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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十八章『招宴』

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276話「開庭招宴3」

「相変わらずお美しい。陛下ほどのお方、良きご縁も多くおありでしょうな」

「今は考えておらぬ」

「しかし王国の先を思えば…」

「その手の話は本日扱う内容ではありません」

あからさまなディアマントへの縁談の打診に、ガーネが容赦なく割って入った。

ガーネの圧にやられた侯爵家は、渋々といった様子で一礼して立ち去るのを見てガーネは表情こそ変えずともわずかに苛立った。自分でも何故苛立ったかはよくわからなかったが、どこか楽しそうなディアマントの顔を見てガーネは一層苛立ちが心の奥に燻るのを感じたが、『仕事中だ』と無理矢理その感情に蓋をした。

気付かないフリをすることはわりと得意だったし、そうこうしているうちにいつしか、自分で気付き掛ける前に無意識に感情を閉じることが出来るようになっていた。

周囲が『自分に頓着がなさすぎる』と言うのは、こういうところなのかもしれない。

ガーネが次に女王のところに来たそうにしている来賓を見てディアマントの耳元にそっと口を寄せた。

「アレは王城側じゃなくて、例の辺境伯寄りだ。長々喋るな」

小さく耳打ちして姿勢を戻し、ガーネの目論見通り数秒後に歩み寄ってきた貴族に対し、指示通りディアマントはごく短い対話で終わらせる。

その後も似たようなゴマすりや王城の値踏み、見た目だけは若いディアマント自身を舐めた目で見つめながらのギリギリ対話だけは無礼にならない身の程知らずな貴族の対応や、ガーネ自身の値踏みや遠回しな引き抜きなどの話もあり、少しずつディアマントの機嫌が悪くなり始めた。

「それにしても特務総監殿、お若いですな。陛下、彼はおいくつで?」

「…19だったか、お前」

「はい」

「ほう、その若さでそれだけ担ってらっしゃると。他のご令嬢が放っておかないでしょう。ご結婚は?」

「まだですし予定もありません」

「しかし、男というのは家庭を持ってこそですぞ。うちの娘は────」

「そのような話は受けておりません。現状、その必要もございません。私の忠誠は陛下にのみ捧げております。他に割く予定は皆目ございません」

ガーネに対しての縁談の持ち込みは、これで本日6件目であった。比較的食い下がってなかなか引かない相手に、ガーネはこれ以上ないほどの『線引き』を強調した。


ようやく引いたと思ったところで、それまで牽制していたハルマニーエ家が総出で現れてディアマントへと一礼した。

ガーネは内心小さく舌打ちするも、来てしまったものは致し方がない。表情を今まで以上に冷ややかに変えて従叔父一家を一瞥した。

「本日はお招きいただきまして光栄に存じます、女王陛下。お目通り感謝いたします」

「…うむ。よく参った」

ディアマントはごく一瞬だけ隣のガーネに視線を向けるも、ガーネの目は酷く冷えていて感情は伺えない。それどころかわざと会場全体に視線を投げており、『興味感心がない』「話すに値しない』姿勢を笠に警備姿勢を取っていた。

「それにしても…本家筋のものが、このような位置に立っておるとは。感慨深い」

「そういう話はこの場では不要です、叔父上」

「これは失礼。祝いの席に水を差すつもりはありません。ただ、立場が変われば見え方も変わる。いずれは相応の形に収めねばならんこともありましょう」

「それは妾に申すことか」

ディアマントも少し冷めたような目で見つめ返し、手にした扇子を広げた。

「いえ、無論。ただ…陛下のお傍に立つ以上、身辺もまた整っておる方がよろしいかと」

「必要ありません」

ガーネが被せ気味に即答し、少し先に配置したスメイラが衛兵と何かを話しているのを視界の端で捉えた。

「この男は妾の騎士じゃ。今ここで、どこの家の話をするつもりじゃ」

視線をスメイラに投げたガーネは、指先で『来い』と呼びつけて目の前の従叔父一家を見据えた。

未だ退散する気配のない強気な姿勢に、ガーネは思わず目を細めた。

「失礼」

呼びつけたスメイラが駆け寄って来ると、ガーネはその場から動かずスメイラを視線で傍に寄せた。空気を読んだスメイラが軽く一礼してからガーネの耳元に手を当てて小さな声で耳打ちした。ガーネは少しだけ上体を折って耳を傾けた。

「出動要請、民間被害報告なし。東の古い教会の聖具置き場」

スメイラの言葉を聞いてからすぐに姿勢を直し、ほんの一瞬だけ考えてから会場で別個に配置したラズリとアメジにそれぞれ視線を送る。そのままガーネが指先で『出動』の指示を出し、耳打ちするでもなくスメイラに返答した。

