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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十八章『招宴』

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259話「権限の行使」

「ただいまぁ。あ、ラズリちゃん!受け取った荷物、倉庫にしまったわよ。全部入れちゃったけど良かったのよね?」

「ありがと。出す時またゴリラ呼ぶわ、アレ重たいから」

「誰がゴリラ?」

「アンタだよ」

ガーネが自席で書類の確認をし始めた数分後、アメジとサイフィルが戻って来た。

サイフィルがちらりと特務室内を見回し、ガーネの席に視線を向ける。しかしガーネは顔も上げずに書類に目を落としていた。

無論、ガーネ自身はサイフィルの視線に気付いてはいる。

しかし、ガーネも周りの女性陣も何も言わないことから、どこかホッとした顔で息を漏らして自席に腰を下ろした。


「……カルセ。文書統制係の責任者を呼べ。俺のところに、今すぐ」

「しょ…承知いたしました。すぐに」

バサッと雑に書類を投げ置いた直後のガーネの明らかな怒気を孕んだ低い声に、カルセも一瞬声が上ずった。その声にサイフィルも一瞬ギクリと肩を揺らすも、視線を合わせないように机の上の冷めきった紅茶を飲んでいた。



特務室を出たカルセが廊下を進み、日頃よく顔を出す文書統制係へと赴いた。

新人らしく一番末席に座っていたファルが、一瞬面倒そうな顔をしつつも対応するために立ち上がった。

「カルセさん、いかがなさいましたか」

その言葉に少しぎょっとしたように係長が立ち上がり、カルセの顔を見た。

「カ、カルセ様」

遠回しな係長なりの、高位職者かつ聖女であるカルセへの『敬称』の訂正の意味がファルに伝わったかは定かではないものの、カルセはファルには目もくれずにまっすぐに係長の席へ歩んだ。

「ごきげんよう、『特務総監が』お呼びですわ。今すぐに来いとご命令です」

「か、かしこまりました。お伺いいたします」

そのまま係長はカルセの後ろについて歩き、文書統制係の部屋を出て行った。

ファルはその様子を見て小さく首を傾げた。


────まさか、ガーネの方から私のこと『特務の専属事務員にしたい』って交渉かしら。

そんなことを考え、頬杖をついてファルは愛らしい顔に満面の笑みを浮かべてドアを見つめた。



「ガーネ様、お連れいたしましたわ」

「ご苦労」

「し、……失礼いたします…」

やや緊張したような顔の係長を残し、カルセはさっさと自席に戻って腰を下ろした。どうしていいかわからなそうな係長を一瞥し、ガーネはカルセに対し『本当に良く出来た女だな』と感心しつつ腕を組んだまま口を開いた。

「お前が文書統制係の責任者か。『俺が』呼んだって聞いてねぇのか、さっさと来い」

「は、はい」

ガーネのデスクの正面に立たされた係長は、特務の面々からの遠巻きな視線や正面からのガーネの圧に小さく息を飲んで姿勢を正した。

「俺がお前を呼んだ理由はわかるか」

「え、ええと…申し訳ございません。わかりかねます」

「文書統制係の文官補1人、随分好きに動かしてるようだな」

「…う…ウチの新人が、何か失礼を…?」

「俺の部下から色々報告が上がってるんだが、お前は本当に把握していないのか。越権に近い行為、部屋への居座りの業務妨害、それと今日は俺の不在時に『わざわざ俺の机から』書類を何枚か抜いて行きやがった。この意味がわかるか」

