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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十八章『招宴』

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264話「来客」

翌朝、いつも通りの時間に特務室で仕事をしていたガーネと、それを見越して少し早く来たスメイラ。

「おはよう、今日は寝坊しなかったんだね」

「そんな毎日寝坊してたまるかよ。いや、でもアレはほんとにすまんかったとは思ってる」

「いっぱい寝れた?いつもどのくらい寝てるの?」

「あー…まあ大体2時半前後に目ェ瞑って、5時前に起きて6時前にはここいるかな。とは言えここで昼寝もしてるしな。昨日は多分1時前に寝て、起きたら9時前だった」

「ならいっぱい寝れて良かったね。で、今いいかな」

昨夜スメイラがサイフィルと話した内容を掻い摘んで聞き、ガーネは思わず苦笑いを漏らした。


「私があんまり言うのもどうかなとは正直思ったんだけど、必要なことは伝えたつもり。反省文も添削した」

「そうか、悪いな。なんか奢るわ今度」

「なら良いペンとかにしようかな。この前落としたときにペン先歪んじゃってさ」

「はいはい」


数時間後、ほぼいつも通りの時間に特務の面々が集まり始めた。

『謹慎明け』のサイフィルも気まずそうな顔で部屋に入り、ガーネの元に反省文を持って近寄った。それを見てスメイラも一度サイフィルの隣に立ち、無言かつ真顔で反省文の文面を読むガーネの顔を見つめた。

ガーネは小さく溜息をつくと立ち上がり、もはや昼寝くらいにしか活用していない与えられたばかりの特務総監室の内扉を顎でしゃくった。

「サイフィルだけ来い」

「う、…は、はい」

不安そうにスメイラの顔を見たサイフィルだったが、スメイラはぽんと肩を叩くだけで無言で自席に戻って行った。


総監室のソファに腰を落としたガーネは短く「座れ」とだけ指示し、改めて反省文を一瞥してから腕を組んでサイフィルを眺めた。

「アレで済んだと思ってんなら大間違いだぞ。で、スメイラに何言われた」

「……僕が、軽く考えすぎてたって。同じ城で働いてるとか、関係ある部署とか、そういうのは関係なくて……誰に何を言っていいかを僕が勝手に決めちゃ駄目だって…あと……怒られたくなくて謝るの後回しにしたのが一番駄目だって……ガーネが怒ったの、僕が喋ったことだけじゃなくて、そのあと誤魔化したからだって……」

「お前、俺が今でこそこの立場でこの仕事してるけど、元々なんの仕事してるか知ってるよな」

「…警察官」

「そうだ。俺はそういう誤魔化しとか隠蔽とか隠匿が一番腹立たしい。常々言ってたと思うけど、そんなにお前が理解ないとは思わなかった」

「…ごめんなさい」

「お前のことは俺は今まで散々庇って来たつもりだ。だが正直、俺の立場が変わったこともあってこれ以上は庇い切れん。この件は女王陛下にも上申済みだ。次は無いぞ、最悪特務から外すだけじゃなくて、城にもいられなくなる。その先に不安があれば口封じに処刑とか、やろうと思えばいくらでも出来ることを忘れるな。それもいちいち女王に確認を取らずとも、『俺の判断・裁量』で裁けるんだぞ。わかったな」

「…はい」

「まずカルセに謝れ。それからスメイラに礼言え。ラズリとアメジにも迷惑かけてんだ、2人にも相応の対応しろ。それが終わったら切り替えて、きちんと仕事で見せろ。言っておくが、俺はお前に対しての信用が戻るまでは指示する仕事は絞るからな。わかったら戻っていい」

「すみませんでした」


サイフィルがソファから立ち上がってガーネに頭を下げ、総監室を出た。ガーネは朝から疲労困憊といった様子で深々と溜息を漏らし、ソファの背もたれに寄りかかって身体を沈めた。


