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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十八章『招宴』

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279話「失せ物探し」

「陛下、夜分申し訳ございません」

ガーネがディアマントの部屋を訪れたのは、すっかり日付が変わる直前の深夜であった。

「構わぬ。妾も本日の後処理やらを片付けておった。そこに座れ」

執務机の近くのソファを指差し、ガーネは一礼してから腰を下ろす。

来る前にようやくシャワーを浴び、騎士服から『官服』へと着替え直した姿でディアマントの執務室を訪れたガーネだったが、ディアマントの方も寝支度はしつつも仕事をしていたのは同じだった様子で薄手のネグリジェの上にガウンを羽織り、長い髪はゆったりと三つ編みでまとめて机には書簡や書類が広がっていた。

「…改めましょうか」

「よい。こんな礼状の返答よりもお前の要件の方が重要じゃ」

ディアマントのその台詞は甘さではなく、むしろガーネの懸念を素直に『懸念』として受けている声だった。

棚から銀盆とろうそくを数本取り出し、ガーネの隣に腰を下ろしたディアマントは、手慣れた様子で銀盆の上でろうそくを燭台に立てて並べた。

「そういや俺、陛下の占術『ちゃんと』見るの初めてかもしれないです」

「そうだったか。まぁ、妾もここ数年は嫌な予知を見た時くらいしか占術はせぬ。内容によっては意外と消耗する」

「これは大丈夫なんですか」

「妾を舐めておるのか。お前には一度、妾の『力』は見せてやったであろう」

ディアマントは細い指先でマッチを何度か擦るものの、長らく使っていなかったせいかなかなか着火しない。

「火って、マッチじゃなきゃ駄目?」

「なんでもよい」

ガーネはポケットからジッポライターを取り出すと、火をろうそくに一本ずつ灯した。

「お前、煙草なんぞ吸うのか」

「興味本位で吸ってみたことはありますけど、あんなん吸うもんじゃないですよ。それに匂いがなかなか取れないんで、潜入とかには向かないですしね。火はあれです、あったら便利なんで基本常備してます」

「ふ、本当に色々と抜け目のない男じゃ。────モノは?」

「48年前製造、ジェベット聖具工房製。紛失は2日前16時半以降本日11時半の間」

「少し待て」

ディアマントが揺れる炎をじっと見つめ、ゆっくりと手を翳した。

その瞬間、風もないのにふっと全てのろうそくの火が消えてしまった。

「…まずいな。『見えぬ』わ」

「見えないってどういう意味ですか」

「そのままの意味じゃ。『聖杖として存在しておらぬ』、もしくは『この世界に存在せぬ』」

ガーネは腕を組んでろうそくが消えたあとの名残のパラフィンの気体を睨んだ。


聖杖として存在しない、つまり懸念していた『芯材だけ取り出された状態』になっている可能性、もしくはその先の『なんらかの呪いの儀式の媒介や封印に使用するための何か』に姿を変えている可能性。

この世界に存在しない、その意味はガーネたちが一番危惧している『異界異物』への変貌か組み込みの可能性であった。


「48年前となると微妙なところじゃな。芯材の呪物化の変容の可能性が提唱されたのは丁度50年前じゃ」

「そうなんですよね。なので材料が残っていたらそのまま流用して製造された可能性は無きにしも非ずでして。特にこのジェベット聖具工房、あんまりデカいところじゃないから材料在庫が2年でどうなるかってーとめちゃくちゃ際どい。ちなみになんですが、50年前って俺は普通に生まれてないしそこまで調べる時間もなかったんでお聞きしますけれど、この時どういう措置を取られたんですか」

「回収命令を出した。回収には当時の魔導師長と巫術官長が3年がかりで当たっておるが、もう2人とも鬼籍じゃ」

そこまで聞いて、ガーネは少しだけ姿勢を変えてディアマントへと身体を向けた。

ディアマントも顔だけガーネに向け、何を言われるのかと真顔で言葉を待った。

「…実はちょっと別の懸念がありまして。ご相談なんですが、俺の付与されてる権限フル活用してもいいですか。悪用はしません、多分」

まだ懸念の域を出ない内容故に敢えて多くは語らなかったが、『多少の無茶をして動く可能性』を含ませて形だけ打診という体で言葉を紡ぐと、ディアマントは小さく笑って肩を竦めた。

「フン、何のためにお前に権限を与えていると思っておる。そのための権限じゃ、好きに使え。悪用は多少のことならば目を瞑ろう、ただし筋の通らぬことはするな」

「わかってます」


仕事の話が一区切りついたと、ガーネは正面に向き直って小さく息を漏らしてソファの背もたれに深く寄りかかった。

「疲れたのか」

「そりゃ、あんだけ見世物になってアンタにくっつこうとする悪い虫を牽制しまくって、案件も重なってしかもあんまり良くない方向に傾きつつあるとなったら疲れますってさすがに。でも陛下も疲れたでしょ」

「…ガーネ」

「はい?」

名前を呼ばれ、ガーネは顔を隣のディアマントへと向け直した。

「妾はお前に言っておきたいことがある」

「なんですか」

「お前、自分で23か24に死ぬと申しておったな。漠然とそうだと思っていたと」

「あー、はい」

ガーネは『その話か』となんとなく渋い顔をしながらも、彼女が敢えてこのタイミングでこの話をしてきたことに意味があると理解し否定せずに小さく頷いた。

「明確にそう思い始めたのは、いつじゃ」


ディアマントの問いかけに、自分の記憶を辿るようにごく僅かに視線が彷徨った。

「…5年前?いや、今年20歳なんで……厳密にいうと4年前ですかね。15の時です」

「過ぎたことじゃ、はっきり言っておく。お前はその15の時に死ぬ予定じゃった」

「知ってます。丁度タイムリーなことに、さっき禁書庫で『それ』見てきました」

「そうか。…ガーネ、妾は20年前、お前が生まれる前に一つの予知を見た。お前が生まれる予知じゃ。その時に妾はお前の『人生』を占った。お前は、その時の妾の占術では15で死ぬ予定じゃった。…が、先程も申した通り、未来はほんの些細なことで変わる。妾は、お前の死期は見たくない。怖い。20年前は何も思わなかったお前の死が、妾は怖い。嫌じゃ」

「……俺からも、一ついいですか。ディアマント様」

「…なんじゃ」

「何度も言いますけど、俺だって死にたいわけじゃない。死に急いでるつもりもない。正直、漠然とそのくらいに死ぬんだろうなって感覚があるだけで、生きていられるなら生きていたい。だって俺が死んだら、他の男に守られるんだろうお前は。結構どころじゃなく腹立たしいんだけど」

ガーネの視線がどこか獲物を捉えるようなものに変わり、ディアマントはガーネの服の袖を軽く引いた。

「…妾は何度も言っておる、守ってもらうのならお前がよい」

「お前の騎士は俺1人でいい。もし他を立てるなら俺のことは殺せ。わかったな」

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