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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十九章『掌握』

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284話「贈答」

「……カルセ」

「はいなんでしょう、ガーネ様」

ガーネは糾弾昼食会の後から回らない思考をなんとか立て直し、無理矢理仕事に舵を切る。しかし、明確にいつものキレがない。そこに関してはガーネ自身も自覚があった。しかし、そうは言っても状況は止まるわけではない。

ガーネはカルセを呼びつけ、ちょこんと首を傾げた顔を見上げた。

「…一つ、仕事を頼みたい。聖職者のリストが欲しい。そこにお前が把握しているものとお前で調べられる範囲での、派閥とかどこの聖具店を懇意にしてるかとか、微妙な宗派みたいなのの違いとか。俺は祝祷教には興味が無くて、全くわからん」

「かしこまりました。いつまでに必要ですの?」

「なるはや、できれば3日以内に欲しい」

「承知いたしましたわ、すぐに取り掛かります」

「それとスメイラ」

「なに?」

「宮廷財務局に行って、俺の私費を引き出して来て欲しい」

そう言って机に自分の王城勤務者身分証とガーネ本人の資産証票、役職者用身分証と委任状・個人印章を差し出した。

「すぐ出たいから、出納申請書は代わりに書いて。用途聞かれたら俺の権限下の緊急対応用資金とでも言っておけ」

「わかったけど、いくら引き出すの?」

「あ?あー…そうだな。とりあえず一千万でいい。ちょっと出かけてくる」

官服を脱いだガーネはそのまま特務室を出た。

「…一千万『で』いいって言ったよあの子。とりあえず私も財務行ってきます」


ガーネとスメイラが席を外した十数分後、タイミング悪く出動の要請があり、事前に取り決めていた通りラズリとサイフィルで現場に向かった。

アメジとカルセが2人きりになり、室内は一気に静かになった。

「…それにしてもだけど、ガーネ様あんなにニブちんだったなんてねぇ」

糾弾昼食会のガーネの様子を思い出し、アメジが肩を竦めた。

「それだけ、いかにご自分のことに感心がないかということですわ。今回の件は『これ』でしたけれど、以前の更迭騒動の時もあの方、自分がかなりの高熱で発熱していたことも自覚なかったそうですし。わたくしたちも色んな意味で気を付けなければ、あの方危険ですわ」

「そうねぇ。それにしても想像以上にDV男だったわね。言われてみればそういう片鱗は全然あるか、って感じだけど」

「ご自分に向かない執着が、交際相手の女性に向くのでしょうか」

「あ、なるほどね。確かに」

二人とも話しながらそれぞれ仕事をしている中、書類や紙束を箱に移し終わったカルセが立ち上がり箱を抱えた。

「カルセちゃん、それなぁに?」

「昨日の開庭招宴の、余分に用意して使わなかった書類関係ですわ。破棄に回そうと思いまして」

「重いんじゃない?」

「ええ、まぁ…少し」

「なら一緒に行きましょ。あたしも持つわ」

「ですが、お部屋が不在になってしまいますわ…」

「じゃああたしが持っていくわ。ついでに売店行きたくて。で、カルセちゃんお留守番お願い出来る?」

カルセが少し悩んで、小さく頷いて箱を差し出した。

「重いですわよ」

「平気よ。じゃあ行ってくるわね」

「申し訳ございません、お願いいたします」

そうして再び、特務室内はしんと静かになった。1人きりになるとなんとなくものさみしいような、なんとも言えない気分になりつつカルセはヤカンにお湯を沸かし始めた。

湯が沸くまでの間に簡単に部屋を整えようと、布巾を濡らして絞ってそれぞれの机を拭いた。ガーネの机を拭こうとした所で、扉が申し訳程度にノックされて応答する前に開かれた。

「……ファルさん。どうされました?」

「いえ、昨日の開庭招宴『お疲れ様でした』とご挨拶に。うちの父も挨拶したかったみたいなんですが、あいにくと陛下と喋る時間も限られていたので。特務総監様のこと、父にも紹介したかったんですが」

にこりと笑ったファルの顔に、なんとなく違和感を覚えるカルセ。

差し出された王都内でも有名な菓子舗の紙袋を持ったファルが小さく首を傾げた。

「特務総監…いえ、『ガーネ様』はいらっしゃいませんの?うちの父から、ガーネ様宛にご挨拶のお品ですわ。まあ、彼が下賜したのなら皆さんのお口に入るかもしれないですけれど」

