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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十八章『招宴』

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260話「譴責懲戒」

ガーネが立ち去ったあとの室内は、何度目かわからない静寂に包まれた。

しかしサイフィルは困ったような顔して周囲を見回した。

「え、ガ、ガーネってそんな権限あるの?」

サイフィルの素っ頓狂な問いかけに、いつも真っ先に怒鳴り散らすラズリは閉口した。

「サイフィルさん、わたくし何度も申し上げておりましてよ。あの方、厳密には少し異なりますがお城の…つまるところ、国の『権限』だけで言うと実質3番目の序列です。どういう意味か、本当にわかりませんの?」

カルセの静かな問いかけに被せるように、スメイラが口を開いた。

「ガーネくんはね、やろうと思えば君のこと、この場でクビにも出来るし財産の没収も出来るし、理由付けて処刑も出来るんだよ。国の殆どの権限持ってるの。あの子がいつもみたいに怒鳴り散らさなかった理由わかる?陛下がなんでそこまであの子に権限持たせてるか、わかる?『こういう状況も含めて』適正運用出来るって信頼されてるからだよ。そんなガーネくんからの『最後通告』なんだからね。それがわかったら帰って反省文書いて、明日の夜持ってきなさい」

「……はい」

ここまで言われてようやくサイフィルはことの重大さを理解したのか、元々不健康そうにそこまで良くはない顔色を一層悪くしながら、特務室を出て行った。

サイフィルが出て、ようやくアメジも口を開いた。

「……ついに来るべくして来た、って感じね。やっちゃったわねサイフィルちゃん。あたしの手伝いに来たサイフィルちゃんも妙にヘラヘラしてたから何かあったなとは思ってたけど、こういうことだったのね」

「アイツが口軽いのは今に始まったことじゃないけどね。それでも、ガーネは今まで相当庇ってやってたと思うわよ。まぁあの場で即懲戒はさすがにアタシもびびったけど」



ガーネはサイフィルを叱責したあと、真っ直ぐに王城防衛局総務課の服務記録係の窓口へ向かった。

「特務総監、お疲れ様です」

「軽懲戒の記録用紙寄越せ」

「…軽懲戒、ですか。特務ですか?」

「サイフィル・メースィ・ブレイユ。譴責と謹慎1日、反省文提出」

「かしこまりました、こちらです」

ガーネは書類を受け取るとその場で内容を記載し、最後に処分権限者欄にサインをしてそのまま提出をした。

「…受領しました。上への回付は…」

「俺の上はご側近様か陛下しかいない。俺の裁量でいい。直接報告しとく」

「承知いたしました。お預かりします」



文書統制係内でもほぼ同時刻に頭を抱えた係長が青い顔をしながら自席にファルを呼んだ。

「……ファルちゃんさぁ、さすがに特務総監様の机から書類持って行っちゃったのはまずかったね…」

「ごめんなさい、私良かれと思って……だって、差し戻してから3日も止まってたので…」

「いや、うん。そうだよね?良かれと思ったんだよね、わかるよありがとう。でもね、特務総監様に僕もめちゃくちゃ怒られちゃってさ」

「えっ!係長『怒られちゃった』んですか!?可哀想…!」

正しく自分のことであるにも関わらず、叱責された対象がさも係長本人であるように挿げ替えて同情するように目を潤ませたファルに、係長自身もガーネの圧を目の当たりにした純粋な恐怖心も相成って有耶無耶に押し切られてしまった。

「と……とにかくファルちゃん、特にあの特務総監様、怒らせたら怖いって有名だからさ、怒らせないように気を付けて。書類は勝手に持ってっちゃ駄目だよ」

「…はぁい、気を付けます」


しかし、ファルは非常に強かであった。

自席に戻って他の主任や先輩職員たちが慰めるようにファルに声を掛ける中、わかりやすくしゅんとして見せながらも、内心では『攻め方変えないと』としか考えていなかったのである。



ガーネが服務記録係を出た後に向かった先は、女王側近ヘルソニアの執務室だった。

部屋の近くに控える近衛に「いるか」とだけ声をかけ、室内にいることを確認してから扉をノックした。室内から入室を促す声を聞き、ガーネは扉を開いた。

「ヘルソニア様、ご報告が」

応接スペースのソファに促され、腰を下ろした。

「2点あります」

「順に聞こうか。私は生憎陛下のように『耳は良くない』のでな」

「まず先日の王都散策の際に捕縛した男ですが」

「ああ、其方が顎と歯を砕いた男か」

「…お言葉ですけど、咄嗟に殴って『当たった箇所』がたまたま口元だっただけで、狙ってそこ叩いたわけじゃないですよ。喋れるようになるまで時間かかりましたからね。口元は気を付けます、口元は」

「他は?どこを気を付ける」

妙に楽しそうに笑ったヘルソニアに肩を竦めながら、ガーネは小さく息を漏らした。


「俺は喋れさえすりゃなんでもいいです。手足飛んでようが、眼球潰れてようが生きてりゃいくらでも喋らせる余地はありますからね。で、まあそんな余談は置いておいて…王都散策前に捕まえた奴同様、やはり『こちらの内情が漏れて』ではなく、純粋に通行規制や商店への通達から拾った情報で『陛下が出る』って繋げて待ち伏せてたっぽい感じですね。外に出す以上、多少は覚悟してましたが」

城内内通者の可能性が全くゼロではないと懸念していたわけではないが、今回はそうではないと知りヘルソニア自身も少しホッとしたような顔でガーネを見つめた。


「ふむ、そうか。まあ、陛下も正直その日は多少慣れないことで怯えてはいたようだが、存外ケロッとしてはいるからな。性懲りもなくまた『次はあそこに行きたい』『今度はあれを』と言っていたので、ガーネの負担を考えなさいと言い聞かせて一旦開庭招宴という形で納得させたに過ぎない」

「…ま、懲りてないなら良かったですよ。俺も。というか、懲りられるような神経してたらこの年数玉座に座ってないと思いますけど」

「ふ、違いない。…で?もう1点は?」

「相談なしに事後報告で申し訳ございませんが、俺の裁量・判断でサイフィルに処分与えました。今回は軽懲戒、譴責と謹慎、反省文で…どこまで響いたかわかりませんが」

「そうか。また『余計なこと』を言ったのか」

「そろそろ庇い切れないところまで積み重なってるんで、一旦キツめにシメました」

「構わん。何のために其方にそういう権限を与えてると思っている」

「はは、なにせ『寵愛人事』だからですかね。…冗談はさておき、陛下には後で直接報告します」

要件が済むとガーネは立ち上がり一礼をし、部屋を出た。


今日一日だけで、かなりカロリーが高い。

分家からの手紙に、新人文官補の越権行為とその上長への厳重注意、そして度重なるサイフィルのやらかしに対する叱責。

酷く疲れ切った顔のまま特務室へ向かい、さっさと今日中の書類だけ片付けてしまおうと重い足取りで廊下を進んだ。

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