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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十九章『掌握』

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283話「糾弾昼食会」

数分してから、苛立ちの収まらないままガーネが特務室の方へ戻って来た。

「な、なに。どうしたの?なにか言われた?」

あまりの様子にスメイラが慌ててガーネに声を掛けるものの、ガーネはスメイラを一瞥してから盛大に舌打ちを漏らした。

「……なんでもない。…クソババァども覚えてろよ…」

まさか不能扱いされたとも自分の口からとてもではないが言えるはずもなく、しかしやり場のない苛立ちに苛まれたままどっかりと椅子に腰を落としてペンを握った。


女官長や侍女長が言わんとしていることも、わからないではない。しかし、自分の立場で『そこまで』言われる筋合いもなければ、まして『心配』される筋合いもない。

自分が、女王の正統な配偶者候補にでもなれば話は変わってくるかも知れないが、いまはただの『女王が許可したただの一臣下の戯れ』に過ぎないからである。


そして、その『事実』もまた、自分で考えていて理解はしているくせに無性に腹立たしい。

理由がわからず、思わず手元に力が入る。

「あ、やべ」

ばき、と手の中でペンの折れる音がして、そこでようやく冷静になったガーネは何度目かわからない溜息を深々漏らした。折れたペンをゴミ箱に放り、別のペンを取り出してからもう一度溜息をついた。


「…すみません、わたくしちょっと、茶葉とか色々買いに行って来たいのですが…スメイラさんとラズリさん、手伝っていただけますか?」

カルセの訴えと視線に、スメイラとラズリは頷いた。

「アタシもちょうどおやつ買いに行こうと思ってたからいいわよ」

「私も、ちょっと気分転換したいし」

「ガーネ様、サイフィルさん、10分程度で戻りますわね」

「……チョコ」

「かしこまりましたわ」



女子三人で城内の売店へと向かう。とりあえずカモフラージュ的に目的のものを買い込み、荷物を持ちながら少しだけ遠回りをして人気の無い小さな中庭へと向かった。

「…わたくし、耳がいいもので…ドアくらいの遮蔽物でしたら、わりと聞こえてしまいまして」

「…そんなガーネくんが怒るようなこと言われたの?侍女長と女官長に?」

スメイラとラズリが不安そうにカルセの顔を見遣り、周辺を確認してから小さな声で掻い摘んだ説明をした。


「……あ、なるほどね。そりゃあのクソガキ、ブチギレるわそりゃ」

「そ…それにしても、いや、うーん……分別あるんだかなんなんだか…あれだけやっててまだ手出してなかったの、普通に評価されて然りかとも思うけどね。…でも、女官長や侍女長が出て『そこまで』の話になってるなら、そろそろ自覚させなきゃまずいかもしれないわね」

「そうね。『拗れさせるなら今』だと思うわ。ほんとに一回抱いちゃった後に本気の好き避けしたら、あの女多分荒れるわよ。ていうか同じ女として『抱かれた後に』好き避けされる方がヤバいのは理解出来るから、むしろまだ手出ししてないなら今しかないわ」


そうして3人は、少し考えながら特務室へと戻って行った。

「はいガーネ。板チョコしか売ってなかったわよ」

「なんでもいい。いくらだった」

「別にいいわよこのくらい」

「そうか、じゃあサンキュ」

「ところでガーネ」

板チョコの包装を破いたガーネが、ラズリの呼びかけで手を止めて顔を上げた。

「なんだ」

「ちょっと折り入って話したいことがあって。時間取ってくれるかしら」

「…珍し。…俺が相手でいい話なのか」

ラズリから話したいと言われることが珍しいというか初めてで、自分で適任なのかと顔を見つめた。

「アンタじゃなきゃ駄目なのよ。出来れば、『外で』話したい。全員で」

「……全員?」

怪訝そうにしながらも、タイミング良くアメジもガーネが依頼した写しを取って紙の束を抱えて戻って来た。壁にかかった時計を見て、小さく頷く。

「…わかった。どっか個室のある飯屋でも押さえておけ、飯食いながらでいいだろ」


ガーネは自席に戻ったラズリの後ろ姿を見て、腕を組んで書類を眺めながら考えた。

────全員で俺に話?特務の運用に関しての文句か?いや、それならラズリの性格考えてこの場で言うだろうし、わざわざ『外』を指定した意味もわからない。

それに運用関係のことであれば、恐らくスメイラ経由から話が来るはずだと思われる。全員で何を言うのか。


さすがにこの件で苛立ちはしないものの、先程の件や明け方の『不完全燃焼』の苛立ちに混ざってなんとも複雑な心境になった。



*****



「……で、なんだよ話って」

ラズリが予約して押さえた石造りの個室がある比較的高級な部類に入る食堂の、一番奥の部屋に案内され注文を通す。

そのままガーネは怪訝そうにラズリの顔を見て、近くに座るスメイラとカルセを見た。少し奥に追いやられたアメジとサイフィルも何が始まるのか聞かされていない様子で、落ち着かない顔で互いに目配せをしていた。


