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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十六章『逍遥』

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230話「胃痛再来」

女王の執務室から戻ったガーネは頭を抱えたスメイラの後ろ姿を見て眉を寄せ、ラズリに声を掛けた。

「なにあれ」

「アタシとおんなじ」

「まじかよ」

なんとなく嫌な予感を孕みつつスメイラの傍に近寄る。


「お前は何に困ってるんだ…」

あまり聞きたくは無さそうな声色でガーネが問いかけると、スメイラはほんの30分程度で酷く疲れた顔をして振り返った。

「……」

ガーネが改めて書類に目を落とし、どうしたものかと小さく息を漏らした。

「スメイラ。コイツらにもう一回説明してみろ」

「わ、わかった。これで5回目なんだけど」

ちらりとサイフィルたちを見ながらスメイラは溜息を漏らし、ガーネは近くのソファに腰を下ろして説明に耳を傾けながら別の書類に目を通し始めた。

「いい?じゃあもう1回説明するわよ。まずこの書類は、使った物品の実績と補充要求を紐づけて管理台帳と照合するためのものだから、書くべきなのは『何を』『いつ』『いくつ』『何の案件で』『誰の判断で』使ったか、の5点。ここまではわかるよね?」

「えっ」

「だから、ここ。物品名、使用数、使用日、案件番号、使用理由、補充希望数。案件番号が無いものは原則受理されないから、まず当日の日報か出動記録と照合して拾って」

「えっ待って、案件番号ってなに?」

「だからさっきから言ってる通り、出動記録に振ってあるでしょ。あの日の案件なら、異界対策特務局の局内管理番号。見ればわかるじゃない」

「え、どれ?」

「上の端。右肩。連番のやつ。……いや、そこ見ないでどうやって今まで書類眺めてたの?」

「眺めてただけ……」

「はぁ?……いい、続けるよ。で、使用理由は『必要により使用』とか書かないで。そんなの見ればわかるから。具体的に『浄化符三枚使用、低位異界反応の封鎖補助に使用』みたいに、数量と用途を対応させて書くの。でないと会計に戻される」

「会計ってこわいの?」

「怖いとかじゃなくて、無駄が嫌いなだけ。あと、補充希望数は使用数そのまま書くんじゃなくて、現在庫見て必要数を逆算して。定数割れ起こしてるならその不足分も足す。そんなの当たり前でしょ」

「待って、定数ってなに」

「まず物品使用届は単体で完結しないの。出動記録、案件台帳、物品台帳、この三つと必ず突き合わせる前提の書類だから」

「えっ一枚で終わりじゃないの?」

「終わるわけないでしょ。逆に聞くけど、何を基準に補充認めると思ってるの?」

「……気分?」

「気分なわけないでしょ!!」

「スメイラさん怒ったぁ」

「怒るよ!じゃあ例えば、浄化符を5枚使いました、補充10枚くださいって書かれたとして、それをそのまま通したら在庫管理崩壊するでしょ。だから、使用実績と案件の規模と保管庫の現残数を見て妥当性確認するの。ここまで常識」

「常識って言われてもわかんないよぉ」


「あ────、スメイラストップストップ」

そこまで聞いたガーネが手にしていた書類をローテーブルに雑に置いて止めた。

「スメイラ、お前も相手の理解度とかに合わせて説明しろよ。これで5回同じ説明してんなら、そもそものお前の説明の仕方が悪い。わかってる前提のやつに書き方教えてるんじゃねぇんだぞ」

「……すみません」

「俺が教える。スメイラもラズリも、自分の仕事してろ。サイフィルたちはその書類持ってこっち来て、そこ座れ」

カルセはともかくとしてサイフィルとアメジはわかりやすく顔を引きつらせた。ガーネが『怖い』のをわかっていたからである。

「…ガーネ、怒らない?」

不安そうなサイフィルの言葉に投げ置いた書類をまとめて横に置き直し、腕を組んで立っている三人の顔を見上げた。

「わからないことに関しては怒らない。わかったフリしてたり、わかんないのに適当やったり誤魔化したりすると怒る。仕事の上で、お前らにそういう叱責はしたことないつもりだけど」

早く座れとばかりに正面のソファを指差し、三人を座らせる。


「カルセ」

「はいガーネ様」

「この届は何のための書類かわかるか。目的」

「ええと…『物を使って無くなったから補充したいです』という書類、でしょうか?」

「そうだ。サイフィル」

「…なに?」

「俺の銃は装填数が17、20発撃ったら弾倉は何個補充してる」

「ええと…1個?」

「そう。アメジ」

「はぁい」

「そうなると、ここの欄何書く」

「物品名だから…弾倉?」

「カルセ、こっちの使用数は」

「お一つ、ですか」

「サイフィルこっちの補充希望数は」

「一個使ったから、一個?」

「わかってんじゃねぇか。難しく考えるな、まず『わかるとこだけ』埋めろ。どうせ提出前に俺かスメイラがチェックして承認するんだから。わからんところは一旦空欄。それ踏まえてカルセは三日前の出動のやつ、サイフィルとアメジは昨日の出動のやつやれ」

そこまで説明して、それぞれ自席に戻っていくのを見てガーネは胃を押さえながら自席に戻り、ラズリに声をかけた。

「…ラズリ、胃薬」

「だから言ったのに」

ラズリに胃薬をもらい飲み込むと、出かけるために官服を脱ぎ、財布を持ちながら真剣な顔で書類と向き合う三人を見た。

「…アレ、全員大人なんだよな…?ちょっとだけ私用で出る、すぐ戻る」


王城を出て道を歩きながら、ガーネはこの短時間で驚くほどの疲労感に苛まれ、先行きの不安感を覚えた。

「……育成、やめようかな…」

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