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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十六章『逍遥』

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232話「特務の育成」

特務室に戻ったガーネは、全員でベビーカステラを摘んでいるのを見て自分も2つほど紙袋に手を突っ込んで取り出し、自席に戻りながら口に一つ放り込んだ。

自席に財布を放り投げてからもう一つを口に入れ、官服を羽織り直してから着席した。

もくもくと咀嚼しながらほんの数秒ぼんやりと視線を投げて口の中のものを飲み込むと、小さく息を吐いた。

「…え、なに。また病んでる?」

スメイラが怪訝そうに眉を寄せて問いかけると、ガーネはさも心外そうに視線を向けた。

「人をメンヘラみたいに言うんじゃねぇ。王都みたいな場所の方がかえって警備面倒だなと」

「なんの話?」

「陛下の王都散策。通行止め申請とか、警備重視にすると逆に連中に『陛下が来ますよ』って宣言するようなモンだろ。外遊みたいに大々的に出ちまう情報は致し方ないけど、だからといって各所に申請も通達もしないわけにはいかねぇし」

「フーン、『騎士様』も大変ね」

「これは騎士云々じゃなくて警備観点から言ってるんだけどな。別に連中の20人くらいなら5分あれば始末出来ることはわかったから、俺がただ出張って守ればいいだけならそんな難しいことはないがそういう訳にもいかねぇだろ。ついでに言うと、俺はまだ序列持ちの『中位以上』と対峙したことがない。こないだの三匹も、所詮下位だ」

机の上の書類に手を伸ばし、視界の奥の方で未だに先程指示した書類と睨み合う三人を捕らえながらガーネも机に向き合いラズリとスメイラとの雑談に興じる。


「でもこないだの外遊のときはまたちょっと条件違ったでしょ」

「まぁな、ラズリが思ってたよりも容赦無くて俺は助かったよ。それにあの時は衛兵の精鋭だらけだったしアメジもあそこに配置したから、あんまり民衆のことを俺が気にかけなくても良かったのはデカいな。我ながらあの時の配置は満点だ。ベビーカステラあと二個くれ」

スメイラが紙袋に手を突っ込み、2つ摘み上げるとガーネに差し出しながら外遊の警備を思い返しながら問いかけた。

「ちなみにガーネくん、会場の壇上で『どこまで見てた』の?」

「天井と自分の後ろ以外全部、参列者の手の動き視線の動き、衛兵の配置お前らの口の動き全部」

受け取ったベビーカステラを一つ口に放り、もう一方の手ではサインだけでいい書類だけ先に処理しようとペンを握りペン先を走らせた。

ラズリがペンを置き、両腕を伸ばして身体をほぐしながらからかうようにガーネを見て首を傾げた。

「目ェヤバかったもんね、超怖かったし。目つきが最高に治安悪かったわ」

「見せる抑止力は必要だろ。アレがジェレイドだとそうはいかねぇぞ顔が優男だからな。ああいう立ち方する適任なのは俺か衛兵長だ。衛兵長じゃねーや、衛兵総監」

「あの人も優しそうな顔してるのに」

「はは、そりゃお前『鬼の教官』を知らねぇから。今でこそあんなだけど、警察現役の時はおっかなかったぞ」

視界の端でカルセがペンを置いたのを見て、そろそろ聞きに来るかと手の中のベビーカステラを口に入れてガーネもペンを置く。

案の定、少し申し訳なさそうな顔でカルセがガーネの席にやって来た。

「ガーネ様、ここまで出来たんですが見ていただけますか?」

「どれ、貸してみ」

カルセから受け取った書類を確認し、訂正箇所を指で差してカルセの顔を見た。

「ここはどうしてこの数を書いたか、俺に説明してみろ」

「え?ええと…この日使用したのが呪符3枚でしたので、補充は余分をもって5枚と…今後大きな案件があった際に、予備がないと困るかと思いまして」

「惜しいな、半分正解。考え方はあってるが使用数と補充希望数が逆だ」

「…本当ですわ」

「お前は落ち着いてやれば出来るんだから、今は時間かけても急かすつもりはないからゆっくりやれ。他はあってる」

「かしこまりました」

カルセが訂正のために自席に戻ると、入れ替わりでアメジがガーネのところにやって来た。

「ガーネ様、あたしもわかんなぁい。手取り足取り腰取り教えて」

「手も足も取らねぇし腰は絶対に取らねぇよ。お前はなにがわかんねぇの」

「ここ。使用理由」

「見せてみ、…『暗かったから』?駄目だな、簡素過ぎ」

「えー、でも暗かったんだもの」

「じゃあ聞く。『なんで暗かった』?」

「……地下水路だったから?」

「そうだ。地下水路に行ったのは『どうして使った』か覚えてるか」

「えーと、異音がするって通報よねたしか。だから、音の出どころ探してそれが地下水路だったから、みんなで行ったは良いけど暗かったから使ったのよ」

「そうだ、なら『地下水路点検時の照明用として使用』でいいだろ」

「あ、なるほど!」

「さっきもスメイラが言ってただろ。『数量と用途を対応させて書く』、『何を・いつ・いくつ・何の案件で・誰の判断で』ってのはそういうことだ」

「じゃあ、ここは『照明用魔法石3つ、衛兵隊からの要請を受けて出動時、ガーネ様の判断で』でいいの?」

「書類だぞガーネ様はやめろ、そういう時は役職名と名前だけで敬称はいらねぇんだよ」

「はぁい」

アメジが終わるのを見計らっていたかのようにサイフィルが自信満々でガーネのところに来て書類を置いた。

「できたのか」

「完璧!」

「……お前これ真面目にやってる?」

一周回って笑いそうになりながら、ガーネは顔を引きつらせてサイフィルを見上げた。

「え?」

「案件番号『この前の』ってなんだ、いつだよ『この前の』って」

「えっ、昨日の出動の!」

「昨日の出動が3回あったらどうやって書くんだ」

「うーん、昨日の2回目とか?」

「じゃあ、俺がさっき出動したやつって言ってお前わかるのか」

「?ガーネさっき出動したの?」

「してねーけど」

「そんなのわかんないじゃん!」

「そういうこと。だからスメイラが全部記録おこして『案件番号』って振ってるんだよ」

「あ、なるほど?」

「なら、この出動に関しての案件番号は何見たら良いと思う」

「出動記録管理簿?」

「そ。正解。それ見てやり直し」

サイフィルが管理簿の保管棚に書類を持って直行すると、ガーネは深々と溜息を漏らした。

それを見て近くの席で聞いていたスメイラとラズリは、純粋に関心したようにガーネを見つめた。

「ガーネくんって、教えるの上手いね」

「アンタが怒らないで教えてるの意外だったわ」

「わかんねぇやつに怒って理解出来るなら怒ってるよ。さっきも言ったけど俺はわからないことに怒ったことはないつもりだけど。わかんねぇものを勝手に自己解釈したり隠匿したりすると怒る」

「……君、やっぱ上司なんだね」

「俺はお前らがあんなに育成下手くそだと思わなくてびっくりしてる」

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