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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十七章『帰郷』

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248話「新人文官補」

タイミングがいいのか悪いのか、十分足らずでガーネが特務に戻って来た。

部屋に入るなり、ガーネはスメイラへと声をかけた。

「スメイラ。急だけど『出張』に出る。各所調整つき次第なるはやで、3日で戻る案件」

「え?わ、わかった。あのガーネく、」

それだけ言うとガーネが自席に向かおうとすると、スメイラが慌てて呼び止めた。

「待った待った!」

「なんだよ忙しいんだよ俺は」

「わかってる!…あの子、文書統制係の子。書類不備で」

「それで?」

「あの、不備箇所を『直接伝えたい』って」

「はぁ?なんで俺。何のための補佐官だ、お前が聞いておくのが筋だろうが」

「わかってます、すみません。…ガーネくんに『直接挨拶したい』って、勝手に座られちゃって。あとガーネくんのサイン漏れだって」

小さな声で耳打ちされ、応接スペースにいる文官補の後ろ姿へ視線を向け小さく舌打ちを漏らした。

「…呼べ」

さも面倒そうな顔で溜息を漏らしながら、ガーネは自席に座った。

スメイラも同様にやや面倒そうに肩を竦めながら応接スペースに行き、文官補の彼女を呼びに行った。

「…お待たせしました。特務総監お戻りです」

「あら、ありがとうございます」

文官補は振り返ってにっこり笑みを浮かべると、広げていた書類を持って立ち上がりスメイラの後ろに続いて入室した。

文官補は案内された奥のガーネのデスクの前にたどり着くと、にっこりと笑みを浮かべてフレアスカートの裾を持って軽くカーテシーした。

「王城防衛局警務調整課、文書統制係に配属されましたファル・レイ・ローウェンです。ご挨拶に参りました。お目にかかれて光栄ですわ、今後ともどうぞ…」

「御託はいい。俺は忙しいんだ、不備箇所に関しての文句なら今後はウチの補佐官通せ」

「……かしこまりました、特務総監様」

「サインするから書類寄越せ。他の不備はグリウで聞く。ラズリ!」

「なーに」

「さっき話聞いてたか、出張に出る。その前にさっさと始末したいから昨日捕縛したやつ『喋れるか』確認して来い、至急」

「はぁい」

「…なにしてんださっさと書類出せ」

「『相変わらず』お忙しそうで」

「そう思うなら早くしてくんないか」

含みのある言い方をしたファルを一瞥し、差し出された書類数枚にさっさとサインをしながら彼女の言う不備箇所と思わしき部分に視線を投げた。

「ローウェン文官補」

「はい特務総監様」

「お前の言う『不備』はこれか」

サイン以外の不備と指摘していると思わしき箇所を指差し、冷ややかな目で視線を向けた。

「ええ」

「この程度、いつも通してくれてるけどな」

「規則ですので」

わざわざここでスメイラに託す方が時間の無駄かと判断し、その場で不備箇所を訂正して差し戻された書類を突き返した。

「これでいいか」

「……はい」

「何度も言うが俺は忙しい、それ持ってさっさと戻れ。スメイラ、出す前にチェックしろって言ってるよな。俺のサインする前に提出させるな」

「すみません」

「気を付けろ」

「では、私はこれで失礼いたします。特務総監様、『また』来ます」

人懐っこい愛らしい顔で笑いかけながら立ち去ったファルを見送り、スメイラはガーネの席へ近寄った。

「…申し訳ありませんでした」

珍しく叱責するような姿勢を見せたガーネに素直に頭を下げたスメイラに、ガーネは肩を竦めた。

「そこまでそんなくだらねーことで怒ってねぇよ。…パフォーマンスだ、わかるだろ」

「まあ、…でも、一応。…で、出張っていうのはほんと?1人で行くの?」

「1人で出る。早ければ明日には出たい。このあと衛兵と近衛に顔出して来るから、留守中頼む。どうしてもなにか困ったらヘルソニア様頼れ」

「わかった」

「……ちなみに不備箇所は『肩書表記の簡略化』だ」

「えっ、ど、どうでもよくない?ていうか特務から出してる書類なんだしわかるでしょ、何回か略してたけど言われたことも差し戻されたこともないけど…えっ、ほんとにそんな事で差し戻されたの?」