「……え、…あの」

「持ち出された書類は、あの新人が『不備だ』と差し戻して来た書類だけじゃない。今度ある開庭招宴の警備配置案の途中資料が含まれてる。知らねぇか」

「ぞ、存じ上げませんでした」

「機密手前の書類だぞ、存じ上げないで済むと思ってんのか貴様」

「ッも、申し訳ございません!」

「至急持って来い。あの女に好き勝手させるな」

「すぐ、お持ちします!」

ガーネに深々と一礼して係長が特務室を飛び出すと、今までにはない種類の静寂が室内に落ちた。


10分足らずで息を切らせながら係長が書類を持参して戻ってくると、ガーネは今一度係長の顔を冷ややかな目で見た。

「いいか、これは『厳重注意』だ。次はない。よく言い聞かせろ」

「かしこまりました…!」


そうして、文書統制係長が退室した特務室は再びしんと静まり返った。

ガーネは無言で、サイフィルを一瞥した。しかしすぐに手元の書類に視線を落とす。

カルセが『きっかけ』を作るために小さく咳払いをしてから立ち上がると、ヤカンに水を入れてお湯を沸かし始めた。

係長から受け取った書類に改ざんなどの痕跡が無いか確認したガーネだったが、処理をする前に再度書類を机に置くと、かさっと紙の擦れる音が小さく響いた。

ガーネの小さなため息が響き、それでも何も言わない様子にガーネは真顔で口を開いた。

「サイフィル、お前も来い」

「えっ」

動揺したように周囲を見回すサイフィルだったが、誰も視線を合わせない。事情を知らないアメジでさえ、空気を読んでラズリから預かっていた納品管理簿と倉庫内の物品管理簿を教わった通りに処理し始めていた。

「さっさとしろ、来いって言ってんのが聞こえねぇのか」

「は…ハイ」

緊張した面持ちでサイフィルも先程の係長と同じようにガーネの机の前に立った。

「お前はなんで呼ばれたかわかってるか」

「…わ、わかんない」

「俺になにか言う事は?」

「え?えーと、うんと…」

「お前、俺の役職と肩書わかってんのか」

「と、……特務総監」

「他」

「王命執行最高責任者」

「他は」

「お、王室近衛騎士」

「つまりそれがどういうことなのか、ここまで言ってまだわからんのかお前は」

「え?えっと、偉い人だよってこと…?」

本当に状況がわかっていない様子に、自席で聞いていたスメイラとラズリは呆れたように小さく溜息を漏らしてガーネは盛大な舌打ちを漏らした。

ガーネの舌打ちにビクリと肩を揺らしたサイフィルだったが、意味がわからなそうに視線を泳がせた。


「バカだバカだと思っていたが、ここまでバカだとはな。お前、あの文官補に俺が尋問中で地下牢にいるって漏らしたらしいな」

「い、言った。でも書類でどうせ知れちゃうことだし、…それに同じお城で働く人だし…尋問の中身はさすがに喋ってないよ、知らないもん」

「尋問の中身を喋ったかどうかじゃねぇ。俺が今どこにいて、何してて、しばらく戻らないって情報をまとめて渡したんだよ。そんなもん、関係ない相手に言っていいわけあるか」

「だ、だって、ガーネがどこにいるか聞かれたら答えるじゃん」

「俺が今どこで何やってるかを、お前の判断で外に出したのが問題なんだよ。もしこれが、俺が騎士としての業務で女王に付き添ってたらどうする。警備情報も陛下の位置情報も漏洩しかねないって考えたらわからねぇのか。尋問に関してもそうだ、もしあの女が内通者だったら?尋問を止めに来たら?お前は自分がどこの部署でどういう仕事をしてんのか、少し考えろ」

「…ハイ」

「ハイじゃねーんだよ、何回も何回も同じ注意させやがって。俺だけじゃなくてスメイラにもラズリにも、今日はカルセにだって怒られてんだろうが。前に俺言ったよな、庇い切れないぞって。もう忘れたのか」

「ご、ごめんなさい」

「部屋戻って来た時点ですぐに謝りに来ればまだ許す余地もあったが、何のために文書統制係の責任者をお前の前で説教したと思ってるんだ。その後にもタイミングはあっただろ。俺は失敗したことで叱責したことは一度もないはずだ、それはお前だけじゃなくてスメイラたちも同じだ。その失敗を隠匿して誤魔化してるから俺はお前を怒ってるんだ。いい加減にしろ」

「気を付けます」

「反省文提出、明日の夜まで謹慎」

「え」

「懲戒!譴責処分だ、わかったら宿舎に戻って反省文書け!」


今まで叱責で済ませていたガーネが下した処分に、サイフィルは動揺を隠せずにいた。ガーネはそのまま机の書類を引き出しにしまい席を立つと、無言で部屋を出て行った。

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