「初動はラズリとアメジでいい、お前はここ維持。下がれ」

「承知いたしました、特務総監」

「……で、叔父上。なんの話でしたっけ」

「祝いの席ゆえ、今は深く申さん。ただ、いずれ整理の要る話だ」

「必要ありません」

「……ガーネ様、お久しぶりでございます。幼少の頃お会いしたきりですが覚えていらっしゃいますか?」

それまで黙っていた娘が急に一歩前に出、形式上ディアマントにカーテシーをしてからガーネに声を掛けた。

ガーネは真顔のまま一瞬だけ、血縁上はとこにあたる娘に視線をくれたが、すぐにまた視線を外してラズリとアメジが会場を出る後ろ姿を確認した。

「一応」

「覚えていてくださって嬉しい。小さい頃は可愛らしかったのに、こんなに素敵になられて」

値踏みするような視線がガーネの上から下まで這ったのち、わかりやすく隣のディアマントへと視線を移され娘は小さく笑った。

「ご結婚はまだとお伺いしております。もうすぐ20歳ですわよね?適齢期ですもの、今後ゆっくりお話しする機会をいただければと存じますわ」

「その必要はありません、要件だけどうぞ」

「……あんなに可愛かった頃が懐かしいですわ。昔、本家の庭で泣かせてしまったの、覚えていらっしゃいますか?」

ディアマントの機嫌が目に見えて悪くなってきたところで、ガーネは少し遠くのヘルソニアに視線を向けた。『状況』が見えているだけに、時間もいい頃合いかとヘルソニアは小さく頷き、閉会に向けて動き出した。

「覚えていません」

「まあひどい。…でも今は、泣かされるのは私の方かもしれませんわね」

「身内の都合を公の場に持ち込まれると、陛下の御前が安く見える。控えてください」

一切目が笑っていないガーネが容赦なく会話を断ち切った。初めて、真顔でディアマントの斜め前に半歩出た。

会話の内容こそ周囲に聞こえてはいないものの、ディアマントの不機嫌そうな顔とその騎士が前に出たとあって、周りは何事かと注目していた。

「お引き取りを」

ガーネの冷ややかな低い声が周辺に響いた。

こうなっては自分たちに分が悪いと、スタークは娘を下がらせてディアマントへ一礼した。

「また追って、ご連絡申し上げます」

ハルマニーエ家が立ち去ったあと、ガーネは小さくディアマントへと一礼してまた彼女の半歩後ろへと下がった。

「…閉めます」

「うむ」

ディアマントが小さく頷き、場所を移動した。ガーネがそのまま付き従い、それを見てヘルソニアが閉会口上を口にした。

「本日の招宴は、これにてお開きとさせていただく。ご列席賜りました皆様に、心より御礼申し上げる。今後とも変わらぬご助力を賜りますよう、お願い申し上げる」

「本日はご苦労であった。今後とも、妾の治世を支えよ」

最後にディアマントが短く述べると、ガーネはディアマントへと腕を差し出した。ディアマントもガーネの腕を取り、連れ立って庭園を後にした。


そのまま、回廊を抜けて私室の方へと歩みを進めた。

着替えや出迎えのために侍女たちが部屋の前で待機していたが、ガーネは一旦それを制した。

「職務上の話がある。3分で終わる」

「…かしこまりました」

ガーネが侍女たちを下がらせ、ディアマントとともに彼女の執務室へと入った。

ソファに腰を下ろしたディアマントの横で、ガーネは改めて膝をついて不機嫌そうな顔を見上げた。

「戸籍上は他人とは言え、血縁上の身内が大変な失礼をいたしました。誠に申し訳ございません」

「お前のせいではない。妾とてそれはわかっておる。妾の犬が随分と安く見られたものだと、少々不愉快だっただけじゃ」

「…安く、ねぇ。逆にそれなりに目利きしてるんじゃないですか。だって、俺の値段は陛下が決めてるでしょ。俺はその評価で十分です」

「……お前、今日何件の縁談話があった」

「陛下の縁談は遠回しなのも含めて5件でしょうか」

「妾ではない!お前のじゃ!」

「俺ですか?まあ、…『今の』も合わせたら、6…いや、7件ですかね」

「気に入らぬ!」

「別に俺結婚なんて考えてませんて。言ったでしょ、俺の処し方はお前が決める。俺の忠誠も魂も、たった1人にしか捧げていない」

「……お前は、妾の犬じゃ」

「ずっとそのつもりですけど。あ、陛下」

「なんじゃ犬」

「連中、…不愉快なのは俺も同じです。後でどうにでもしてやります、貴女のためなら」

ようやく機嫌の治ったらしいディアマントの顔を見て、ガーネは立ち上がった。

3分経って扉がノックされ、「失礼いたします」と声を掛けられた数拍置いてからドアノブが静かに動いた。それを見てガーネはマントを軽く持って視界を遮りながらディアマントへそっと接吻けた。

「…マントってこういう使い方するもんでしょ。じゃ、俺現場出動させた方の状況確認して来ますんで」

『タイミング悪く』入室してきた侍女たちに見せつけるように、白手を嵌めたままの親指で自分の口元の紅を拭って退室すると、その足で特務室へと向かった。

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