「面倒だから今後は『特務総監』で出せ、『総監』表記だとまた言われる。サイフィルたちにも指導しとけ」

「う、うん」

酷く面倒そうな顔をしてガーネは立ち上がると、深々と溜息を漏らして部屋を出て行った。


ガーネが不在になった室内に取り残されたスメイラとカルセ、アメジ、サイフィルは『一体なんだったのか』と無言でドアを見つめた。

「…とにかく、書類はガーネくんの肩書の簡略化禁止。きちんと最後サイン貰って、『出す直前に』私かガーネくんに最終チェック受けてもらっていいかな」

「わかった。…でもあの女の子、ファルちゃん?めっちゃ可愛かったね。びっくりするくらいの美少女!いくつかな〜今度書類出しに行くの楽しみだな〜」

相変わらずのサイフィルの様子に、なんとなくスメイラは眉を寄せた。



「どうしたガーネ」

衛兵詰所に入り、真っ直ぐに総監席へ向かったガーネに気付いたエーリックは顔を上げた。

「アンタ、総監室用意されてんじゃないのか」

「あるけどさ、別にここでいいじゃん。お前だって部屋貰ってんだろ」

「俺もあるけどあんなの昼寝にしか使ってねーよ。建前で渡された部屋みたいなもんだし」

昇進に伴って、それぞれ『総監室』なる執務室が与えられている。ガーネもそうだが、エーリックも基本は元のデスクで仕事をしている事が多い様子であったが、昇進したとはいえ体制が大きく変わったわけではない。完全に建前でしかないのは、ガーネもエーリックもわかってはいた。

「……で、ちょっと用事というかなんですけど。昨日捕縛したやつの尋問も含め、諸々調整終わったら3日程城空けます」

「どっか行くのか、休暇?」

「あー、うーん。…『実家』」

「じゃあロット署長によろしく言っといてくれ」

「いや、『そっち』じゃない方」

外遊の下見の際にガーネの生家についての事情を知ってしまっているエーリックは、それを聞いて納得したように小さく頷いた。

「……そうか。1人で?」

「そう、だから特務置いてくから。近衛総監にも伝えとく」

「そういうことな、了解。あ、土産待ってるわ」

「………遊び行くんじゃねんだけど」



衛兵への根回しを終え、その足で近衛の詰所に向かう途中で目的の人物の後ろ姿を見つけて声を掛けた。

「ジェレイド」

「ガーネ。どうした」

「ちょっと用事あってお前んとこ行こうとしてた。今衛兵にも言ってきたが、早ければ明日にでもちょっと留守にするから色々頼むって話」

「どこか行くのか」

「建前では出張」

「そうか、まぁ…何かあればでいいんだな。君たち特務と我々は業務が異なる」

「特務じゃねーよ、小娘だ。予定では向こう1週間は外出予定は無いが……俺がいない時に何かあれば、って話」

「そっちか。ヘルソニア様がいるだろう」

「あの人もあの人で最近忙しいんだよ、『俺』という体のいいお守役が出来たから」

「あー…」

ジェレイド自身もガーネの言わんとしている事をなんとなく察した様子で、苦笑いをしながら肩を竦めた。

「ちなみに、どこまで行くんだ」

「…………『実家』。特務には話してない、お前と衛兵総監だけだ。アイツらに言うと『ついて行く』って言いそうだし」

「そうか。わかった。…なら、土産でも期待しておこう」

「あのさ、さっきも衛兵総監に言われたけど…俺、遊びに行くわけじゃないんだけど」

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