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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十八章『招宴』

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270話「小娘の思いつき」

「すみません、遅くなりました。お待たせいたしました」

ガーネが女王の執務室に近侍朝伺へ伺うと、部屋にはディアマントの他ヘルソニアと女官長、侍女長が揃い踏みだった。

またもデジャヴのようなその面子にガーネは咄嗟に口を開いた。

「昨日も俺はなにもしてないからな!というか昨日の夜は来てもいないから!何かあったならそれは俺じゃない!」

ガーネは先手を打つように逃げ腰で言うと、ディアマントの呆れたような声の「当たり前じゃ」という言葉が響いた。


「特務総監様、そも陛下は貴方様しか寝所にお通ししたことがございませんわよ。少なくともわたくしが陛下にお仕えして40年の間は一度も。ねえ、女官長様」

「ええ、私も医官以外では把握しておりません」

「お前たち、いらぬことを申すな。ガーネも馬鹿みたいなことをいちいち申すな、妾との約束に遅刻しおって」

どういう感情なのかなんとも言えない小娘のような顔をしたディアマントは、ソファの上で悠然と足を組んでふんぞり返っていた。

「だから『遅れます』って一報いれたでしょ。来城予定に変更が出たんで、ジェレイドと調整してたんですよ」

「まあ、よいでは無いですか陛下。『ガーネが遅れるなら今のうちに装飾品を決めてしまう』と言って彼女たちを呼んだのは貴女でしょう」

ヘルソニアが助け舟を出すように言いながら、ガーネに正面の席に座るように指を差した。促されるままに一礼して立ち去った女官長と侍女長にガーネも一応会釈をしながら見送り、先に警備案の提出をした。

「お前はすぐに仕事の話をする」

「仕事の話しに来てるんだから仕事の話するでしょ。終わったら『そういう』話も付き合ってるじゃないですか」

「妾がどのようなドレスを纏い、どのような装飾品を身につけるのか気にならんのか」

「え、今その話すんの?…気にはなりますけど、別に当日のお楽しみでいいですよ俺は。だってアンタ、何着たって可愛いでしょ」

ガーネの言い淀みのない即答に返答できなくなったのはディアマントの方であった。それを見てヘルソニアは小さく笑いながら、提出された警備図案を確認した。


「ゲルブ辺境伯が来なくなったみたいで。そこだけ修正と調整してます」

「そうか、良かったな。私も彼はあまり得意ではない」

「代わりに昨日、急にあの成り上がり伯爵家が『やっぱ行くわ』になってましたけどね」

「…其方、意外と貴族事情に詳しいな」

「基本頭に入ってますよ。忙しくて直近3年分しか追えてないですけど陛下への献上品とその裏の意図だったり、王家への忠誠度、私兵・私財・人脈、当主本人より厄介な側近とか実務担当が誰なのか、家族構成と地雷の話題や機嫌の良くなる話題、家同士の対立関係や跡継ぎ争いだったり婚姻と養子での繋がりやその動きとか。まあ、舐められない程度には一通り」

ガーネの言葉に感心したようにディアマントが表情を変え、楽しそうに笑った。

「ほう、聡い男と知ってはいたがなかなかじゃ。お前、政治家向きじゃな」

「嫌ですよ政治なんて興味ない。現場人間なんで俺は。ま、でも現場でもこういうのは役に立つこともあるのでね、例えば『誰が何を欲しがっていて、何を踏まれると動くか』とか、『どこを触って欲しくないか』とか。尋問の基本です」

「ふ、怖い男じゃ」

「陛下には相当優しくしてますけどね、俺。『また』いじめて欲しいならいつでも意地悪してやりますけど」

あまり冗談には聞こえないガーネの口ぶりに、ディアマントは思わず閉口してしまった。

「…侍女たちが言っておったぞ、お前は生粋のサディストだと」

「はは、そうですか。じゃあ失礼します」


話も終わったとガーネが立ち上がるとディアマントは慌ててガーネを引き止めた。

「ま、待て!まだ妾と朝の雑談をしておらぬ!」

「今してたのなんだったんだ。つーかやっぱ確信犯だったな、なんだその『妾と朝の雑談』って」

「だってお前忙しくて自分の気まぐれにしか妾の所に来ぬではないか」

「どこぞの女王陛下様が、色々と職務を命じて役職も肩書ももりもりに与えてくださってますのでお陰様で多忙ですね」

ガーネと何としても時間を取りたいディアマントは、突然ひらめいた顔で手をぱちんと叩いて声を上げた。

「そうじゃ!妾よいことを考えた!」

「あ、却下で」

「まだ何も言っておらぬ!」

「どうせ碌なことじゃないでしょ」

「確かに、陛下碌なこと考えませんしね」

「ヘルソニア!!」

ガーネはディアマントのむくれた顔が可愛いというだけの理由で一応聞くだけ聞くかと向き直った。

「…なんですか」

「妾、庭を散策する!お前と!」

ディアマントの思いつきの提案に、意外にもガーネは少し考え込んだ。

即答で却下されるかと思っていたディアマントは、ガーネの顔をじっと期待を込めた目で見つめると、ガーネは小さく頷いた。

「そのくらいなら、まあいいでしょう。警備動線の確認にもなるし、城内なら危険はない。従者も最低限でいい」

「お前だけでよい」

「そういう訳にもいかんでしょ。最低でも近衛と女官か侍従か侍女、もしくはヘルソニア様」

「私はめんどく…忙しいので遠慮しよう」

「今面倒くさいって言いかけましたよねヘルソニア様」

「陛下の『子守り』の仕事は其方に下ろした仕事故、私の手を離れた」

「…まあいいですけど。でも陛下、今日は駄目です。明日にして下さい。今日は特務、俺とカルセしかいないんで。明日動けるように今日中に調整します」

「…わかった」

ほんの少しだけ拗ねたディアマントだったが、どこか満足そうに小さく頷いた。

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