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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十八章『招宴』

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275話「開庭招宴2」

その後は予定通り、来賓の挨拶や献上・祝辞の対応などを行い、腹の中の読み合いである区画ごとの懇談へと進んだ。

各区画ごと代表となる家の家長が挨拶をし、適当な所でガーネとヘルソニアで自然と会話を切るように合図をして次の区画へと移っていく。その間も常に周辺には目を向け、警戒は怠らなかった。

一通りの区画ごとの挨拶を終えた所で、少し休憩をさせるかと女王に声をかけたそうにしている面々へ視線で刺しながら、休憩区画として設けた東屋に促すべく周辺に手で合図を送った。


「…少し疲れた」

「残念ですがもう少し頑張ってください。どちらかと言うと、ここからが本番ですよ。なにか飲みますか」

「…果実水」

「侍女長、ご用意しろ」

「はい。特務総監様はなにかお飲みになりますか?」

「俺はいい、警護中だ」


侍女長に用意させた果実水を飲んで小さく息を漏らしたディアマントは、それぞれ歓談をしているように見せて少し遠くで休憩を終えて出てくるのを待ち構えている貴族たちを一瞥した。

「……妾はまだあんなに喋らなくてはならぬのか…」

「全部喋る必要はない、喋っていい相手は俺が上手く誘導する」

ガーネはその場で膝をついてディアマントにやや視線を合わせながら、目線だけで遠くの貴族を差した。

「いいか、まずあそこ。アレは近衛総監のご実家だ、挨拶来るだろうからそれは受けとけ。あとは近衛総監が巻き取るだろ。それからあっちの黒いドレスの衛兵総監の奥さんも多分挨拶来るはずだ」

「…君は私の実家まで把握しているのか」

「一応な、伯爵家だし」

近くで警備していたジェレイドが思わず声を掛けてくるとガーネは当たり前のような顔で返し、続けて視線を右の方へ流した。

「あとは……そうだな、あの白髪のじーさんは少し話に付き合え。古い家で面倒だが、礼を欠くとうるせぇ。その向こうの派手な一家は喋るな。嫁の口がビビるくらい軽くて有名だ、いらん尾ひれをつけられる。話しかけて来ても挨拶程度にしとけ。あっちの緑の服は娘の売り込みに躍起だから褒めるな、にこにこだけしとけ。意味のある返しはするな」

事前にある程度の情報は持っていると本人が言っていた言葉を覚えてはいたが、こうしてその状況を目の当たりにするとディアマントはまじまじとガーネの顔を見つめた。

「……お前、ヘルソニアとともに妾の側近にしてやろうか」

「勘弁しろ、子守りだけで精一杯だし俺は現場の方がいい。それにまた寵愛人事とか訳のわからんこと言われるだろ、めんどくせぇんだぞアレ。…とにかくお前は女王らしく愛想振りまいて、時に重圧を持って対応すればいい。先日話した通り一通りは頭に入ってる。困ったら俺の顔を見るか扇子で口元を隠せ、俺が割って入る」


ディアマントがふう、と息を漏らしながら空になったグラスをガーネに手渡した。受け取ったグラスをガーネは控えていた侍女長へ渡すと、ディアマントへと手を差し出す。その手を取ってディアマントが立ち上がると、東屋から一歩外へと歩み出た。


会場へと戻る道すがら、ガーネは小さな声でディアマントの名前を呼んだ。

「……ディアマント様。個人的なお願いをしてもよろしいでしょうか」

「…珍しい。なんじゃ」

「お耳を失礼します」

ガーネがディアマントの耳元へ口を寄せ、その口元を隠しながらごく小さな声で囁いた。

「本当に個人的で大変恐縮なんですが、あの奥にいる茶のスーツの一家。俺の父方の従叔父一家です。…それだけ言えばわかりますね、なるべく接触したくない」

ディアマントが頷き、ガーネの顔を見上げた。扇子を広げて口元を隠すと、周囲に聞こえないように小さな声で返答をした。

「『先日の来訪』も聞こえておる。……アレはおそらく、簡単には諦めぬぞ」

「存じております。ですが、連中の相手をするのは今日ではない」

ガーネの返事にディアマントが『女王の顔』で再度頷くと、会場へと戻る。

早速と言わんばかりに「陛下にご挨拶を」と声を掛けられ、ディアマントは貼り付けた笑顔で対応した。


「陛下、本日はこのような場を設けていただき、誠に光栄に存じます」

「うむ、よく参った。顔を見せてくれてよかった」

「新体制、心よりお支え申し上げます」

「期待しておる」

比較的王権もとい女王に好意的な貴族であれば、対応は楽だった。

向こうも状況を読んでいる故か、長々と引き止めることはない。

そのまま自然な流れで、次の貴族が挨拶にやって来た。

「陛下、新体制、実に頼もしく拝見いたしました。特にお傍の方の働き、目を引きますな」

そう言って視線がガーネに注がれた。

「必要な者を置いておるだけじゃ」

「なるほど、かなり広く任せておられるご様子で」

「任せることと、決めることは別じゃ」

「陛下、そろそろ次がございます」

比較的ぴしゃりと会話を切ったディアマントだったが、探りを入れたいらしい様子を察してガーネが短く声を掛けた。


「陛下、本日は父と家族もお招きいただき感謝いたします。近衛を預かる者としても、こうして恙なくこの席を迎えられたことを嬉しく思います」

程よくディアマントが疲れてきたらしいタイミングを図ったように、次に休憩に流しやすいように配慮したジェレイドが家族を伴い近衛総監としてディアマントへと挨拶をしに来た。

