240話「着せ替え人形」
打ち合わせが終わり、ガーネは特務室に戻った。
官服を脱いでネクタイを外した姿を見て、ラズリはいつものように同席するかと腰を浮かせた。
「今日はいい」
「え?でも」
「序列でもなんでもない、どうせ耐えられずにすぐ喋る。30分もあれば十分だ。スメイラ、外出は少し待て」
「わかった」
ガーネはそれだけ指示して部屋を出ると、真っ直ぐに地下牢へと向かった。
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「陛下、確かにこちらはお可愛いですが…わたくしたちも特務総監様から『指示』を仰せつかっておりますので、もう少しこういった形のほうがよろしいかと存じます」
ディアマントの衣装合わせに装束室に同伴したヘルソニア・女官長と侍女長が、ディアマントの手にしたワンピースを見て苦言を呈した。
ディアマントは不満そうに眉を寄せて女官長を見遣ると、手にしたワンピースに視線を落とした。
「…あの男、お前たちにも根回ししておるのか」
「ええ、『肌は見せず動きやすく、目立ちすぎない』ものと」
ガーネの指示に納得している様子の女官長が深く頷いて見せ、隣のヘルソニアも眉を寄せた。
「陛下、貴女それただ『可愛い』だけでしょう。駄目ですよそんな、スカートの丈が膝上だなんて」
「だ、だって『動きやすい』かと思ったのじゃ」
「走り回るわけじゃないんですから、そんなのはいけません。ガーネも怒ると思いますよ」
「……」
またもふてくされた顔をして手にした服を戻し、ハンガーにかかった衣装を一枚ずつ眺めていく。
女官長が肩を竦め、侍女長が助け舟を出すようにディアマントの好みに合いそうなものを探そうと声をかけた。
「陛下、どのようなお召し物がよろしいですか。陛下のご希望と、特務総監様のご指示をすり合わせましょう」
「…か、可愛いのがよい」
「そうですね、…前回のご外遊の際にお召になったワンピース、特務総監様なんと仰っていましたか?」
「……可愛いと言っておった」
「なるほど。彼意外と、王道可愛い系が好みでしょうかね」
「王道可愛い系…?」
首を傾げたディアマントと、なかなかの分析力の侍女長を見てヘルソニアが笑った。
「確かに、あの男の『好み』は存外はっきりしているな。『わかりやすい』と思う」
「でしたら、生地はこういった形でふんわりしたものがいいのでは」
一例として生地感の見本に手に取った衣装を見て、女官長が少しだけ眉を寄せた。
「ですが、特務総監様のご指示の『動きやすい』には反しませんか。万が一の時に生地がひらひらしますわ、引っかかってしまうかもしれません」
「女官長様、特務総監様ですわよ。いくら『動きやすいもの』と言っても、万が一の際に陛下を走らせますかしらあの方。抱き上げて自らが走るお方ですわ」
「確かに、ガーネならば陛下を担いで走るだろうな」
「ならばやはりこの系統の、お色味は陛下の雰囲気に合わせてこういった色合いが『可愛らしい』のではないでしょうか」
「う、うむ」
「形はAラインよりはエンパイアの方が上品にまとまりますわ。かつ、少しパニエでボリュームを出せば可愛らしくもなります。あとは小物やヘアアレンジで、可愛くも上品にも綺麗にもできましてよ」
「でしたら色味はこちらの方が、目立ちにくいながらも品の良さは出ますわね。王としての品位は最低限保っていただかねば…お顔は民に知れておりますので、恥ずかしい格好はさせられません」
次第に着せ替え人形のようになって次々に衣装替えをさせられ、夕方になる前にはぐったりと疲れ果てていた。
「…ヘルソニア、妾は今日はもう休みたい」
「そうですね、よく頑張りました。しかし貴女、そんなに体力がなくて散策に行けるんですか。ガーネも言っていたでしょう、『疲れたからと言って抱き上げない』と。あの男は警備の支障になるのでわざわざそういう甘やかしはしてくれませんよ」
「…が、頑張る………ヘルソニア」
「はい陛下」
「…あの衣装、可愛いか」
「はい、お可愛いと思いますよ」
「……」
「ああ、失礼しました。多分『ガーネの好み』だと思いますよ」
「そうか」
ヘルソニアは非常に面倒そうな顔で息を漏らし、ガーネから上がってきた『尋問結果』の報告書に目を通した。
「…尋問結果か」
「はい」
「なんと?」
「今回は開始15分で喋ったようですね、最速じゃないでしょうか。ガーネの想定通り、城内内部の潜伏ではなくたまたま通達が回った際に近くに居合わせて『出世目的』で動いていた下っ端の連中だったようです。処理済み、とのことです」
「……あの男、本当に聡いな。妾はたまに、アレが怖い」
「口では勝てないですもんね」
「そうではない。…妾の目的に気付いたら、アレはどうするのか。妾を殺しに来るだろうか」
「………さあ、どうでしょうね。貴女はどうしたいんですか、『今度こそ添い遂げたい』なら、私は止めません」
「…わからぬ、でも『今は』…このままいたい」
「…陛下、私は貴女の味方です。今も昔も」
「わかっておる」
ディアマントは机に伏せ、疲労に小さく息を漏らして目をゆっくりと閉じた。




