲んでから改めて視線をガーネに戻した。

「夢で、君を見た気がする。…正確には、私の夢に出てきたのはガーネくんではない、見た目は全然違う男。だけど、…初めて管理指定図書区域で君を見た時…夢の中の男の子だって、私にはわかった。でも、『君の前世は私は知らない』よ」

敢えて初対面の時に発したワードを用いて返答する。ガーネは眉一つ動かさず、スメイラの表情をまっすぐに見つめていた。

「まあ、かと言って…私が夢に見た自分と、たまに登場する君の『あの姿』が、前世なのかどうかははっきりわからない。だけどね、…夢の中の私は、酷く横着で、とんでもなく無精で、すごく怠惰な女だった。だから『ああなる』のが怖い。だから働いていないと、自分が壊れそうになる。それでいつか、そのせいで『誰か』を殺しそうで────怖い」

「……そうか」


ガーネは多少バツが悪そうに小さく返事を返すと、また再び窓の外に視線を向ける。

「…ちょっと寝る。着いたら起こせ」



*****



「え、やだ」

「やだとか言われても私も困るんだけど」

「乗り換えの汽車ねーの?」

「無いよ」

「どうやって行くんだよ!」

目的の駅に到着し、早速子供のように声を上げるガーネにスメイラは呆れたように目を細める。

駅で配布している周辺地図を広げ、指先で力いっぱい現在地を指し示す。

「馬車でとりあえず隣の村!さっきから言ってるでしょいい加減にして。村に着いたらそれで夜だし、そこで一泊。もう一回言うけど、目的地方面へは線路は続いていない!なんならここまで君のわがままで汽車に乗ってるからどちらかと言うと既に遠回りなの」

「歩こうぜ」

「君みたいな脳筋体力バカと一緒にしないで。私はか弱い女の子なの」

「クソババァ!俺に同行したいなら俺の言う事聞けよ!」


すぱん、と景気よく後頭部を叩かれたガーネはスメイラによって無理矢理馬車へ押し込まれる。

予定通り、村へ到着した頃には空はすっかり青が深くなっており、一番星が煌めいていた。


馬車を降りたガーネも、同じように真っ青になっていた。


「ごめん、そこまで本当に酔うとは想定外だった。まぁ、道悪くて私も少し酔ってはいるけど」

「……ゲロ出そう…」

「ここではやめてくれるかなさすがに。とりあえず宿探してくるから、待ってて。風にでもあたってて」

「うぷ」

「やめて!」


すっかり夜も更けた頃、宿で少し休憩をして幾分か体調の戻ったガーネとスメイラは村外れの料理屋で遅めの夕飯を取った。

「あんなに酔って、魔獣とか盗賊に会ったらどうするの道中」

「あ?とりあえずどっか隠れてな」

「そうじゃなくて」

いつもの調子で返すガーネの姿に、スメイラは無意識に安堵して彼の指輪にそっと視線を向ける。指輪の嵌った左手とは反対の手で、かしかしと皿の隅に器用ににんじんとピーマンを押しやる姿を見つけた。

「……君は子供か?」

「うるせーなお前こそ好き嫌いしてんじゃん」

治安の関係もあり、あまり外からの客が来ない村の飲食店。久しぶりの客ということで店主からサービスされた鳥手羽の唐揚げを、スメイラは手を付けない。

「私は好き嫌いじゃない。食べるのが面倒な食材と料理が苦手なだけ。骨外してくれたら食べられる」

「お前こそガキじゃん!」

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