「あいにくですが、今離席しておりますわ」

「じゃあ、待たせてもらおうかしら」

「困ります、今わたくし1人しかおりませんので」

「……フーン?お1人、なんですか」

「?え、ええ」

「カルセさん、『また』留守番ですの?貴女、特務の中できちんとお役目果たせていらっしゃいます?」

「…え?」

ファルは再度にっこりと笑みを浮かべた。今しがた放ったトゲまみれの言葉を放ったとは到底思えない愛くるしい笑顔だった。

「私なら、貴女と違って役に立てますのに」


「……どうしたの?」

紙袋を抱えたスメイラが戻ってきて、入口前でのどこか不穏さを感じる様子に声を掛けた。

「スメイラさん、おかえりなさいまし。…えぇと…なんでも、ないですわ」

カルセはなんと説明していいかわからないような顔で曖昧に暈しながらファルの顔を見た。

ファルはいつもの人懐っこい笑顔のままスメイラにも声をかけた。

「昨日の開庭招宴、父がガーネ様にもご挨拶したかったと申しておりまして。代わりに私が挨拶のお品を持たされまして」

「ファルさんのお父様?あ、あぁ、確か子爵様でしたっけ」

「ええ、子爵ですわ。…あ!おかえりなさい、ちょうど良かったで、」

「スメイラ引き出せたか」

目当ての人物が戻ったのを見たファルがガーネに向かって声を掛けるも、ガーネはそれを無視してスメイラへと声を掛けた。

「う、うん。おかえり」

「入口塞ぐな、邪魔だお前ら」

入口で固まる女子3人の脇をすり抜けて室内に入ると、スメイラが追いかけて室内に入った。

官服を羽織ってから自席に腰を下ろしたタイミングで、スメイラが机の上に紙袋と身分証一式を置いた。

「これ、お金。それとこっちは君から預かったやつ」

「サンキュ」

「あ!ファルさん困りますわ!」

カルセの声とともに顔を上げると、ファルが遠慮なしにガーネの席まで歩み寄ってきた。

「……なんの用だ」


「昨日、父も貴方に挨拶したかったと申しておりまして。これ、ご挨拶の品ですわ」

「なんでローウェン子爵が俺に挨拶するんだ」

「まあ、わかるでしょう?」

含みを持たせたファルの笑みにガーネは小さく舌打ちを漏らした。

「それは『特務に』か、『俺に』か」

差し出された菓子箱を見てガーネは確認するように問いかける。

「『特務総監』様に、ですわ」

「そうか、なら持って帰れ」

「え、ですが」

「ですがもクソもねぇ、忙しいんだよこっちは」

ガーネが身分証を財布にしまい、紙袋の中の札束の数を確認して引き出しにしまった。

「…では、また来ますわ」

「ちゃんとしたまともな仕事の用事以外で来るな。忙しいって言ってんだろ」

いつも以上に冷たく突き放すような物言いに、スメイラとカルセは違和感を覚えつつも自席に座って部屋を出るファルの姿を見送った。


数分後、出ていた3人が部屋に戻って来た。

「戻りましたー」

「おかえり。出動だったんだってな、どんな案件だ」

「昼間から酔っ払った術者同士の喧嘩。術者だからって特務呼ばれたらしいけど全然ウチ案件じゃないから衛兵と警察に託して帰ってきた」

「そうか、…くだらねぇ案件で人取らせやがって」

「ウチに回す基準とか決める?」

「いや、それで本当にウチの案件かどうかは行ってみないと判断つかねぇからな。俺も一回考えたことはあるけど、判別つかない連中が基準だけでウチに回さないで初動遅れる方がまずい」


そこから数時間、通常通りの仕事をそれぞれこなしていた最中、再度特務室のドアがノックされた。

「はいはーい」

サイフィルがドアを開けると、台車を押したエナが軽く会釈した。

「ガーネ様はいらっしゃいますか?」

「いるぞ、どうした」

「失礼いたします」

エナが台車ごと室内に入りガーネの姿を確認すると、軽くカーテシーをして台車の上の品々を掌で指し示した。

「ガーネ様、こちら昨日の開庭招宴で献上されたお品でして、女王陛下からのお下げ渡しでございます。特務の皆様にと」

「そうか、じゃあ有り難く」

そこに置いて、と雑に自分の近くのソファ席のテーブルを指差し、侍女数人で丁寧に果物や酒瓶、菓子類などが並べられた。

「それと、こちらはガーネ様に」

「……俺?」

「はい、何名かガーネ様個人を名指しした贈答がございまして、女官長様よりお預かりして一緒にお持ちいたしました。こちらに置かせていただきますわね」

「困るんだよなぁ個人贈答。まあいいや。エナ、来たついでに一個頼んでいいか」

「はい、なんでしょう」

「お前の母親に用事がある。ここに呼んでくれ」

「……母に、ですか?かしこまりました。おそらく今でしたら手空きかと思いますので、声を掛けますわ」

エナたち侍女が立ち去ったあと、ガーネは個人贈答の品を確認した。面倒そうに溜息をもらし、差出人だけ見てそのまましまい直した。

「おい、その下げ品お前らで好きに持って帰れ」

「え、ガーネくんは?」

「別にいらん。お前らで分けろ」

「でしたら、日持ちしそうなお菓子は特務に置いて皆様でおやつにいただきましょうか。傷みやすい果物とかお酒類だけ、皆様で分けましょう」


エナが立ち去って十数分後、特務室のドアが叩かれた。

「失礼いたします」

「あれ?侍女長さん?」

再度応対に出たサイフィルが首を傾げた。

「侍女長来たか。…サイフィル、俺が呼んだ」

「え?エナちゃんのお母さんって…え!?」

「見たらわかるだろ」

「わかんなくない!?」

「特段、お伝えしたことはないかと存じますが…」

エナの母である侍女長が静かにカーテシーをしてからガーネの傍に歩み寄った。

「ご用事というのは、どういった内容でしょう」

「これは『個人的な』依頼だ。その上で聞く、侍女長、アンタ口が堅くて話しのわかる宝石商に心当たりは。出来れば王室に出入りのある、目利きと腕の確かな奴がいい」

「…王室御用達の宝石商でしたら、何人か。端的に言えば口止め料次第で仕事をしてくれる人物ということで?」

「そういうこと」

「かしこまりました、お繋げいたしますわ」

「頼んだ」

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