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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十六章『逍遥』

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239話「苛立ちと不機嫌の理由」

翌朝、特務室へ入った面々はガーネのあからさまな不機嫌具合にいつも以上に静かに過ごしていた。

出動記録を清書し、身柄引渡記録、押収品管理票、死体処理・検分依頼書、尋問前処置依頼、警察への対応済み通知を無言で書き、カルセが気を利かせて少し甘くしたホットミルクを机に置いた。

「ガーネ様、こちら置きますわね。…昨日出動なさったんですの?」

ガーネが苛立っているのはわかってはいるものの、カルセ本人にはガーネの苛立ちは関係がないことと、自分の苛立ちを部下にぶつける男では無いことを理解した上で声をかけた。

「あ?あー、結果ウチ案件だったけど、警察からの共有の不審者報告」

「起こしてくだされば同伴いたしましたのに」

「お前らに隠密行動は教えてないからな、昨日みたいな案件は俺向きだ」

カルセの読み通り意外と返答そのものは『いつも通り』だったことに一同安堵し、スメイラがガーネに声をかける。

「ガーネくん、今日全員で出かけるから君の予定だけ教えて。そこ外して出るから」

「陛下の予定確認にこの後行くのと、昼に王都散策警備の調整で打ち合わせ。あとは特に無し」

「じゃあ、午後出るね」

「おう、…アメジかサイフィル来い」

「はぁい」

たまたま立っていたアメジが呼ばれるままにガーネに近寄り首を傾げた。

ガーネは今しがた書き終わった書類をアメジに手渡し、頬杖をついて視線を向ける。

「昨夜の俺の出動記録とそれに関連する書類だ。何をどう書いてるのか、お前らで一旦内容確認しろ。で、わかんないところがあったら俺かスメイラに聞きに来い。午前中のお前らの仕事」

「わかったわ」

それだけ指示をすると、ガーネはネクタイを締め直して立ち上がった。

「陛下んとこ行ってくる」

「はーい」


ぱたん、と閉まったドアを見て、ようやく一同は息を漏らした。

「…こっわ。なにあれ」

珍しくそれまで黙っていたラズリが引きつった顔でドアを見つめて呟く。

「昨日の出動で苛ついてる感じでは無さそうというか、夜勤の衛兵から聞いた話出動したときには既にかなり苛ついてたって。2人暗殺して1人は殴打と飛び蹴りで結構な重傷だって」

「何に苛ついてんのかしら。またあの女と喧嘩した?昨日の会議でもワガママ三昧だったし」

「うーん、夜にガーネくんと2人だった時は私にはそうでもなかったんですけどね…」

「僕聞いてみようか?」

「事故らないようにだけしてくれれば」



「陛下今日のご予定は」

不機嫌さを隠しもしない棒読みでガーネがディアマントに声をかける。

偶然ではあるものの『2人きり』で、ディアマントは小娘のように視線を泳がせながら口を開いた。

「きょ…今日は、今度の王都視察の衣装合わせじゃ」

「向こう一ヶ月の予定に変更は」

「…今のところ無い、が…なんで怒っておる」

「怒ってねーよ」

「顔が怖い」

「いつもだろ、どっちかっつーと優しい顔の造形してねぇだろ」

「まあ確かに?って、そうではなく」

「ああいう生殺しは初めてだ。捕縛した教徒が雑魚なのはわかってるが、たっぷり礼をしてやらねぇとと思いまして。ただちょっと強く入り過ぎましたね、二発しか入れてないのに瀕死みたいです」

