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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十六章『逍遥』

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229話「育成計画」

「待てスメイラ。その書類、手ェつけんな」

論功式から1週間が経過した。

比較的暇な日々を過ごしていた特務室内で、ガーネがスメイラに声をかけた。

「…なんで」

「一旦全部貸せ」

スメイラは机上の書類をガーネの机の上にどさっと置き、ガーネは検分するように一枚ずつ確認して数山に分けていく。

「ラズリ、来い」

「なによ」

「お前、この書類一旦『見ろ』」

言われるままに書類を手にして、数枚をパラパラと確認して首を傾げた。

「…見たけど、なに?」

「この書類、お前処理出来るか」

「出来るけど。超簡単なやつじゃない、別に特務由来の特殊なものでもなんでも無いし」

「よし、ならラズリ。この書類の処理を、サイフィルとアメジとカルセに下ろせ」

「教えるってこと?」

「そうだ」

「なに急に、藪から棒に」

今まで敢えて触らせていなかった面々に書類仕事を何故急にやらせる気になったのかと意外そうな顔をしてガーネを見つめた。

「俺もスメイラも昇進して、普通に『今は』暇だが今後忙しくなること考えたら暇なうちに仕込んでおこうと思ってな」

「で、なんでアタシ?」

「育成も仕事のうちだからだよ。つーことで頼む」

「はぁい。ほらアンタたち、集合」


ラズリがカルセ、サイフィル、アメジをデスク周りに集めて書類の書き方や処理の仕方を教え始めたのを見て、ガーネは選り分けた書類のうちの一定権限が必要なものだけをスメイラに差し戻した。

「で、スメイラはこれ」

スメイラは書類を受け取ってからちらりと『育成』に入った4人の姿を見てガーネに視線を戻した。

「…ガーネくんてさ、若いくせにきちんと上長っぽいよね」

「ぽいってなに、どういうことだ。というか俺からしてみたら、責任者になった時点でお前から気付いてそういう動きして欲しかったまであるけどな。お前だって研究所時代は責任者だったんだろうが。ついでに言うと、俺は自分がこの中でも城の責任者の中でも一番若い自覚があるからこそ舐められないように最大限やってるつもりなんだけど」

「研究所と現場とはちょっと勝手が違うから…というか、先輩が『育成係』で大丈夫なの?」

「どうだろうな、それも含めての『育成』のつもりだけど。ラズリもバカじゃないし…それに、次に昇進させるなら俺はラズリで考えてるから、この程度やってくれないと推薦もなにも出来ない」

「君ほんとに19歳…?」

「誕生日来たら20歳になるな、まだ先だけど」

「そういう話じゃないんだけど」


ものの数分後、ラズリの怒号が飛んだ。

「だーから、なんでこんな簡単なのがわかんないのよ!一回言ったら覚えなさいよ!」

「え?なんか雰囲気で」

「雰囲気でやるんじゃないわよ!」


「…スメイラ、駄目だったかもしんない」

「だから言ったじゃない」

「なんで物品使用届だけで…え?俺、物品使用届渡したよな?あれ?」

ラズリがブチギレるほどに複雑な書類を混在させたかと不安になったガーネは立ち上がってラズリたちの元へ行き、手元を覗き込んだ。

しかしすぐに戻って来ると、浮かない顔をして席についた。

「何、間違えた書類渡してたの?」

「物品使用届で間違いなかった」

「なにその顔」

「『使用数:いっぱい』『補充数:それなり』って書いてた」

「………あー、ね。うん。なにか飲む?」

「…ココア」


ガーネとスメイラは、ラズリの怒号をBGMにしばらく自分の仕事をしていたものの、あまりの状況に堪り兼ねて声を掛けた。

「…ラズリ、ストップ」

「なによ!」

「俺も苛つくタチだし気持ちはわからんではないけど、まずはコイツらが何がわかって無くて何ができるのかの把握をしろ」

「無理!全部できない!」

「あー、もうわかった。チェンジ。スメイラ、お前が育成しろ」

「えっ、とても嫌なんだけど」

「業務命令だ。ラズリはこっちやってくれ」

「初めからアタシにこんなことさせないでよ!!」

「あ、うん。全面的に俺が悪かったなーと思いました」

腕を組んでなんとなく胃の痛みが再発しかける思いに眉を寄せながら、スメイラに託して溜息を漏らしたガーネは席を立った。

「どこ逃げんのよ」

「逃げるとか心外だな、女王の予定確認だよ」

そう言ってガーネは部屋から逃げていった。



「とは言ってもですけど、基本出かけたくないアンタの予定確認したところで何になるんですか俺。外出るときだけにしてくれないですか、忙しいんで」

「お前、先程特務で『暇だ』と言っていたではないか」

「そういう意味の暇じゃねぇんだけど。むしろ忙しいんだよ俺一人で」

女王の執務室で形式的に騎士として『予定確認』をするものの、元々数千年単位での引き篭もりであったディアマントは正直わざわざ出かけたくないのが本音ではあった。それを見越してガーネも返しはするものの、騎士を立てる必要が出るに至った経緯も、出ざるを得ない機会が間違い無く増えることも理解はしている。実際、辺境伯領に行った直後から各領でも『女王の来訪』を望む声は多く上がっているし、辺境伯領に顔を出して他に行かないわけにもいかないだろうともガーネもわかってはいる。

「ガーネ」

「なんだよ」

「妾と王都の散歩はいつじゃ。嘘つき」

「…嘘つきだぁ?舐めた口利きやがって小娘が」

「妾は街散策をしたい!約束した!」

「だからわかったって言ってんでしょ、行きたいなら行きたいなりにいつくらいにするとかそういう申し出してくれないですか。こっちにも都合があるんで」

「お前の都合は妾の都合じゃ。なら明日じゃ」

「あ、無理ですね。警備組まなきゃいけないし各所に申請も通さないとだし」

「妾は女王じゃ!妾の言う事を聞け!」

「お前、それ俺と2人だから許すけど外で言うなよ。バカ王君小娘だと思われるから。それに俺は言う事聞いてるでしょ。せめて王都で『なにしたいか』とか、『どこ視察したいか』くらいは決めてくれませんかね」

「何があるかわからぬから出かけたいのに」

拗ねたような顔をしたディアマントの顔を見て、ガーネは肩を竦めた。

「…じゃあ、あとでまた顔出すので。その話その時でいいですか」

「『逃げる』のか」

「『逃げた先』がこれだったから帰るんだよ…」

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