268話「正装」
「アメジ、その呪符保管出来るか。いつもラズリにやらせてるけど」
「うーん、あんまり得意じゃないけど出来なくはないわ。戻ったらラズリちゃんにやり直してもらう前提でなら、お城戻るまでならなんとかって感じ」
「なら頼む、俺は念のため向こう確認して来る」
結論として貧民街住人による窃盗・盗難による呪符の誤作動だったらしく、大きな騒動になる前に窃盗の犯人をその場で逮捕し控えの警察へと引き渡した。
最後に現場の確認と記録をし、深々と溜息を漏らしながらアメジのところに戻り「引き上げるぞ」と短く声を掛けて現場を後にした。
「やっぱ治安悪ィなあそこ。女置いてきて良かったわ」
「ガーネ様、あたしも女の子よ」
「お前はまごうことなきどこからどう見ても野郎だゴリラが。…ゴリラで思い出したが」
「なにそれ!なんなの!」
「…いや、帰ってからでいい」
妙に含みのありそうなガーネの口ぶりにアメジは色々と突っ込みを押さえながらも帰城した。
「ちょっと俺自室寄るから、アメジお前は呪符の保管をラズリに依頼しとけ。すぐ戻る」
「はぁい」
城内に戻りガーネと途中で別れたアメジは、特務室に戻るなり早速指示通りラズリに呪符保管の依頼をした。
「げ、雑だし下手くそね。誰やったのこれ、ガーネ?」
「失礼しちゃう。あたしよあたし。ガーネ様がこんなちまちましたことするわけないじゃない」
「確かにね、間違いないわ。…で、そのガーネ様はどこ行ったのよ。またあの女のとこ?」
「ううん、一旦お部屋寄るって。すぐ戻るとは言ってたけど」
十数分後、ガーネが特務室に戻って来た。
「おかえり、なにそれ」
「俺のスーツ」
「スーツ?」
「アメジとサイフィル、来い」
呼ばれた2人はきょとんと顔を見合わせてガーネの前に立った。
ガーネは改めてまじまじと2人を見つめ眉を寄せた。
「いや、無理そうだな」
「なによさっきから。失礼ね」
アメジの少しばかりむっとした返答に、ガーネは手にしていた自分のスーツの上着を差し出した。
「一応ちょっと着てみろ、サイズ感だけ」
ガーネから受け取ったスーツにアメジは素直に袖を通す。しかし、まずそもそもとして腕を通すことが出来ずに止まってしまった。
「やっぱ無理か。身長変わらねぇからワンチャンいけるかと思ったけど、ガタイがちげーな」
「アメジとアンタじゃ肩幅も腕の太さも全然違うじゃない、別にガーネは貧相じゃないけど、アメジと並んだら華奢に見えるわよ」
ラズリがその光景を見て肩を竦めながら、保管術式を掛け終わった呪符をガーネに差し出した。
「俺別にそんな華奢じゃないと思うけど」
「アンタ着痩せするんだもん。…開庭招宴の服?」
「そ、さすがに貴族連中がわんさか来るのに『コレ』で出したくねーなと。サイフィルも着てみろ」
「うーん、……ねーデカいよ。ぶっかぶか」
アメジからガーネのスーツを受け取ったサイフィルも袖を通してみるものの、逆にサイフィルは完全に着られているようなブカブカな姿になり、ガーネはどうしたものかと頭を抱えた。
「サイフィルくん、そもそもガーネくんと身長15cm近く違うし体格全然違うじゃない。無理だよガーネくんの服なんて」
スメイラも思わずと言った様子で口を挟み、肩幅も袖も余りまくっているサイフィルの姿を可哀想なものを見る目で眺めた。
「だよなぁ、ミスったな…もう少し早く思い出してればオーダーでも間に合ったんだが…」
開庭招宴まで1週間のタイミングで、別の問題で頭を抱えたガーネであった。
「…明日、スメイラとラズリで責任持ってコイツらの『正装』を見立てろ。総監命令とする。カルセは俺と留守番」
「最悪。めんどくさ。超やだ」
いの一番に反発したのがラズリであった。ガーネもラズリの意見には同意である。面倒であることは否定しない。
「…今回の開庭招宴は、王城側の新体制の披露目的もある。先日の内向きの論功行賞やら、辺境伯しかいない外遊とはちょっとばかし話が違う」
「僕そんなお金ないよ」
「なんでそんなに金が無いんだよ!お前だってそれなりに貰ってるはずだろうが!」
「んー、わかんないけど、お給料日の1週間前には結構すっからかんになっちゃってる、毎月」
「まじかよお前ほんとだらしねーな…スメイラ、コレで払って。付き添った駄賃でお前とラズリもなんか買って良い、カルセのも何か買ってきてやれ。飯も食って良い。カルセは明日は一日俺の補佐」
ガーネは自分の財布から証書を取り出してスメイラに預けると、深々と溜息を漏らして自席についた。
「ガーネくん、領収書いる?上限は?」
「いらん、その証書は俺の個人名義のだ。金額は別に好きに使っていい。ただし、スメイラとラズリ以外は俺の証書を持つな」
それだけ短く指示をし、ガーネは今しがたの出動記録を付けながら押収した呪符を眺めて、再度溜息を漏らした。