「な、生殺し」

ディアマントは改めてガーネの『男』の部分を垣間見たようで、小さく息を飲んだ。


「服ですけど」

「服?」

「余計な視線を集めるから肌を出すな。目立つ服も禁止。走れない服も論外だが足を出すのは禁止だ」

「なんじゃお前、前に妾のスリットの入ったドレスを見てよいと申しておったではないか」

「チッ…俺が気に入らねぇのがわかんねぇのか」

「………」

「返事をしろ返事」

「わかった、……お前も衣装合わせに同席するか」

「いや、ここまで言えばわかるだろ。せっかくだから好きな服着ろ。ただし肌は出すな手袋をしろヒールも履くなわかったな」

「わかったわかった。……ガーネ」

「はい」

「可愛いのと綺麗なの、どちらが好みじゃ」

「可愛い系」

間髪入れずに即答したガーネに、ディアマントは少し首を傾げた。

「なんだよ」

「お前は人の足を見たがるから、可愛いのよりもそういう少し大人っぽい系統の方が好きなのかと思っておった」

「なんだお前まで、人の女の好み聞くのか。系統は綺麗系な女よりも可愛い系の女の方が俄然好みだ、庇護欲が増す」

「ほう。妾はよく美しいと評されておるが、お前の好みの女ではないと申すか」

「はぁ?……いや、お前は可愛い系だろ。確かに顔は綺麗だと思うけど、言動が綺麗系じゃない」

「言動…」

「とにかく、露出していなくて動きやすい服ならなんでもいい。以上」

懐の時計を見て時間を確認すると、ガーネは無理矢理話しを切り上げて一礼した。そのまま部屋を出ると、特務には寄らずに打ち合わせで押さえた部屋に向かうと、既に衛兵総監・近衛総監が待機していた。

「悪い、遅くなった」

「いや?時間ピッタリ」

ガーネが椅子に腰を下ろすと、早速警備打ち合わせを始めた。


「…ところで、昨日の俺の出動の案件は聞いたか」

「あー、一応。まだ報告書上がってきてないから昨日の夜勤の連中からだけど」

「やっぱり、巡回強化指示やら店舗への通達がどっかで滲んでんな」

「外遊の時も思ったが、あまり考えたくはないが城内部に内通者がいる可能性は?」

ジェレイドの言葉に、ガーネは少しだけ考えるように腕を組んだ。

「……100無い、とは言いきれないが…均衡教徒の連中はほぼ漏れなく、口封じの為の自壊術式が埋め込まれている。俺が連中の気配に気付けるのも、その術式の気配由来が4割」

「残りの6割は?」

「俺の『血』の問題だ、生まれとだけ言っとく」

ガーネの出自の話に、過去地雷を踏み抜いたジェレイドだけが若干気まずそうな顔をしたのを見て、エーリックが被せるように口を開いた。

「その自壊術式と内通者の関係は?」

「俺の更迭騒動の時に、ぶっ倒れただろ。そん時に『城の中の警備どうしますか』って衛兵がアンタに聞いた時、俺なんて言ったか覚えてるか」

「……陛下の結界」

「そ、城の中は基本陛下の加護がバチバチに効いた結界が張られてる。連中の術式はそれに引っかかって入れない」

「100%無い訳ではないと言っていただろう」

ジェレイドが少しだけ身を乗り出して確認すると、ガーネは小さく頷いた。


「例の邪教連中にも階級がある。一般的に有名なのがあのローブ連中。アレら未満の使い捨てがいる。そいつらは、自壊術式を組み込まれていない。『洗礼』って名目で埋められてるっぽいな」

「つまるところ、そのローブ持ってる奴未満の教徒が城内にいたらわからんってことか」

「あとは普通に、口の軽いやつが城外で話してるのを街中で会話拾われてるか、警察内部に教徒がいる。実際警察にもいたしな、過去に潰してるが。よりにもよって署長だぜ署長」

「まじかよ」

ガーネが過去に始末した警察署長を思い返し、肩を竦めたところで入口のドアがノックされた。

「打ち合わせ中失礼します。特務総監はいらっしゃいますか」

「なんだ」

声をかけるとドアが開かれ、衛兵の一人が顔を出した。

「案件なら特務の方に行け」

「いえ、あの…昨夜捕縛した男、意識が戻ったそうで。ラズリ様の指示で地下牢には入れましたが、どうしましょう」

「後で喋らせに行く。俺が行くまで見張らせろ」

「かしこまりました」

衛兵が敬礼して出ていくと、ガーネは小さく笑みを浮かべた。

「さて、あの男はどこまで知ってるのかね。丁度良い」

「おーおー。おっかねーな」

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