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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十八章『招宴』

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277話「次なる不穏」

無人の特務室に入り、自席の椅子に外したマントと騎士服上衣を置くと引き出しからホルスターと銃を取り出していつも通り装備した。

改めて部屋を出てドアを施錠し、閉会したとは言えまだ歓談している貴族や退場途中の貴族で混雑する庭園へと足を向けた。

先ほどディアマントと出入りした場所とは異なる入口から庭園へと出ると、つい十数分前までディアマントの横で騎士として立っていた男が現れわずかに会場がざわめいた。

ガーネはスメイラの姿を探すもすぐ視認出来る箇所にはおらず、一番近くにいた自身の先輩である衛兵隊の二番隊長へと歩み寄った。

「先輩、俺ちょっと現場出てくるんで、ウチの連中誰か捕まえたら共有だけ頼みます」

「おう、了解。気を付けろよ、まだ王城前混雑してっからな」

「はい」

信頼出来る人間に言付けを託し、ガーネは再度庭園を出て正面入口へと向かい外へと出た。


初報のあった東区の古い教会へ向かい、ラズリとアメジと合流した。

「状況は。詳細聞いてねんだよ俺」

「…多分だけど、聖具の盗難」

「なに持っていかれた」

「それが、壊れた聖具らしいんだけど…通報の前に、たまたま掃除で入った時に棚の一部がごっそりなくなってたんだって。壊れたもの入れた箱だったからそんなに大事にするつもりはなかったらしいんだけど、壊れていても聖具は聖具だからって通報したらしいわ」

ラズリの説明に、既に規制線の張られた聖具置き場に立ち入った。

棚の一部が証言通り『ごっそり』なくなっていて、埃の積もり方や擦れ方から見てもなくなってそこまで時間は経っていないであろうことは想像出来る。

「箱かなんかに入ってたのか?」

「そうみたいよ」

アメジも小さく頷いて返すと、ガーネは少し考え込んだように無言になった。

「…物品管理簿とか、そういう類のはあるのか。具体的に何が保管されてて、何を持っていかれたのかを知りたい」

「壊れてるから記録としては残してないって。適当に突っ込んでたから曖昧だって、けど覚えてるのは『欠けた聖杯の欠片』と『折れた聖杖の一部』、あとは使用期限切れた結界杭と他なんかごちゃごちゃと……らしいわよ」

「……聖杖か、厄介なモン持ってかれたな」

「なに、なんかまずいの?折れて使い物にならないから放置されてたんじゃないの?」

「聖杖そのものというより、中の芯材だな。モノにもよるが、こういう古い教会で使ってた古いヤツだとわりと呪いの儀式の媒介とか封印とかに使われてることも多かったらしいから。最近の新しいヤツだと素材が違うらしいからな」

ガーネが『厄介だな』と懸念した予感は往々にして碌なことになった試しがない。それを知っているラズリもアメジもなんとなく無言になり、考え込むガーネの横顔を眺めた。

「…アメジ」

「なぁにガーネ様」

「教会の管理者含めて全員に、『いつくらいに壊れた、いつからある聖杖』なのかと、どのくらいの量があるのかわかる範囲で聞いてこい。出来れば何年製の、どこから入手したものなのか……そうだな、ここの置き場の管理簿が無いのは仕方がないとして、仕入れたときの資料やら領収書やらは何かしらかあるはずだ。古過ぎて残ってないって可能性も否定は出来ねぇが、その辺あれば借りてこい。『全て』だ」

「わかったわ」

「ラズリは念の為、周辺に見慣れない呪いの残滓や使用痕跡が無いか調べてくれ。それとここはお前に任せる。俺は一旦城の方戻る」

「りょーかい」



特務室に戻ると既にスメイラとサイフィル、カルセが戻ってきていた。

「おかえり、私たちは出なくて大丈夫?」

「ラズリに任せてあるから問題無いだろ。こっちは恙無く終わったか」

「ガーネくん、その格好で一旦庭来たらしいじゃない。それ見た貴族の一部が私のところに来て、『特務総監殿はどちらに』とか、『ご出動ですか』とかしつこくて。囲まれちゃったんだから」