「いい、前提から言うけど、これからする話はアタシたちも別に茶化そうとかそういうのじゃ一切ない。比較的真面目にする話よ。だからアンタも、怒ったりしないで真面目に聞いて欲しい」

「……わかった」

「単刀直入に聞くけど、アンタほんとに彼女とかいないの」

「…なんだその系統の話か。また誰かになんか聞いて来いとか言われてんのか」

上手く会話の芯をずらしながら、ガーネはグラスの水を飲んだ。

開庭招宴の後から一層、貴族だけでなく城内の女性からのそういう声かけが増えたのは否めなかった。ラズリたちが頭が上がらないくらいの人間から圧でも掛けられたのかと考えながら、しかしそういった人物に特に思い当たるような人物もおらず少しだけ考えた。

「真面目に聞きなさいよ。いるの?いないの?」

「いない。見てたらわかるだろ」

「好きな人は?」

「いねーよ」

ラズリがその瞬間、ぴくりと眉を寄せた。

スメイラがすかさず口を挟む。

「ガーネくん、恋したことある?」

ものすごく真面目な顔でスメイラから問われ、『恋ってなんだっけ』と真面目に考え始めた。

「……ある、ん、じゃねーのかな。忘れたけど」

「なんでそこでそんな自信なくなるかな。今まで付き合ってた女の子って、なんで付き合ったの?」

「…向こうが俺のこと好きだって言ったから、可愛かったしまあいいかなって」

「付き合ったあとは、何か心境の変化とかないの?顔が可愛い以外で」

「変化?うーん…つーかなにこの糾弾会」

「真面目に答えなさい!」

「はいすんません」

ラズリの怒号に思わず反射的に謝罪したガーネは、歴代の彼女とのことを振り返っては腕を組んで唸り始めた。

「…じゃあ、質問を変えるね。君、サイフィルくんとの雑談で『彼女に重いって言われて振られてばっかり』みたいなこと言ったらしいじゃない。アレはなんで重いって言って振られたの?」

「ああ、…出かける行き先とか、誰と行くとか、何時に帰ってくるとか…あとはさっき話してたのは誰だとかどういう会話をしたんだとか関係性聞いたり?それから行動パターンとか全部把握してたら『重い』って言われた」

「一般的にはすごい重いと思うなそれ。なんでそこまでしたの?」

「そうか?なんでって、そりゃ俺の女になったからには常に行動把握して守らないといけないだろ。それに俺以外と喋る必要がどこにある、俺と付き合ってんだから俺だけ見てりゃいいだろうが。何が間違ってる」

ガーネ本人はその行為の何が悪いのかをまるで理解していない顔でさも当然のように言いながら、スメイラとラズリの顔を見た。

「あー、うん、今は君のその恋愛観とか束縛DV気質とかどうでもいいかな」

「それってさ、『付き合ってるから』そうなるわけでしょ。付き合ってないとそうならないのよね?」

想像以上のガーネのDV気質にスメイラがやや引いたところで、ラズリが確認するように質問を被せた。

「そりゃそうだろ」

「でしたらガーネ様、ご好意を示した先が『そう』なのではないですか?」

そこでようやくカルセがぽつりと呟き、アメジとサイフィルもこの糾弾会が何を目的としているのかようやく理解したようで小さく頷いた。

状況をわかっていないのはガーネ本人だけである。


「全く話が見えん。つまり何が言いたい」

「つまり、君、陛下のこと『好き』なんでしょってことだよ」

「なんでそうなる」

「君のさっき元カノにしてた行動、ぜーんぶ陛下に対しても同じことしてるって自覚ない?」

言われてガーネは首を傾げる。ややしばらく考えて、スメイラに目を向けた。

「してはいるかもだが、職務上のことだろうが。こっちも近侍護衛の兼ね合いもある。予定を把握していないと俺の通常職務の方にも影響があるだろう」

「じゃあもう少し突っ込んで聞くね。ガーネくんの女の子の好みは比較的わかってるつもりだから聞くけど、例えば先輩」

「ラズリ?」

「そ。特務の女の子の中だったら、君、一番先輩の顔が好みでしょ」

「あー、まあそうかもな。可愛いと思う」

「抱ける?」

「無理。見た目が幼すぎてこっちが悪いことしてる気分になる」

「ファルさんは」

「なんであの文官補が出てくる」

「いいから。めちゃくちゃ好みのタイプだと思うけど」

「……まあ、見た目はな。可愛いと思う」

「抱ける?」

「無理」

「じゃあ陛下は?」

「可愛い」

「抱ける?」

「抱きたい」

「そこまで即答して、なんで『好き』だって自覚しないの?」

「待て。好きってなんだ。誰が誰を好きなんだ」

「アンタね、いい加減にしなさいよ。あれだけ独占欲ひけらかして、今更『好き』じゃないなんて通用しないんだよクソガキが。ほんと、こういうところの精神年齢だけ年相応過ぎてバグがヤバいんだけど」

「好き?え?俺が陛下を?なんでそんな話になるんだ」

「少し真面目に考えなさい!」


その後運ばれてきた料理をまるで作業のように口に押し込んだものの、全く味がわからないままガーネは特務室へと戻った。

────好きって、なんなんだ。

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