252話「バラ撒き土産」
時計を確認し、若干の迂回にはなるもののこの地区から王都への帰りの時間を逆算した。
とりあえず休憩がてら食事程度は取るかと適当な店に入り、適当な軽食を摘みながら周辺の音声や気配に耳を凝らす。
「……そうだ、土産」
何故土産を買わなきゃいけないとは思いつつも、実際問題完全な私用で急に城を空けて穴を開けたのは事実であった。
とはいえ、金銭が惜しいわけでは勿論無いが、『この土地』に金を落とすのもなんとなく腹立たしい気持ちにもなる。しかし、ここを発つと真っ直ぐ王都に向かってしまうため、仕方がないかとサンドイッチをコーンスープで流し込んで会計を済ませ、適当な店に向かった。
観光地も兼ねているだけあり、菓子類だけでもかなりの品数が取り揃えられている。
適当な菓子を幾つか購入し、あくまでも『ついで』のつもりで別の店へと足を運ぶ。そこは王室にも何度か出入りしている宝飾店の本店であり、ガーネは店内のショーケースを眺めた。
「……これ」
「はい」
店員に雑に声を掛けると、歩み寄った店員がガーネが指差した品とガーネの身なりを交互に確認した。
「…こちらのお品物でしょうか」
「贈答用に包め」
「135万ヴェルでございますが、よろしいのですか」
「値段なんかどうでもいい、証書一括」
値踏みするような視線にあからさまに苛立ちを露わにしつつ、財布から敢えて、俗に『国で一番ステータスとグレードが高い』と言われる信書証書を取り出して店員に差し出し、さっさとしろと言わんばかりに顎でしゃくった。
店員はガーネの財布の中にある『王城勤務者』であることの証明である身分証や通行証がちらりと覗き見えたのもあってか、途端に掌を返したように「お包みいたします」と恭しい程の接客をし始めた。
ガーネがこの土地一帯が嫌な理由のうちの一つが、正しく『これ』であった。
丁寧に包装された箱を受け取り、それ以上は何も言わずに店を出た。改めて時計を確認してから駅に向かい、汽車に乗り込んだ。
軍用直通ではない路線のため、行きとは異なり追加で5時間程余分にかかる。しかし、ノルデンにはなるべく戻りたくなかったため必要経費かと割り切った。到着は、翌朝7時過ぎの予定。
『約束』の3日以内には、十分に間に合う。
個室の一等車両を取り、割り振られた個室に入り簡易机に今回回収した『ピアス』と、伯父から預かった『人差し指程の長さの金属棒』、南の魔女から預かった『円環』を並べてみる。
円環と棒だけの状態では、何をどう組み合わせても形になるような気配はまるで無かった。3つ目であるものが揃えばそれも解消するかと思っていたが、考えが甘かった。
「……やめだやめだ、乗り物酔いする」
馬車よりマシとはいえ、数十分で気分が悪くなってきてあっという間に根を上げたガーネはその3つの意匠を小さな袋にしまってから上着の内ポケットにしまった。
乗り物酔いを誤魔化すように窓の外の遠くの景色を眺めたり目を瞑ったりしてみるものの、一度酔ってしまうとどうにもダメだった。
諦めて途中で仮眠を挟みつつ、王都へと帰りついた。
「……疲れた」
要らぬストレスを抱えて約20時間汽車に揺られ、予定より少し遅く翌朝午前8時に王都の駅を出た瞬間にどっと溢れた疲れが全身を支配した。
とにかくさっさと城に戻って帰還報告だけ済ませてシャワーを浴びて仮眠を取ろうと、城の門に向かう。
しかし通常であればすんなり通れる門でも一悶着発生した。
「そこの方、止まってください」
「なんで」
「な、なんでと言われましても…失礼、所属は」
「……異界対策特務局」
所属を聞かれて返答をし、再度通行しようと脇を抜けようとすると門番に阻まれた。
「お名前をお願いします」
「…ガーネ・ディーム・ロット」
「役職があればお伺いしてもよろしいでしょうか」
「はぁ?……お前、新人か」
「はい。『規則』ですので、役職を。それと荷物の確認を」
「異界対策特務局、特務総監。『公務持ち帰り品』だ、俺の権限で見せる必要は無いと判断する、さっさと確認しろ」
ガーネは疲労のせいで苛立ち混じりに財布から通行証と身分証を取り出して門番に見せると、それを遠くで見ていた別の門番が慌てて走ってきた。
「馬鹿野郎、特務総監だぞ!お通ししろ!……申し訳ございません、総監」
「少なくとも城の上層部の顔くらい教え込んでおけ」
「失礼しました、お疲れ様です。お通りください」
「帰還報告だけ上げとけ」
「かしこまりました」
「……ったく、どいつもこいつも」
規則を守ることは正しいし否定も出来ないだけに、なんとも言えない腹立たしさだけが募る。
いの一番に女王のところへ行こうかとも思うが、まず先に特務へと顔を出した。
「おはよう、戻った」
「おかえり!」
「ほらよ、土産」
ガーネは机の真ん中に菓子箱を置くと、真っ先にサイフィルが箱を手に取った。
「あ!これめっちゃ美味しいって有名なやつだ!遊びに行って来たの?」
「遊びじゃねーよ、『実家』だ」
ここで初めて行先を明かしたガーネの言葉に、特務室内がしんと静まった。
カルセがガーネの席に近寄り少し苦言を呈するように眉を寄せた。
「何故、黙って行かれたんですの?」
「聞かれなかったから」
「そういうことではございませんわ、『出張』と仰っていたではないですか」
「似たようなもんだ、目的はティエフ大樹海と『同じ』だからな。それに……あそこは『俺しか入れない』」
「…次からは、行き先くらい伝えてくださいまし」
「そうする、はいはい。すみませんでした」
「わかってるんですの?」
「わかってるって。悪かった、ごめん」
疲れているところにカルセの『説教』が始まり、さすがのガーネも普段よりも引きが早くさっさと謝罪して肩を竦めた。
その様子に若干納得はしていないながらもカルセは渋々「まったくもう」と小さく呟き、ガーネの土産に合わせて茶の用意を始めた。
「あ、カルセ。俺はいらん」
「かしこまりました」
「スメイラ、留守中何も無かったか」
「出動は1回したけど、特務案件じゃなかったからもう引き継ぎ済み」
「そうか。……悪い、午前休んでもいいか。疲れた」
「今日休めば?」
「あー、うーん…じゃあ、夕方まで休む」
「わかった」
机に積まれた書類を簡単に確認してから、夕方前に仕事に戻ればどうにかなるかと判断してから席を立つと、ガーネは一旦荷物を持って自室へと戻った。