「このたびはお招き痛み入る。息子が御前にて務めを果たしておりますこと、家としても光栄に思っております」

「ジェスチェルト伯爵か。久しいな」

少し歓談を始めたタイミングで、ガーネは東屋で待機している侍女たちに『そろそろ休憩させる』と手で合図を送った。

視線をディアマントに戻したところで、ジェレイドの父である男と視線が絡んだ。

「近衛総監から話は聞いておる。若いのに大したものだ」

「過分なお言葉です」

「…本日も陛下のお傍は盤石のようでなによりです」

やや苦笑いをしたジェレイドがガーネに遠回しな労いをし、一家で一礼をして立ち去るのと同時にガーネはディアマントを東屋へと誘導した。女王の傍へ向かいたい貴族側の動線を完全に断ち切るようにジェスチェルト伯爵家が上手く間合いに入り、ディアマントは東屋で腰を下ろした。


『休憩中』と知りつつも、女王の休憩場所である東屋まで来ようとする貴族は何人かいる。しかし、警備配置が絶妙であり『わざわざ東屋の方に行きにくい』貴族たちは、ディアマントが出てくるのを大人しく待つしか無い。

その警備を抜けてきた衛兵総監エーリックが東屋に顔を出した。

「陛下、休憩中すみません」

「衛兵総監か、構わぬ。どうした」

冷えた花茶を飲みながらディアマントが顔を向けると、エーリックに連れ添った美しい女性が会釈した。

「ご無沙汰しております」

「ヴィオリーか。よく来た」

「お招きありがとう存じます。お久しゅうございます」


「…ガーネ、衛兵総監の奥方か?」

家族と別れ警備に合流したジェレイドが、ディアマントとともに東屋で小休憩がてら水をわずかに含むように飲んでいたガーネに近寄って声を掛けた。

「そ。めちゃくちゃ美人だけどめちゃくちゃおっかない衛兵総監の奥さん」

その声を聞いていたのかいないのか、エーリックの妻ヴィオリーはガーネへと視線を向けた。

「特務総監殿も、ご昇進と騎士叙任おめでとうございます。お久しぶりですね」

「…どーもありがとーございます……え、こわ」

「あんなに荒れてたクソガキがねぇ、警察官になったかと思ったら王城勤めになってこんな立派になるなんて…ねぇ?」

「まーな、俺も城で再会した時はびっくりしたわ。いきなり『女王直下王命執行最高責任者』の『統裁官』様だったからな」

夫婦で肩を竦め合うように笑いながら話していると、ディアマントが興味深そうにガーネを見た。

「ほう。…ガーネお前、荒れておったのか」

「荒れてないですよ、ちょっとした若気の至りです。決して補導とかはされてません」

「確かに、補導『は』されてないわね。私がまだ現役の警察官だった時にギッチギチに締め上げたことあるんですよ陛下。ビビリ散らかして怯えた顔してました」

「妾も興味があるな、面白そうじゃ。ヴィオリー、今度ゆっくり聞かせよ」

「よろこんで陛下」

「待て待て、俺の人権とプライバシーはどこ行った」

「お前は妾の持ち物で妾の犬じゃ。面白そうなことは全て把握したい」

「あんま面白いもんでもないと思いますけど」

休憩中の談笑が良かったのか、ディアマントも疲労で機嫌が悪くなることはなく過ごしていた。しかし、衛兵総監夫妻が立ち去ったあとにディアマントがふとガーネを見上げた。

「ガーネよ」

「はい」

「お前はそんなに荒れていたのに警察官を志願したのは何故じゃ」

「…一番は育ての伯父の影響ですかね。その伯父の後輩だったのが衛兵総監で、ガキの頃から割と知ってたんですよ。あとは面白半分でやった教会の職業適性診断ですね。面白半分のつもりだったんですけど普通に面白かったですよ、ラインナップが『刑務官・警察官・尋問官・衛兵・近衛・私兵・暗殺者・拷問官・諜報員・処刑人』みたいな。見事にそっち方面ばっかだったんで公務員志望した感じです」

「ほう」

「俺の話何か楽しくないでしょ、『貴族と楽しい談笑』がお待ちかねです。まだいやらしい方の貴族が来てないですからね、多分このあとは値踏みに縁談・ゴマすりに売り込みのラッシュですよ」

「……妾、もう飽きた。疲れた」

「アンタの『騎士』の自慢したいんでしょ。ここからが俺の腕の見せ所なんですけど?」

ほとんど口を湿らす程度しか口をつけなかった水の入ったグラスを侍女長に手渡し、ガーネはどこか得意げな顔でディアマントを見つめて肩を竦めた。

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