243話「再来の邪魔者」
「そういや俺の財布返してくれませんかね」
「まだ買い物したいから嫌じゃ」
「……まあ、いいんだけど…」
言いたいことを飲み込んだガーネは諦めたように息を漏らし、周囲に警戒の目を向けるように視線を投げる。ディアマントは少しつまらなそうな顔でガーネの顔を見上げていちご串を頬張るも、残り2つ刺さった状態でガーネに差し出した。
「なんだ、もう腹いっぱい?」
「ちがう、いちごはお前も好きじゃろ。食べよ」
「仕事中なんで」
「命令じゃ!食べよ!」
「はいはい、いただきます」
ガーネはディアマントから受け取った串に残ったいちごを食べつつもやはり視線は周辺に向いており、ディアマントは再度拗ねたような顔で立ち上がって勝手に歩き出した。
「あ、おい!……ゴミ、悪い」
「はい」
食べ終わった串を侍女長に託し、慌ててガーネはディアマントの姿を追いかける。
「…なに拗ねてんの」
「拗ねておらぬ」
「そうですか」
明らかに唇が尖って拗ねた顔をしているのを見て、若干の面倒臭さを覚えつつもそれ以上の愛らしさに何とも言えない顔になったガーネだったが、歩き方に違和感を覚えてディアマントを立ち止まらせた。
「……歩き方変じゃねーか」
「変では無い」
「疲れた?城帰ります?」
「疲れておらぬ、まだ平気じゃ!」
「…足、痛いのか」
「いっ……痛くない」
わかりやすくギクリと肩を揺らし視線を逸らしたディアマントを目を細めて見下ろすと、無理矢理腕を引いて近くのベンチに座らせる。
そのまま有無を言わさず足元にしゃがんで靴を脱がせ、ディアマントの踵に出来かけた靴擦れを確認した。
「侍女長、ラズリから絆創膏貰って来てくれ」
「かしこまりました」
「…お、お前、こんなところで妾の足に触れて不敬じゃ」
「はぁ?『こんなこと』で不敬なら、じゃあ俺はとっくの昔に処刑されてんな」
「…いやじゃ、まだ帰りたくない」
「……ディアマント様」
少しだけ泣きそうになった顔のディアマントが顔を上げ、足元にしゃがんだガーネの顔を見た。
ガーネが、彼女の執務室以外の場所で名前で呼んだのは初めてであった。
「…なんじゃ」
「『次は』、どんな服着て出かけましょうかね。俺が服プレゼントしたら、それ着てくれますか」
「え」
「話の続きは『2人で』しましょうか。今日は帰りますよ。…ラズリ、靴擦れだ。とりあえず診てくれ」
「はーい。陛下、失礼しますよ」
タイミング良くラズリが絆創膏を持って来たので、簡易的に処置をさせる。
その間に少しディアマントから少し離れ、衛兵総監と近衛総監とスメイラに『帰る』ことを伝え、帰りの警備配置にそれぞれつかせる。ガーネはディアマントの背中に左腕を回し、軽々と抱き上げるとディアマントは明らかに戸惑ったような顔で至近距離のガーネを見つめた。
「陛下、念のため右手空けておきたいのでちゃんとしがみついて貰っていいですか。さすがに落としはしないけど一応」
「お…重くないのか」
「全然。体重言い当てましょうか」
「わ、わかるわけないじゃろ!」
「わかりますよ、持った感じでなんとなく。44か45くらいでしょ」
「…お前、気持ち悪いと言われぬか」
「はは、どうでしょうね。怖いは言われますけど。…で、ちょっとちゃんと掴まっててください」
「え?」
ディアマントの身体を申し訳程度に支えるように添えられていた右手が離れ、反射的にガーネの首元に両腕を回してしがみついた。次の瞬間にはガーネは既に官服で隠すように装備していたホルスターに右手を伸ばして握っており、ディアマントがそれを認識した時には一発の銃声が王都内に響いていた。
群衆の一瞬の途切れの隙間から、明らかにガーネとディアマントを狙った襲撃であった。
「敵襲!対応入れ!」
ガーネの声が周囲に散った衛兵や近衛、特務に届く。
銃声とガーネの『敵襲』の声に、近くで『女王と叙任されたばかりの騎士』を眺めていた野次馬が地面にしゃがみ込み、悲鳴が上がった。
「野次馬が邪魔だな…!」
近衛と衛兵は配置的にほんの少し遠い、私服配備は群衆のパニックに揉まれすぐに駆け寄れない、特務は状況を確認した瞬間に動き出したはいいものの、ガーネの声で反応したためにワンテンポ動きにラグがあった。
ガーネとディアマントに向かってくる教徒は、目視出来るもので2人。気配だけはもう1人いる。
ガーネは位置を確認すると容赦なく引き金を引き、二発分の銃声に腕の中のディアマントもさすがに小さく悲鳴を上げていた。
「陛下!」
ここまでわずかほんの数秒ではあるが、衛兵総監エーリックと近衛総監ジェレイドがガーネの元に着いた時には3人処断済みであった。
「チッ、どいつもこいつも…!」
ガーネの死角をついたらしい教徒を1人、拳銃を握ったまま銃床で力一杯殴り倒すと、総監2人に目配せをした。
「捕らえといてくれ、指示役はこいつだ。後の処理任せます」
「お、おう」
ガーネの敵襲の声からほんの数秒の間に片付いてしまい、処理速度の異常さにさすがのエーリックも言葉に詰まった。
「ラズリ、術式剥がしておけ」
「わかってる」
腕の中のディアマントの様子を見下ろし、力一杯しがみついている小さく華奢な身体と民衆は混乱していても被害が無さそうなのを確認してから声をかけた。
「陛下、ちょっと走りますよ」
後の対応を任せ、ガーネはディアマントの身体を抱き直して王城へと走った。