「そりゃ悪かったな、おかげでこっちは仕事がしやすかったぜ」

悪びれもなく言いながらホルスターを外し、腰に佩いたままの剣もようやく外した。

そのまま疲れた顔でどっかりと椅子に腰を下ろし、深く息を漏らした。

「なんでもいいが、さすがに少し疲れたな」

「でしょうね。私も疲れたわよ、みんなガーネくんのことばっかり聞いてくるんだもん。やれいくつなんだとか交際している女性はいるのかとか縁談の予定とか、陛下とどのくらい近いのかとか、どこまで権限持ってるのかとか」

「ふん、だろうな。俺も陛下の横にいるのに縁談の話6、7件来てたし。陛下の機嫌も悪くなるし、そもどの女も好みじゃねぇ。どいつもこいつも頭の悪そうな娘ばっか見せやがって。ま、お前なら余計なことは言わんだろうから残したんだよ」

「やっぱりね。でも年齢と未婚確認なんてまだ可愛い方でしょ。好みの女だの、城勤めの女は対象かだの、どこ住みだの、休みあるのかだの、好きな色とか食べ物とか。君想像以上に品定めされてたわよ」

「どこまで答えた」

「年齢とか、前職とか。公に出てる情報だけ。あとは『上司の私生活や私的な好みまでは存じ上げません』で終わらせてる。釣書も渡されそうになったけど、『然るべき手順でお願いします』って何も受け取ってないよ」

「完璧。いいかサイフィル、『こういうこと』だぞ」

「…はぁい」

「お前ら上がっていいぞ。疲れただろ。仕事があるやつは着替えて休憩して来い」

「じゃあ僕は上がろうかな」

「私は着替えてくる」

「では、わたくしも」

「あ、悪い。カルセだけちょっと待て」

ガーネはネクタイを少し緩めながらカルセを手招きした。

「なんですの?ガーネ様」

「疲れてるところ悪いんだが、少しいいか」

「勿論ですわ」

「東の古い教会で、盗難があった。何盗まれたかははっきりしてねぇが…中に恐らく、聖杖があったらしい」

それだけ聞いて、カルセもなんとなくガーネの懸念が分かったらしく表情を少し曇らせて視線を向け直した。

「…お古いものでしたら、中の芯材が呪具にもなり得ますわね」

「そういうことだ。聖具の流通に関してはお前が一番詳しいし顔も利くだろう。休憩してアメジが戻ってからでいい、情報洗い出して欲しい」

「かしこまりました。では先に着替えだけして参りますわ」


1人になった室内で通常業務の方の書類を片付けていると、ややしばらくしてラズリとアメジが資料を抱えて戻ってきた。

「おかえり、どうだった」

「呪いの痕跡は特になし。で、聖具の購入履歴とか領収書とかの帳簿関係と献上品リストとか借りれるものは全部借りてきた」

「サンキュ、報告書だけ書いたら上がってもいいし着替えて仕事してもいいし、任せる」

帳簿関係を一纏めに受け取って自席の机に置くと、何十年分なのかそこそこの量がありガーネは小さく息を漏らした。

一番新しいものから順にページを捲り、目ぼしい箇所に通し番号を振った札を挟み別紙にそれぞれ覚書を記した。そのうちに着替えを終えたカルセとスメイラが戻り、ガーネは目を通し終わった新しい帳簿2冊と走り書きした覚書をカルセに手渡した。

