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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十六章『逍遥』

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244話「実況見分」

「医官呼べ、あとヘルソニア様」

「は、はい!」

城内に戻り、侍女長に指示を出してからディアマントに視線を向ける。

「陛下、靴擦れ以外に痛いところは」

「…な、…ない、…平気じゃ。歩ける、…下ろしてよい」

小さく返された声が明らかに震えていた。

本人は『下ろしていい』とは強がって言っていたものの、首元に回った腕は離そうという気配はまるでなかった。

ガーネは近くにいた衛兵に、『私室の方に連れて行く』とだけ言付けてディアマントの身体を抱いたまま彼女の執務室ではなく私室の方へと運んだ。

部屋の扉を閉め、ソファに身体を下ろす。しかしディアマントの指先はガーネの服を掴んでいたため、ガーネは足元に膝をついて腕を伸ばし頬を撫でた。

「申し訳ございません、怖がらせました」

「…怖くない」

「ほんとに?」

「………少しだけじゃ」

ガーネは医官とヘルソニアが到着するまで、ディアマントの足元で震えて冷えた指先を包むように手を握った。

「…妾は、死んでおったかもしれぬのか」

「あのね、俺が傍にいて死なせる訳無いでしょ。怪我だってさせるつもりはない。…まぁ、靴擦れは仕方ないですけど」


数分して、医官と共にヘルソニアが私室に現れた。

それを確認してガーネは立ち上がろうと腰を上げるも、ディアマントはガーネの指先を握った。

ヘルソニアと視線を合わせ、小さく頷いてから医官に指示を出した。

「右足首、靴擦れだ。応急処置だけ簡単にしてある。ほかは怪我はさせていない」

「かしこまりました。陛下、足元失礼いたします」

医官が足元に来るとディアマントはようやくガーネから手を離すも、ガーネは傍に控えるように立って離れはしなかった。

靴擦れに消毒をし、絆創膏を貼り直したところで医官は一礼して立ち去った。

それを確認してから、ガーネはヘルソニアに頭を下げた。


「申し訳ございません、少々手荒くなり怯えさせてしまいました」

「構わん、陛下にも『こうなる可能性』は十分伝えてある。陛下自身もわかっている。…お前が『騎士』でなければ、怪我の一つでは済まなかったかもしれんな」

「わ、妾は別に怖くなどない。少し、銃の音に驚いただけじゃ」

「すみません、剣だとお召し物に返り血飛びそうだったので。あとはあの場のあの状況ではあれが最速処理と判断しました」

「状況は聞いている。其方の判断は何も間違えていない」

「は、…では、一度現場に戻ります」

ガーネはディアマントに一礼してから私室を出ると、小走りで現場へと戻っていった。


「……陛下、もうお出かけはやめますか」

ヘルソニアがディアマントに声をかけると、弾かれたように顔を上げたディアマントは首を振った。

「い、いやじゃ。…まだ、…また、出かけたい」

「…楽しかったですか?」

「…ちょっとだけ、物足りなかった。ガーネ、ずっと周辺の警戒ばかりしておった」

「当たり前でしょう。貴女『女王』なんですよ。…ガーネにわがまま言って困らせてないでしょうね」

「だ、大丈夫じゃ。…………多分」

「どうだか。その靴擦れ、大方あの男の言う事を聞かずにはしゃぎまわったのではないですか」

「…………あ」

「なんですか」

「…財布、ガーネの」

「財布?なぜ貴女がガーネの財布を持つんですか」

「自分で買い物をしてみたかったのじゃ」

「…ガーネの私費でしょう。…まあ、いいです。いいのではないですか、『部屋に呼ぶ口実』が出来て。女官を呼びます、湯浴みとお召し替えをなさってください」

やや呆れたような顔をしながら、ヘルソニアは部屋を出た。

ディアマントはガーネの財布の中の王城勤務者の身分証に記載された名前とを見つめてから、自分が与えた肩書と役職を指先でなぞった。

「…王室近衛騎士、か。妾はアレを知ってしまっては、他の騎士など今後立てられぬわ」



*****



「悪い、戻った」

ガーネが現場に戻った頃には、現場一帯は規制線が張られ『事件』の名残のように血痕が散らばっていた。

「陛下は」

「医官とヘルソニア様に預けてきた。現場の状況は」

「野次馬整理はほぼ終わり、混乱で転倒した負傷者も病院搬送してる。捕縛したのは特務何人かと近衛総監で連行済みだ」

「あれ?すれ違わなかったな。裏道通って来たからか」

現場に残っていた衛兵総監エーリックが現場指揮を執っていた。

「あーあ、毎回綺麗に終わらねぇなぁ」

