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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第五章『洗礼』

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30話「忠を纏う」

「な、なんだこれはァ…!一体誰が…!」

無惨に破壊された鍵とドアノブに、すっかり空になった倉庫。内側からの破壊と逃走ではなく、外側からの破壊と脱走の手立ての気配に、署長は怒り任せに倉庫内の木箱やランタンを薙ぎ払って破壊する。

「誰が!俺が苦労して集めた女を…!」

「悪いな俺だよ署長さん」

「……!?」

振り返ると、Tシャツに黒のパンツ姿の赤髪の若い男。署長の目にはただの小チンピラのように見えたらしく、つかつかとガーネに歩み寄り感情を剥き出しに怒鳴りつけた。

「き、貴様かァ!!俺の苦労して集めた貢ぎ物を…!!」

「うるせーよ豚」

署長が喋り終わる前にガーネの左手が喧しく喚き散らす署長の顎元から両頬をギリ、と力いっぱいに握り締めていた。骨を圧迫して軋むような音に顎関節が砕けそうな程の激痛を受けてジタバタともがく署長の身体をガーネは雑に投げ飛ばした。

「いぎ!き、さま…!俺を誰だと…!」

「誰だとって?この街の警察署長さんだろ?どーも、お疲れ様です」

パンツのポケットにしまっていた自分の警察手帳をひらひらと署長の前にちらつかせながら倒れた署長の上に馬乗りになる。そして何かを言い返される前に一発強めの拳を容赦無く振り落として右頬を殴打した。

「ぎ、がは!ど、どこの管轄の若造だ!何者だぁ…!」

どうやらまだ言い返す元気だけはあるようで、この状況で妙に強気なのはやはり勘違いとはいえ例の邪教が背後にあるという慢心だろう。

ガーネはやれやれと呆れたように肩を竦めると、ゆっくりと立ち上がり肥えた署長の腹部を踏みつけにする。苦しそうに呻く声を聞きながらも、廃礼拝堂で署長が立ち去ったあとの執行者たちの会話から自分が最終的に手を下す必要はないだろうと判断し改めて手加減なしに鳩尾を蹴りつけた。

埃まみれの欲望の匂いが充満した小汚い倉庫の床でたまらず嘔吐する署長を冷ややかに見下ろし、ガーネは警察手帳をポケットにしまい直す。

「何者、ね…昨年度の警察学校首席卒業者、って言えばわかるかな?俺卒業の時表彰されてるし。……あ、悪いちょっと盛ったわ。座学はさておいてくれ」

蹲って腹を抑える署長の傍にしゃがんで視線を合わせる。

ガーネの経歴を聞いて、体術では絶対に敵わないことを悟った様子で怯えた目を向ける署長の前で、左手に嵌った指輪を見せつけるように翳して台座に鎮座するダイヤモンドをとんとんと指先で叩く。

「…ッ…!?」

浮かび上がった『女王直下』の証である特殊な紋様を見て、署長の顔面からは一気に血の気が失せていく。

「どこの管轄か、って聞いてたっけ。────可愛い可愛い、俺の女王陛下ディアマント様の忠実な『犬』だよ」




ふらつきながらも全速力で走って逃げていく署長の背中を見送り、ガーネはもはや追いはしなかった。

顛末は、なんとなくであるが想像がついていたからである。


「さて、と。……俺のリンチはあれくらいで充分だろ」

おそらく、廃礼拝堂でガーネが聞き耳を立てていたことは執行者達に気付かれていた。

連中の存在自体は『反女王勢力』として今の立場上始末をつける必要はあったかもしれないが、今回の事件そのものには邪教は無関係と判断した。それ故わざわざ危険を犯して対峙することもないと、向こうもガーネの存在に気付きながらも手出ししてこなかった以上目を瞑ることにした。

