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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十六章『逍遥』

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238話「サイレント・キル」

「警察から非公式に寄越された情報でして、王城近辺で数日続けて確認されている不審者の特徴が毎回同じでして。巡回に近付くと散って、路地や屋根の見通しを妙に気にしていると…我々衛兵も確認に走っているのですが、今度陛下の王都視察もあるので一度特務総監にご相談した方がよいかと」

「人数は」

「3人と聞いています、特務起こしますか」

「いや、アイツらに隠密行動は教えてないから俺だけでいい。近くに衛兵か警察は配備してるんだな」

「はい」

「なら、なにかあれば合図するからその時でいい。巡回中の衛兵と警察に指示しろ、『素知らぬ振りして泳がせろ、追うな』とな。俺が一人で動く」

「かしこまりました」

ガーネは官服は敢えて着ないままに装備だけ整えると王城を出て、報告のあった地点を見渡せる少し高所へと移動した。

事前に聞いていた人数と人相、行動から『連中か』とアタリをつけ、会話が聞こえる距離まで移動する。

教徒特有の、体内に埋め込まれた術式の気配から『均衡教徒』であることはわかる。そのうえで、仕事の雑さや詰めの甘さからおそらく序列も与えられていないような雑魚であることは伺い知れた。


「…やっぱり、確認したところ5日後に王城で何かあるっぽいな。この辺の規制要請とか、巡回強化指示とか出てるらしい」

「ってことはあの小娘もまた『お出かけ』でもすんのかね」

「その可能性がかなり高いな。だけど確証持てるまでは下手に上に報告も出来ないしな…」

「だけど『女王の犬』、アレ騎士になったんだろ。嗅ぎ付けられる前に情報集めねぇと、俺らも満足に動けねぇぞ」

「よし、じゃあまずこの辺の店に侵入して通達書の類がないか確認しろ。お前はこの辺に女王が来ると想定した暗殺ルートの下見だ、高所確保」


────聞いてるっつの。

ガーネは無言で教徒3人の会話を聞きながら、『良いところ』で邪魔をしてくれた元凶を見て、どう落とし前を付けさせようかと苛立ち露わに目を細めた。

雑魚とは言え、指示役らしき男は捕縛の価値はありそうだなと判断した。バラけた所で他は始末するかと革手袋を嵌め、壁伝いに降りて足音を立てずに地面に着地した。

たまたま近くにいた衛兵と視線が合うと、指先で呼び寄せ追加指示を出した。

「今から2匹始末して1匹は捕縛する。城戻って魔導師か巫術官一人待機させとけ、ついでに手錠貸せ」

「は、至急動きます」

衛兵から手錠を借りると腰のベルトに差したナイフを抜き取り、刃を起こす。少し先で家屋に侵入しようとしている男の背後から近寄ると、首元に腕を回して男の声を塞ぎながら左頸動脈を切り裂いて始末した。崩れる音を立てないように身体を抱え、近くの路地裏に転がして所持品を漁りながらもう一人の『高所確保』に向かった男の姿を視線で追った。

「チッ、碌なもん持ってねーな。マジで雑魚かよ」

懐にあった呪符とワイヤー、ナイフを確認し、ワイヤーを拝借する。再度足音と気配を極力消して高所を取りに行った男に忍び寄った。

雨樋に足をかけ、窓枠に手をかけたところを見計らって背後から音もなく首にワイヤーを引っ掛け、一気に後方へと体重をかけると、相手の男は声も出せずに足場を踏み外し落下する。ガーネはそのまま容赦なく背中に膝を入れ、ワイヤーを更に引いたところでか細く漏れていた呼吸が完全に沈黙した。

少し遠くで待機指示を受けていた衛兵と警察が遠巻きにガーネを見ていたが、『そのまま待機』の合図を出してガーネはワイヤーを引っ掛けて屋根に登った。


「…おい、まだか」

指示役の男の小さな呼びかけが静かに聞こえる。

しかし、既にガーネによって二人とも暗殺されているとも知らず、男は周辺を確認するようにそっと忍んでいた路地裏から顔を出した。

「どうした、トラブルか」

指示役の男が、2人の反応や返答がないことに気付き小さな声で呼びかける。

その様子は屋根上で位置取りしているガーネからは良く見えており、『この男共の雑な仕事のせいで良いところを邪魔されたのか』と改めて思うと無性に腹立たしく感じた。

最後の一人だし多少荒立てても構わないかと八つ当たり要因に認定すると、屋根の出っ張りにワイヤーを固定し直してからガーネは屋根を飛び降りた。

その気配に気付き振り向いた男の視界には、ガーネが既に眼前に迫っており渾身の蹴りが胸元に入った。

息が詰まる程の激痛に声も出せないまま地面に倒れ込むと、着地したガーネの下敷きになって骨の砕ける音が響いた。

「女との逢瀬の邪魔しやがった無粋なてめぇには、後で俺がしっかり礼をしてやる」

そのままガーネは完全に八つ当たりで男の顔面に拳を落とすと、反動で頭を地面に打ち付けた衝撃もあって呆気なく気絶した。

「確保!」

ガーネの低い声が王城近くの路地で響き、その声を合図に一斉に待機の衛兵と警察が動いた。

今しがた気絶させた男を転がして後ろ手に手錠をかけ、念のため時間を確認してから肩に担ぎ上げた。

「俺が持って帰る。向こうの路地とそこの角に死体二匹分転がしてある、所持品だけ抜いて処理しろ」

「は!」

王城へと帰っていくガーネの後ろ姿を見て、衛兵数人は小さく息を飲んだ。

「…特務総監、現着何分でケリついたんだ今日」

「……2分、40秒くらいか。おっかねー…あの人暗殺官か何かだったのか前職」

「俺、衛兵総監から『元警察官』って聞いてるけど」


王城の門の前で捕縛した男を転がし、門番の衛兵を呼んだ。

「おい、待機させてる魔導師か巫術官至急呼べ。あと衛兵数人と宮廷医の手配」

「はい!」

数分も立たず、本日の夜勤だったらしい巫術官長が門の外に姿を表し、ガーネを見て肩を竦めた。

「死んでおるのか、儂は蘇生は出来んぞ」

「殺してないですって。ギリギリ。…門くぐると陛下の加護結界にこいつ引っかかるんで、中入れる前に術式剥がしてもらっていいっすか」

「そういうことか、数分待て」


巫術官長が慣れた手つきで均衡教徒の『自壊術式』を無効化し、所持している呪符を保管した。


追加で呼んだ衛兵と宮廷医が到着すると、拘束した身柄を託した。

「いつも通り、喋れるようにしろ」

「承知しました」


明らかに苛立った顔のまま無人の特務室に戻り装備を外すと、盛大に溜息を漏らした。

自席に腰を下ろし数分無言で黙って座ってはみるも、苛立ちが余計に増すだけだった。ガーネは舌打ちを漏らしながら出動記録だけ簡単に書いて時間の記録だけ残すと、あとは朝にやろうとそのまま自室に引き上げた。

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