ガーネは白手袋を嵌めて規制線の内側に入るとエーリックに並び肩を竦め、うんざりした声で呟いた。

「お前が戻ると思って死体はそのままだ。お前の足跡もそのまま」

「そら、あの華奢な女とは言え1人抱えて走りゃ残ってるだろうよ。…スメイラ、記録取れるか」

「うん」

「ラズリ、死体見せろ」

ラズリが目隠しに被せたシートを剥がし、ガーネは自分の足跡を辿り元の立ち位置に立って周囲を見回した。

「おい、警官も呼べ。二度手間になるから警察側も同時に検分書書かせろ」

「はい!」

警察官も来ると、ガーネは第一射を再現するため先ほどと同じように銃を構えた。

「一発目はこの場所からこの角度。一人目はそいつだ」

「陛下抱えた状態でお前の立ち位置そこでこの角度?射線取れんのか」

「取れる、ラズリちょっと来い。教官はそこいてくれ」

呼ばれるままに近寄ったラズリを有無を言わさず左腕で抱き上げ、先程と同じ状況を再現して銃を構え直した。一人目の射殺点に立たせたエーリックが小さく「なるほど」と呟いたのを確認してからラズリを下ろした。

「な、な、なによアンタいきなり!」

「ちょっと小せぇけどスメイラよりお前のが体格というか重さが陛下に近い。抱えてる対象の体重でも俺の腕の可動域も代わるだろ、支える必要あるし」

「まって、なんで私の体重をガーネくんが知ってるのよ。先輩とカルセさんはガーネくんに抱かれたことあるけど私はないわよ!」

「待て。お前のその抱かれたとかその言い方は多方面に誤解を与える。言い方を改めろ。俺が節操なしみたいに聞こえるだろ」

「似たようなモンじゃない」

「全然ちげーよやめてくんない。大体、体重なんか体格と背丈見たら何となくわかるだろうがって、そんな話はどうでもいい。とにかく一人目はそこ!二発目はそこの群衆の切れ目越し、三人目は向こうだ。最後指示役はずっと群衆に潜んでやがって気配だけだったんだが、俺がこの位置にずれた時にそこから出てきたからぶん殴ったのがここだ」

ガーネはそこまで説明すると死体に近寄りしゃがんで着衣や持ち物、術式の確認と銃弾の入った角度を確認して記録に残させた。


「…ただ襲うにしても、観察点は悪くねーな。どう思うガーネ」

諸々の状況を整理して、エーリックが少し考えるようにガーネに声をかける。ガーネも少し引っかかりを覚えた様子で小さく頷きながら返答しながら一つの死体を指差した。

「そうだな。ただ…動きはまるで素人だ。見ろよ綺麗に急所一発だぞ」

「そりゃ、お前の腕じゃねぇのか。射撃成績良かったもんな」

「それは否定しないけど、そうじゃないのもアンタわかってんだろ。言われた立ち位置に立って、言われた通り動いてる素人だ。別の指示役がいる。実戦経験あればこんな至近距離で射程にまんまと入らねぇだろおっかなくて。…目撃証言の方は?」

「ウチの若いのと警察にやらせてる」

「さすが、教官仕事が早い。よし、スメイラは戻って記録整理しろ。ラズリは死体処理と呪物含めた残滓確認で残れ。アメジ必要なら呼び戻すがどうする」

「んー、いらない。うるさいだけだもん」

「お前な、今特務教育期間中だって言ったろ。ま、現場引っ掻き回されても今日は迷惑だからいいか」

「そういうこと」

「じゃあ俺は先戻ります。スメイラ行くぞ」

「わかった」

スメイラを引き連れ、ガーネは王城へと戻って行った。

道すがら、スメイラが口を開いてガーネに問いかけた。

「ねぇ、なんであんなにピンポイントで襲撃に来れたのかな」

「数日前の深夜の案件覚えてるか、俺だけ出たやつ。あれの時点でも相当きな臭かったんだよ。ただ、アレも王城側の区画整理要請とか、店舗への通達拾って『そこまでするってことは女王が出てくるんじゃないか』って想定で動いてたっぽいからな。人の口に戸は立てられぬ、ってやつだ。多分その時の連中を俺が始末したもんだから、見張ってたんじゃねーのかと思うぞ」

「わ、その『ことわざ』久しぶりに聞いた」

「この世界ではことわざって使わねぇもんな」

「それより対応しろって指示した数秒後には終わってたんだけど、君の反射神経と動体視力どうなってるの?」

「気配はわかるとして、見えたし動けたからな」


特務室に戻ってまずは一息つくように椅子にどっかりと腰を下ろした。

「疲れた。神経すり減った。カルセなんか飲むもんくれ。冷たいの」

「かしこまりました」

「アメジ、捕縛したのどうした」

「とりあえず、近衛総監の指示で監視付きで宮廷医のところ」

「そうか、あー、疲れた。ラーメンとかそういうの食いたい…あ、やべ財布陛下に持たせたままだ」

カルセが入れた冷たい麦茶を飲みながら、ガーネは『あとで行く口実が出来たか』と考えて息を漏らした。

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