「とりあえず新しいやつだけ見てる。さっきの通りに頼む、あとはアメジとラズリから聞け」

「かしこまりました」

「ちょっと調べたいことがある。陛下のとこ行ってくるがすぐ戻る」

自分の着替えもする暇もなくすっかり仕事の顔のままガーネは部屋を出て行った。


女王の執務室は扉越しに僅かに声が聞こえており、まだ着替え中かと考えつつも一応扉を軽く叩いた。

「ガーネか。入れ」

ディアマントの声で応答され、ガーネはドアを開けた。

すっかり着替え終わりソファで休憩がてら軽食とお茶を口にしていたらしいところだった。

「お休み中でしたか、申し訳ございません」

「お前こそ、着替えておらぬのか。そんなに騎士服が気に入ったのなら毎日それでおれ」

「いや、そんな暇無くてですね。すぐ現場行って、そのままここ来てるんですよ。休憩のところ申し訳ないのですが仕事の話をしてもよろしいですか」

「侍女たちは外させるか」

「大したことではないですしお聞きしたいことが1点あるだけなのでそのままで構いません。陛下、占術お得意ですよね。こういう聞き方をするのは失礼かと存じますが、精度はどのくらいなのでしょうか」

「…………何を見るかにもよる。…言っておくが、お前の寿命や死期の類は見ぬぞ。見れたとて、未来は往々にして変わるし、見るこちらもあまり気分の良いものではない」

「俺の寿命やらはそんなんどうでもいいんですよ。んなもん見なくたって自分の死期は何となくわかっています」

「……は?それは、どういうことじゃ」

「俺は23か24で死にます。それをもしも超えられたとしても、30までは生きません」

「…………」


ディアマントを始めとして、執務室内にいた全員は思わず口を噤んだ。

「……それは、誰かに言われたのか」

小さな声でディアマントが口を開くと、ガーネは何かまずいとこでも言ったのかといった顔でディアマントを見つめ、小さく首を振った。

「いえ、……5年くらい前から、漠然と『そう』だと思って生きていました」

「…特務総監様、陛下のお気持ちをお考えなさい!」


侍女長の叱責の声に、ガーネはどこか冷えた目を向けて小さく溜息を漏らした。

「……気持ちを考えたところで、俺が『現場責任者』であり、『騎士』である前提で言っても俺程度の命なんてそんなもんだ。お前ら女連中が俺にどういう幻想を抱いているのか知らんが、それでも俺は『自分が生きている間はこの女を命に代えても守る』と陛下と契っているんだ。それ以上の俺の死期なんか知ったことじゃないし、どうでもいい」

「特務総監様」

女官長もディアマントの顔を一瞥してから、ガーネがどこか自分の命を軽んじているような物言いを嗜めるように呼んだ。

ガーネ自身も、彼女たちが言わんとしていることがわからないわけではない。ただ、ガーネ本人にしても『自分が突然死ぬことだってある』現実は知っておいてもらわないと困るが故の発言であった。


「……俺だって、死ぬのは怖いし怪我すりゃ痛い。死にたいわけじゃない。だから日頃鍛錬もしてるし、無駄に死なないように必死こいて情報漁って今もこうして来てるんだよ。わかったら俺の死に関してくだらねーことこれ以上吐かすな。……で、陛下。『そんなこと』はどうでも良くて本題なんですが」

「…なんじゃ」

「失せ物探しはお得意ですか」

「……失せ物?」

「開庭招宴の最中、ラズリとアメジに先行させた現場です。古い教会から、おそらくですが聖杖が盗難に遭っています。真偽の程も含めて調査中ですが、俺の睨みが当たると比較的まずいです。陛下にこのようなことを申し上げる無礼は承知していますが、俺の言わんとしている事の意味はわかりますね。見ていただくためにはどのような情報が最低限必要でしょうか、今は急ぎそれをお聞きしたく参じた次第です」

「……聖杖の、製作年と製作元がわかれば……おおよその波長から『見る』ことは出来るとは思う」

「かしこまりました。至急調べます」

ガーネはそれだけ確認すると一礼してさっさと部屋を出ていってしまった。

しんとした室内で、侍女長と女官長はディアマントになんと声を掛けてよいかわからずに互いに顔を見合せてしまった。

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