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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十六章『逍遥』

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233話「騎士としての業務」

翌日、特に代わり映えのしない日常に追加された昇進・叙任後の『日課』になった業務の一つである『女王の予定確認』。

その『騎士としての業務』のため、ガーネは適当な時間に女王の執務室を訪れていた。

「ガーネ、これはなんじゃ!」

「わたあめ」

「妾、白いわたあめしか知らぬ!これは色んな色がついておる、なぜじゃ!味も違うのか!」

目を輝かせて昨日渡したガイドブックを指差して、無理矢理隣に座らせたガーネに迫った。

「あー、どうなんだろうな。食ったことないけど。ザラメに色ついてるだけだから、味は変わんない気がするけど」

「これはなんじゃ!」

「横に書いてるでしょ、中にチーズ入ってんじゃねぇの」

「これは!」

「さつまいもチップス。…食いもんばっかじゃん」

「妾は王都におるが、街を見たことはほとんどない。楽しみじゃ!行きたいところがいっぱいある!昨日のカステラも美味しかったし、この前のクレープも楽しかった!」

ガーネはディアマントの顔を見て、思わず肩を竦めた。その様子にディアマントは少しはしゃぎすぎたかとわかりやすくしゅんとして手元の本に視線を落とした。

「…あのさ」

「なんじゃ」

「俺、『一回しか付き合わない』なんて言った覚えないけどな?…何回でも、行きたいだけ行けばいいだろ。自分の国なんだし、俺が守るし、…なんの為に俺のこと『騎士』にしたんだ」

「…い、…いいのか」

「いいも何も、『妾が女王で一番偉い』んだろ。とはいえさすがに警備の兼ね合いもあるから、今日これからとか急に言われても困るから…常識の範囲内でな」

ぱぁっと顔が明るくなったディアマントを見て、ガーネは『初対面の時と随分と印象が変わったな』と他人事のように思い、無意識に隣の女王の髪に手が伸びた。

柔らかな絹糸のような細く煌めく白銀の髪に触れ、指先に軽く絡めさせた。

「とりあえず初回は、食いもん3つくらいまで。食べ残しても俺もそんなに食えないからな。あと最初だから、王城近辺の中央区で絞ってくれると助かります女王陛下」

「…わかった、なら、最初は中央区で行きたい所を選んでみる」

「明日の午前中くらいまでに、行きたい場所出せますか」

「うむ」

「明日の午後イチで聞きに来るんで、明後日には警備会議招集しますか」

「わ、わかった。…ガーネ」

「なんですか」

「…ほんとに、ちゃんと『妾といっしょに』行ってくれるのか」

「俺のこと騎士にまで据えておいて、他の男隣に侍らせても俺のプライド傷つくんだけど。そこは『俺の場所』だ、わかったな」

ガーネはそれだけ言うと、ディアマントの髪から手を離して立ち上がり、一礼してから部屋のドアを開けた。

開けた先にはヘルソニアがおり、ガーネはヘルソニアにも一礼した。

「ガーネ、随分陛下の『扱い』が上手くなったな」

「はは、可愛いもんですよあのくらい。世間知らずなんで。あ、ところでなんですが今よろしいですか」

「なんだ」

「王都散策にあたっての警備会議したいので、招集お願いしたいです。場所も中央区で絞らせたんで、そんなに大掛かりにならないようには誘導しましたので」

「いいだろう、明後日で構わないか」

「はい、お願いします」

改めてガーネは一礼し、今度こそ『日常通常業務』に戻るべく廊下を歩いていった。

ヘルソニアはガーネの背中を眺め、小さく笑みを浮かべてディアマントの執務室に入っていった。



特務室に入り、王城での業務予定以外は特にない『女王の予定表』を眺めながら席に座ると、カルセがお茶と一緒に昨日作成していた書類を持ってガーネの傍に来た。

「ガーネ様、確認お願いしてもよろしいでしょうか」

「おう、ちょっとだけ待って」

手にした予定表をファイルに綴って机の引き出しにしまい、鍵をかけてからカルセの書類を受け取って確認した。

特に不備がないことを確認し、承認者欄にサインをしてカルセに返す。

「問題なし、良く出来ました。出す場所わからなかったらスメイラと後で一緒に行って来い」

「わ、よかったですわ!ありがとうございます!」

足取りが軽そうに自席に戻るカルセを見て、ガーネはスメイラに視線を向けた。

「3人とも終わったら面倒見て。あと、今日中に王都中央区地図。水路とか通り抜け出来そうな路地とか全部まとめて出しといてくれ」

「中央区?」

「中央区だけでいい」

「了解、『散策用』ってことでいいんだよね」

「おう」

「ガーネ様!あたしのも見て!」

「はいはい、持って来い」

アメジもカルセと同様に完成した書類をガーネに見せると、ガーネは少しだけ考えたようにアメジの妙に丸い文字を眺めた。

「……ガーネ様?駄目だった?」

「駄目っつーか、まぁ及第点って感じだな。この辺とか、昨日に比べたら良くはなったけどもう少しなんつーか。補充理由が『また使う』じゃなくて、例えば『今回何個使用し、局内保管在庫数が枯渇のため』とか『次回遠征時に大量使用の予定があるため』とか、もう少し端的かつ上の人間が見てわかるように書いたら満点」

「上の人って、ガーネ様じゃ駄目?」

「俺じゃねぇよ、よその部署の知らん偉いオッサンに見せると思え。だけど昨日のよりは全然出来てる、やればできんじゃん」

「きゃ!褒められた!!」

「あ、うん…」

そこまで褒めてはいないけど、という言葉を飲み込みつつも、『まあいいか』と机に積まれた決裁書類の束に手を伸ばす。中身をパラパラと確認して数枚抜き取ると、ラズリの机に置き直した。

「え、なに」

「やり直し。数字違う」

「え。嘘どれ」

「物品台帳更新書類の実在庫の計算ミス。最初のが間違えてるからそれ総数全部ずれてる。最後確認してから出せ」

「えー、見たのに」

「見れてないから間違えてんだろ」

「ガーネ!僕も出来たよ!」

「持って来い」

サイフィルの提出した書類を眺め、ガーネは眉を寄せた。

「お前はなんつーか、惜しいよな」

「え?」

「備考欄にいちいちいらん文言追加すんじゃねぇ、手紙じゃねんだぞ。なんだ『多分合ってます』とか」

「だって自信なかったし」

「だから最終チェックをスメイラか俺がするんだろうが。お前は喋っても書いても余計な一言が多い」

「そうかなぁ。じゃあ備考欄ってなんのためにあってどんなこと書くのさ」

「お前混乱しそうだからあれこれ言いたくねぇんだけど、まあ例えば『使用期限超過で大量破棄予定のため使用数以上の補充希望』とか、今回みたいに普段の業務と違った外遊がある時とかに『陛下外遊随伴に伴う持ち出しのため』とか、通常項目に無い一言付け加えだな。お前みたいに『頑張って書いてみたけど多分合ってると思います』とかの私信欄じゃねぇわバカ」

「うーん?」

「一応聞くけど、なにがそんな自信ねぇんだ。他は出来てるぞ」

「え、ほんと?」

「そんなくだらねぇ嘘つくかよ。胃痛すんだろが」

「やった、ならよかった!」

「清書がてら書き直してくれ…」

「はーい!」

ガーネは深すぎる溜息を漏らしながら胃の辺りを押さえ、急にやる気が削げた様子で書類を積み直した。

「特別手当じゃなくて、俺も衛兵みたいに特別休暇欲しかったな…」

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