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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十六章『逍遥』

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236話「機嫌」

「…食いもんばっかじゃね」

資料を見た衛兵総監エーリックの呟きが小さく室内に響いた。

「俺は『3つくらいまでにしろ』って言ったんですけどね。まぁ次から次へと出るわ出るわで。どうせそんな食えないのに」

「妾が食べきれなかった分は、ガーネに食べさせる。問題ない」

「あのですね。俺アンタが思う程大食いじゃないんですよ。そんな食えないから持ち帰れるやつにするか食べ切れる量にして下さいって言ってるんです」

「ガーネ!僕食べれるよ!」

「スメイラ、そこのバカ黙らせろ」

盛大な舌打ちをして見学の特務を睨みつけながらも話しが進まないとまずは日程から詰めることにした。


「で、とりあえず陛下のご都合…って言っても毎日城にいるだけなんでアレですけど、候補日程いくつか確認したんでそこから。陛下の希望はこの日程なんですが、第二希望日程は王都での『王都大市』が開催されるので却下ですね」

「王都大市?なんじゃそれは、なぜ却下じゃ」

「端的に言えば月イチ開催される巨大市場イベントです。商人も観光客も密集するし警備上無理です」

「行ってみたい!その日にしよう!」

「話聞いてたか、無理だって言ってんだろ。ついでに、第一希望日程は聖日なんで人の流れも一点集中する。ウチのカルセもそっちに取られるから却下」

「第三希望は私が陛下の代理で地方公務に行かねばならないから不在だ」

「あー、ヘルソニア様いないなら第四候補以降で決める必要ありますね」

ガーネは文官から手渡された王都内の行事予定表を確認して行くと、またもディアマントが口を開いた。

「ヘルソニアがおらんでも構わぬ。こいつがいると走るなだの動くなだのとやかましくて敵わぬ。せっかくの散策じゃ、妾は羽を伸ばしたい」

「…貴女、わざと私が忙しい日ばかり候補に入れてますね」

ヘルソニアがじとりとディアマントを見ると、ディアマントは勝ち誇った顔でガーネを見た。

「陛下」

「なんじゃガーネ」

「一応言っておきますけど、俺が隣につく以上ヘルソニア様より厳しいですよ。走らせないし警備動線の邪魔になる行動はさせないし、勝手にうろつくことも絶対許しませんけど。貴女わかってるのかどうか知りませんけど外遊より王都内の方が警備難しいんですよ。無意味に人の流れ止めるわけにもいかねぇし、かと言って大々的に封鎖なんかして安全確保しようとしたら均衡の連中に『陛下が城下散策に出ます』って宣伝するようなものだしかえって危険度上がるんです」

「確かに、私よりガーネの方が厳しそうだな。ガーネに任せて構わないなら私も安心だ」

「じゃあ、日程は第四希望日か予備日で第三希望日でということで…文官、警察とかこのあと決めるルート上の店舗とかへの調整を」

「かしこまりました」

「はぁ……で、陛下。貴女一番どこに行きたいんですか」

「全部!」

「………話聞いてた?」

「わたあめと、この前お前が持って来た小さいケーキと、噴水と、市場と…」

「ストップ。市場は却下」

ガーネの制止に衛兵総監エーリックと近衛総監ジェレイド、側近ヘルソニアだけでなく文官も静かに頷いた。

「なぜじゃ。妾、市場で色んな店を見て、買い物をしてみたい」

「市場は駄目だ。警備が難しい。昨日軽く見てきたが、死角も多いし潜伏されそうな箇所も多い。万が一そこに陛下がいるタイミングで均衡の連中が来たら一般人への被害が必要以上に出る。それを見越して区画封鎖すると店の営業に影響が出る。市場は許可出来ない」

「…お前、もっともらしい理由を並べおって」

少しだけしゅんとしたディアマントを見て若干可哀想な気にもなるが、ガーネは目配せしたヘルソニアに小さく頷かれ話を強行した。

「じゃあとりあえず区画はこのエリアで、一応陛下の希望の店もある。警備もしやすい。時間も2時間程度で見ているから妥当かと思うが、どうだ」

「問題ない。しかしガーネ、今回魔導師や巫術官は同伴はどうする」

ジェレイドが人員について確認すると、ガーネは部屋後方に固めた特務に視線を投げた。

「ウチの魔導師と巫術官で十分だ。あまり大所帯にしても街の混乱の原因になるが…かといって少数にしすぎても、また女官長に『陛下の見栄えが』って苦言呈されるからな。衛兵と近衛で私服配備しつつ、警察に要請出して外側の巡回と待機が妥当かと思う」

「そうだな、一番それが綺麗だと思うぜ」

エーリックもそれに同意すると、ガーネはややむくれた顔のディアマントの隣に座るヘルソニアへと視線を向けた。

「ヘルソニア様、こんな感じでいかがですか。細かい内容は追って詰めていきます」

「いいだろう。ただ一つだけ」

ヘルソニアはこくんと頷き大筋に了承するも、ガーネをまっすぐに見つめて何か言いたげにした。

「はい」

ガーネがなにか不足があっただろうかと懸念し少し身構え、同じようにエーリックもジェレイドもガーネとヘルソニアを見たが、ヘルソニアはガーネではなく隣のディアマントへと向き直った。

「…陛下、ガーネに迷惑をかけてはいけませんよ」

「なんで妾にそれを言うのじゃ」

「心配だからです。貴女、絶対調子に乗ってはしゃぎまわってガーネにわがままを言うでしょう。困らせてはいけませんからね、全てあの男には報告させます」

「あ、ヘルソニア様大丈夫です。俺の言う事聞かなかった時点で中断させますので」

「そうか、ならば安心だ」

「よし、じゃあ今日は一旦ここで締めてよろしいですか」

「そうだな。では後は総監三名に任せよう」


「…妾の王都散策なのに」

ディアマントの『想像していた楽しい計画』とわりとかけ離れた結果になった様子で、わかりやすく若干の落ち込む姿を横目で見ながら今回の評定は終了した。

その流れでガーネは控えていた特務に視線を投げ声をかける。

「スメイラ、今の内容漏れなく聞いてたな。この区画の事前調査を明日中に行って俺に報告を上げろ」

「了解」

「なるほど、説明が一回で終わるのと教育も兼ねてか。さすがお前は悪知恵が働く」

「悪知恵とかやめてくれませんかヘルソニア様、人聞き悪すぎ」

「ところでガーネ」

「はい」

「今回の人事で、わりと各所人が動いていてな。陛下の今後の外遊の機会の増加も考慮し、内勤の採用を増やしたところではあるのだが…特務、人はいるか?事務方など」

「いえ、いりません」

即答できっぱりと返したガーネに、話を聞いていた衛兵総監エーリックが意外そうに口を挟んだ。

「まじかよ、お前んとこカツカツだろ」

「俺の職種の関係もある。陛下の予定とか、特務に関しても機密が多い。俺が信用出来ない人間は置きたくない。つーことで、特務の人員拡充は不要です」

「そうか、わかった。陛下行きますよ」

「あ、陛下」

今度は逆にガーネがディアマントを呼び止め、立ち上がった彼女は小さく首を傾げてガーネを見上げた。

「なんじゃ」

ガーネはディアマントに歩み寄り、手にした資料で口元を隠しながら小さな声で耳打ちした。

「後で行く」

「………そうか」

わかりやすく機嫌の治った顔をしたディアマントに肩を竦め、退室する後ろ姿に向かって一同頭を下げて見送った。

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