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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十六章『逍遥』

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231話「ベビーカステラとガイドブック」

王都内の比較的大きな本屋に来たガーネは、店内をうろついて目的の本を探して会計に並んだ。

「…あの、王城の方…ですよね、先日女王陛下の外遊で、ご一緒にいられた」

「……あー、…ハイ」

官服を着ていなければわからないだろうと高を括っていたが、自分が思っていたよりも面割れしていた様子に若干身構える。確かに先日の外遊は80年以上振りともあって、かなりの数の民衆が王城前にも駅前にも押しかけていた。近衛長とともに一番目立つ場所にいたのもあって、致し方ないかと適当な愛想笑いを一瞬だけ浮かべて会計を済ませる。

「領収書は?」

「あー、私費なんで大丈夫です」

紙袋に入れられた雑誌数冊を受け取り、事のついでのように街中を少し歩く。


あまり出歩くこともないながら、地図で裏道や抜け道、用水路の繋がる先などは全て頭に入っている。

とは言え、細かい死角や店舗情報まではさすがに網羅しているわけではないため、城からほど近い範囲をなんとなく見て回りながら一件の露店に目が止まり立ち寄った。

「デカい包みのと、一番小さい包みの。一個ずつ」

「はい、お待ちください」

大きな紙袋に中身が詰められ、封をする。次いで、小さな紙袋にも中身が詰め込まれて封をされたところで、ガーネは財布から現金を出して会計を済ませた。

「少しおまけしときましたんで」

「そりゃどーも」

まだ温かい紙袋を抱き、もう少し見て歩くかと思っていたのを切り上げて足早に王城に戻る。


特務室に戻ると、ラズリとスメイラが顔を上げた。

「おかえり、早かったね」

「だから『すぐ戻る』って言っただろ」

「どこ行ってたの?」

「本屋」

ガーネは大きい方の紙袋を机の真ん中に置くと、紙袋越しにも甘い香りが漂う。

「なにこれ」

「おやつ。適当に食え。アイツらも休憩させろ」

「わ、いい匂い。お茶入れますね先輩」

あの程度の書類に頭を抱えている三人にも視線を投げ、敢えて何も言わずに肩を竦めるとガーネは2つの紙袋を抱えて再び女王の執務室へと向かった。


「陛下、入ります」

「うむ」

一応声を掛けてから執務室のドアを開け、中に入る。

ディアマントはものの小一時間で再び訪れたガーネを見て、どこか勝ち誇ったような顔をして隣のヘルソニアを見た。

「見たかヘルソニアよ。ガーネは騎士になって妾に会いたくて、頻繁に部屋を訪れるようになった」

「仕事だと思いますけどね」

「仕事なんですけどね」

ヘルソニアと同じことを雑に告げながら、ガーネは本屋で購入した紙袋を机に差し出した。

「なんじゃ、これは」

「どこぞの小娘に『嘘つき』と言われて、非常に心外なので」

紙袋を開けたディアマントは、中から旅行誌やガイドブックを数冊取り出した。

どれも王城近辺の王都のガイドブックの類のものであり、ヘルソニアは意外そうな顔でディアマントの手の中の雑誌とガーネを見た。

「其方、意外とマメな男だな」

「だって目的地決めてくれないと、こっちも警備とか交通規制とか困るじゃないですか。あと普通に、むくれた顔可愛かったんでちょっと言う事聞いてやる気になりました」

「陛下、ガーネを困らせてはいけませんよ」

「妾がガーネを困らせるのは、妾が女王だから問題ない!!」

「出た小娘。最近なんだお前のそれ」

呆れたように肩を竦めながら、まだ温かいもう一つの紙袋を机に置いた。

「…これは?甘い香りがする」

「ディアマント様の言ってた『小さいケーキみたいなやつ』ってこれですかね、って確認です」

ディアマントが興味深そうに紙袋を開き、中身を確認する。ほわ、と立ち上る香りと中に入ったベビーカステラを見て、嬉しそうな顔でガーネを見上げた。

「……これじゃ!」

「やっぱベビーカステラか」

「食べてよいのか」

「毒見が必要ならします」

「いらぬ」

ディアマントは紙袋の中で甘い湯気を立てるベビーカステラを指先で摘み、小さな口でおずおずと齧った。

「どうですか」

「…ん、あまい。美味しい」

「そりゃ良かった。じゃ、行きたい場所決めといてください。飯入らなくなるからほどほどにな」

それだけ告げるとガーネは一礼して執務室を出て行った。

ディアマントはその後ろ姿を見つめ、ベビーカステラを再度頬張った。

「…ヘルソニア」

「はい陛下」

「…せっかく騎士に任じたのに、あの男は全然妾の傍におらぬ」

「…………あのですね、陛下。騎士に任じたからこそ、あの男は多忙なんですが…?まして昇進までしているので、いくら『特務案件』がなくても今まで以上に忙しいと思いますよ」

「つまらぬ!なんとかせよ!」

「ほら、だからこうして『貴女のために』こういうの用意しているでしょう。他の官職ならここまでしませんよ」


ヘルソニアはさもいい加減にしてくれと言わんばかりにガイド雑誌を指差してディアマントを見下ろした。

渋々と言った態度でディアマントが雑誌を広げ、見たこともない甘味や観光地化した公園などの情報に、すぐに目を輝かせた。

「…良かったですね」

「うむ」

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