ドアの向こうの声はわずかにしか聞こえないが、数分置いて頃合いを見計らってから立ち上がり、ドアを開けた。

そのまま自席の引き出しから書類の束を取り出し、ファイルに挟んでスメイラの傍に寄った。

「スメイラ、少し出る。陛下んところと、総務2箇所」

「了解」


ガーネはその足で、総務課服務記録係へ立ち寄りサイフィルの反省文を持参した。

「一昨日出した懲戒の件だ。記録に添付して欲しい」

「かしこまりました、少々お待ちください」

窓口の担当が先日受理した書類を確認し、そこに合わせて綴った。その流れでガーネが確認のサインをし、次に気の重い隣の部署へと足を向けた。


文書統制係のドアを開けると、新人らしく一番ドアに近い末席に座っていたファルが少し面倒そうな顔をして上げた顔を、相手がガーネだと知るや否や表情を変えて立ち上がった。

「お疲れ様です特務総監様、書類ですか?」

「お前じゃない。上を出せ」

「え、…提出じゃないんですか?」

ガーネの持っている書類の束を指差してファルがきょとんと首を傾げたが、ガーネはハナから相手をする気が無さそうな様子で周囲を見回した。

「主任以上で、俺の書類の不備の判断を出来るやつを出せ」

「わ、私でよろしければ…主任です」

ガーネは立ち上がった男性職員の前に向かうと、雑に書類の束を突き出した。

「不備があるならここで見てここで言え、俺の目の前で」

「…確認いたします、少しお待ちいただけますか」


ファルはその様子を見て少しばかり面白くない気持ちと、先日の件を気にしてわざわざ遠巻きに様子見に来たのかといじらしい気持ちの半々だった。

「総監様、お茶淹れましょうか」

ファルは気を利かせて愛らしい笑みでガーネに近寄り声を掛けるが、ちらりと視線だけ向けてすぐに正面の主任に戻された。

「いらん」

「でも、確認少し時間かかるし。あっちに椅子用意するから、ね?」

「……お前、誰に向かって口きいてやがる。俺は特務総監だぞ、立場を弁えろ。…主任だったか、新人の言動の教育指導が行き届いて無いんじゃねぇのか」

「も、申し訳ございません特務総監様。…ファルちゃん、気を使ってくれてありがとね、座ってて大丈夫だよ」

「…はぁい」


ファルは自席に据わり直すと頬杖をついてガーネの横顔や官服についた徽章を値踏みするように眺めた。

────…なによ、人の目があるからって照れちゃって。まあいいわ。


「お待たせいたしました、不備は特にございません。受理いたします」

「そうか」

「あ、特務総監様。差し戻しでは無いのですが、こちらの警察引き渡し案件の書類、出動現場責任者のグリウ補佐官ではなくて部署統括の総監サインの方が望ましくて、これだけいただけますか」

「ペン貸せ」

ガーネが主任から借りたペンでサインをすると、用は済んだかとそのまま出口に向かって歩いた。

出て行く瞬間にほんの一瞬、視線の流れでファルと目が合ったが、ファルがにっこりと笑みを向けたのを無視してガーネは部屋を出た。


ガーネが近侍朝伺のために女王の執務室を訪れた頃合い、特務室の扉がノックされた。

カルセが扉を開けると、衛兵の連絡員が立っていた。

「ハルマニーエ家当主、スターク・エージイズ・ハルマニーエ様がご来城です。特務総監様にお取次ぎを願いたいとのことです」

「…え?ハルマニーエ家の方ですか?お待ちくださいまし……すみません、どなたかガーネ様宛てのお客様のご予定、伺ってまして?」

「ううん、聞いてない」

「…申し訳ございません、事前に特務総監様からわたくしたちも共有されておりませんでして…勝手にお通し出来ませんので、お待ちいただくようにお伝えいただけますかしら。今離席しておりまして」

「承知いたしました、来客控室でお待ちいただきます。確認が取れたら共有いただけますか」

「かしこまりました、お手数おかけいたします」

カルセが衛兵を見送ってから困った顔で振り返る。

全員、同じようにやや困った顔で小さく首を振った。

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