好きに動いていい、と言われている以上、今の軽装備でわざわざ立ち向かう必要はない。

ガーネは改めて警察署に向かうと、今回の一連の事件の捜査責任者を呼びつけた。昨日の事情聴取で『信用に足る』と判断したからである。

捜査責任者に宿に匿っている少女達の保護と事件の後始末を指示し、忙しなく夜が更けていった。



一方、署長は倉庫から逃走して自宅に逃げ帰っていた。

鍵のかかる私室に籠城し、ガタガタとだらしなく震えていると、どこから侵入したのか先程密会していた執行者たちが部屋の中にいた。

署長は小さく悲鳴を漏らすも、彼らが助けに来たのだと期待をして縋り付いた。

「わ、私を助けろ!…お、女ならまた見繕う!案ずるな私はこの街の警察署長だ!それに私は准洗礼を受けた特別な人間だ!は、はやく!はやく私を助けろ!!」

「……君に『帰依者』の立場は、まだ早かったかな?」

「────……は」

執行者の一人は先程彼の手から引き受けたシンボルマークの入った呪符を目の前に翳した。

これから正洗礼を、と勘違いに表情を緩めた署長の目の前で男の手の中で静かに炎を上げて燃え上がった。

「な、なん、…な…!」

「君は『正しいあるべき均衡の秩序』をまるで理解していない」

「お前は准洗礼を受けたことで何か大きな勘違いをしたようだが、そも、お前はたまたま波長があっただけの運のいい『器』に過ぎぬ」

「まあ待て、それは言いすぎだ。────『器』ですらない」


未だに状況を理解出来ていない顔の署長の目の前で、執行者の男の一人がすっかり灰になった呪符だったものに息を吹きかけた。灰は窓から差し込む月明かりに照らされてきらきらと反射し、署長に纏うように静かに落下していく。

「そ、…そんな…私は、…選ばれた存在で…」

「勘違い甚だしい。お前は選ばれてなどいない」

「機会を与えられただけに過ぎぬ」

「端的に言おう。我々の思想とは…相容れぬと。『偽りの秩序』と同じ思想である」


空気が一気に張り詰める。

流石にこの空気感は署長自身も察することが出来たらしく、死の気配を純粋に察知して悲鳴を上げながらその場から逃走しようとしたが、足が縺れてその場でだらしなく転倒した────。



*****



「悪かったな、結構無茶言ったわ」

「とんでもないことでございます!ガーネ様の働きあってこそでございます…!」

翌朝、ガーネは粗方の始末を付け終えて改めて宿屋の主人に礼を告げた。

ガーネの中では若干の不完全燃焼さはあれど、誘拐された女の子は全員大きな身体の怪我は無く命もある状態で家族の元に帰ることができた。心のケアは別途必要ではあると想像出来るが、それこそガーネの出る幕ではない。あとの一切は託してさっさと胸糞の悪い観光地を後にしようと寝不足と疲労と空腹でボロボロになった身体で駅に向かう。

不要だと断ったが、宿屋の主人と警察署の捜査責任者、ぼったくり飲食店の店主がガーネを駅まで見送りに来た。

飲食店の店主は「汽車の中でお召し上がりください」と弁当を手渡してくれ、ガーネは警戒がちに目を向けた。

「ぼったくり?」

「観光地価格でサービスですよ、はは。ま、ほんのお礼です」

「そ、じゃあありがたく」

「それにしても、聖女様に引き続き女王直下の使者の方までいらしてくださるとは…お陰様でまた治安のいい観光地のトーリステノートになれます」

「治安良くしたかったらぼったくりやめときな!価格設定おかしいから色々!………聖女?」

女王に与えられたお小遣いなので構わないかという気持ちもある反面、この街での想定外過ぎる出費になんとなくずっとドギマギし通しだった。我慢できず当たり前のような『観光地価格』に一刀のメスを入れながらも、耳馴染みのない単語に思わず聞き返した。

「ええ、聖女様がお見えになってお祈りをしてくださったんですよ。『必ず解決しますからもう暫くの辛抱ですよ』って。その三日後にガーネ様がいらして下さったので」


汽車の出発を知らせる警笛が駅に鳴り響く。慌てて車両に乗り込み、敬礼し手を振る主人達に会釈をして横になれるように取った一等車両へ向かう。

個室のドアを開け、酔い止め代わりに冷たい空気を取り込もうと窓を開いて流れる景色を眺めた。


「…聖女、な…」

トーリステノートの街を出て、ガーネはもらった弁当を開き、中のフルーツサンドに齧りつきながら小さく呟いた。

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