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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十九章『掌握』

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288話「辺境伯」

「カルセ、俺の剣持って来て」

「はい、かしこまりました」

「…珍しい。いつも剣なんか下げないのに」

カルセに対しての指示に、スメイラが珍しそうに呟いた。

「現場行くときは邪魔だからな。見せつけの護衛にはアレが一番わかりやすいだろ」

カルセが特務の武器庫から持って来た剣を腰に佩き、身なりだけ整えて特務室を出た。

昼過ぎ、ガーネは女王の執務室へと向かった。


「来たか。ガーネお前、食事は摂ったのか」

「いえ、まだです。後で適当にいただきます」

「…侍女長。ガーネに軽食を持って参れ」

「かしこまりました。特務総監様、サンドイッチでよろしいでしょうか」

「いらん」

相変わらず、視線だけが噛み合わないガーネに向かってディアマントは何かと世話を焼こうとする。侍女長もそれを汲んだ様子でガーネに声を掛けるも、侍女長とすら目を合わせずに短く返答をし、侍女長も少し困った様子でディアマントに視線を向けた。

「…し、しかし」

「これから護衛につくのに腹に何か入っていると邪魔だ。食わん」

「……かしこまりました」

警備上の理由を出されては、それ以上何も言えずに引き下がった。

実際、身辺調査ではガーネは比較的食は細く、まして普段の食事ですら『有事の際に身体が重くなる』という理由で腹6分目程度に押さえていると報告を受けている。

侍女長はディアマントを一瞥し、小さく首を振ってから下がった。


「……ガーネ」

「はい陛下」

「お前、普段食事はきちんと摂っておるのか」

「まあ、ラズリにどやされない程度には」

「ね、眠れておるか」

「普段と変わらずです」

「機嫌、…悪いのか」

「普通です」

「……」

「……」

少し踏み込んだことを聞いてやろうかとディアマントが悩んで口を開きかけた時、部屋のドアがノックされた。ガーネがドアを開けると、1人の近衛が辺境伯の到着と応接室への案内が完了した旨を報告して来た。

「そうか、ご苦労。事前通達通り、お前ら近衛は入口前で待機していろ」

「承知いたしました特務総監」

「陛下、ヘルソニア様。来たようです。ご準備を」

「ほら陛下。行きますよ。その小娘のような顔おやめになってください」



*****



女王執務室にほど近い応接室に通された、辺境伯トーパス。

悠然と足を組み、近くに控える側近に声を掛けた。

「なぁ、『あの男』は来るのか」

「恐らく。当領への外遊時の働きを評されて騎士叙任を受けているそうですので。先日の開庭招宴でも、近侍護衛を務めておりました」

「ふ、はは、そうか。楽しみだなぁ」


数分後、奥の扉が侍従によって静かに開かれ、トーパスは起立して側近と護衛とともに頭を下げた。

ヘルソニアが入室し、続けてディアマントが入る。

最後にガーネが入室し、女王の斜め後ろで半歩控えるように立っていた。

「面を上げよ。遠い所よく参った」

「陛下にお目通り叶いましたこと、恐悦至極に存じます。先の開庭招宴に参列叶わなかった非礼、どうかご容赦ください」

「構わぬ。状況は聞いておる。座れ」


その後数分は簡単に辺境伯領の情勢を踏まえた報告やごく軽い雑談を交わしていた。

ガーネは、辺境伯の連れている護衛の装備や体格、側近の視線の動きなどをいつもの癖のように注視しながら会話を聞いていたが、そろそろ締めかというタイミングでおもむろにトーパスがガーネに声を掛けてきた。

「ところで、『統裁官』殿」

「……はい」

「ああ、失礼。今は『特務総監』でしたかな。ご昇進、おめでとうございます」

「ありがとうございます。しかし特務総監は役職でして、統裁官としての肩書も残ってはおりますのでお好きに呼んでいただいて構いません」

「そうですか。それと王室近衛騎士に叙任されたと。先の当領での均衡教徒制圧、見事なものでしたからな。王城勤務になる前は、どこかの私兵でもされていましたかな」

「いえ、警察官です」

「配属はどちらだったのかな」

「ノードースト警察署、捜査局第一課異常強行犯係主任捜査官です」

「ほう、その歳で『主任』ですか。まだお若いと思っていましたが」

「飛び級で官職課程を出ておりますので」

「……陛下、優秀な男で何よりですね。陛下の身辺は盤石とお見受けします」

「うむ」

ディアマントとヘルソニアは、やや警戒するような目をトーパスに向けつつ小さく頷いた。そのままディアマントは背後のガーネを振り返るも、ガーネはトーパスをじっと見つめ目を細めていて、やはりディアマントと目が合うことはなかった。


「ところで陛下。堅苦しい謝辞ばかりでは、互いの人となりも見えませんのでな。王都滞在中に、諸卿を交えて軽い懇談の席を設けるつもりです。酒と遊戯も少し用意いたしますゆえ、陛下にもご負担にならぬ範囲でお顔を出していただければ幸いです」

「ふむ。よい、軽い懇談の席としてなら応じよう」

「特務総監殿とその配下の方々にも、ぜひ。王国の実務を担う方々とは、一度形式ばらぬ場で言葉を交わしてみたいと思っておりましたので」

「業務の都合がございます。私および部下は出席いたしません」

「特務総監殿の配下がどのような方々か、辺境の身としても興味がありましてな。…まさか、陛下の御前を離れれば特務は表に出せぬ、というわけでもありますまい」


────…この野郎。

ガーネは内心で舌打ちを漏らしながら、あからさまに『自分に』喧嘩を売るつもりの誘いに冷ややかな目を向けた。

「……特務の参加については、警護計画と職務上の都合を確認した上で返答します」

「構わぬ。連れて来い」

ディアマントがその場で特務同伴の許可を出すと、ヘルソニアもそれを受けて小さく頷いた。

「警護上の名目で同行させましょう」

「……では、特務も同行いたします」

ものすごく渋々といった様子でガーネが苦く返事をすると、トーパスは満足そうに笑った。

「それはよかった。では詳細はまた側近からお伝えさせていただきます」



執務室へと戻ったディアマントは、ソファに腰を落として深々と溜息を漏らした。

「本当に、あの男は何を考えておるのか昔からわからぬ」

「私も、貴女のお言いつけで『見張って』はいたんですが…貴女ではなく、ガーネに定めてくるとは、少し想定外でした。とは言え外遊の際から違和感はあったのですが」

「妾もそれは感じておる。ガーネを伴うこと、今回どう出るかじゃな」

ディアマントはソファの背もたれに身体を預け、視線を遠くに投げて窓の外をぼんやりと眺めた。

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