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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十五章『叙任』

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225話「騎士叙任」

式典が終了したかのような雰囲気の最中で女王が発した言葉に、会場内は静寂に包まれた。

ディアマントが小さく息を吐いてから、改めて声を発した。


「異界対策特務局、統裁官ガーネ・ディーム・ロット。前へ」

「は」


短く返事をして再度立ち上がったガーネに、一瞬だけ会場がざわつく。

しかし、ガーネが歩き始めると同時にすぐにしんと静まった。

この式典において、彼が女王の前に歩み出たのはこれが三度目である。


三度目の呼び立てで初めて、ガーネは自発的に片膝をついてディアマントに跪いた。

その様子に、ディアマントは満足そうに口元に笑みを浮かべると、静かに目を伏せて短く呼吸を整えて双眸を開く。


「此度の外遊において、お前は警備最高責任者として任を全うし、王権を守り、民を守り、敵を退けた。────…剣を」

ガーネは左腰の儀礼剣に手を添え、ゆっくりと鞘からその剣を引き抜く。

金属と鞘の触れ合う音が会場内にごく小さくではあるものの厳かに鳴り、刀身を露わにした剣をディアマントへと両手で捧げ渡した。

ディアマントはその剣を受け取り、剣の平をガーネの左肩にそっと置いた。


この儀式をガーネに対して行うのは、『二度目』であった。

一度目は、ヘルソニアとディアマントとガーネしかいない三人のみの空間で、儀礼的に行った『王命』を授けた始まりの日。

そこから、ガーネは間違いなくディアマントのために働き、時に怪我をし、プライドと信念を持って女王に仕えていた。

今日のこの日のこの儀式は、また別のものである。

それを感慨深く、ガーネもディアマントも無言で噛み締め、剣の平はガーネの右肩へと置かれた。


「ガーネ・ディーム・ロット。お前を、『王室近衛騎士』に任ずる」


ディアマントは剣をガーネに差し出すと、ガーネは恭しくその剣を受け取り静かに鞘へと納め直した。

かちゃ、と納刀される音が響き、それを合図にしたように侍従が盆に載せた徽章とマントを捧げた。


ディアマントは盆から騎士徽章を手にし一歩進むと、跪くガーネの前へ立った。

小さく上体を折り、その左胸へ騎士徽章を留める。

ガーネの心臓の少し上で主張する徽章を指先で軽く触れてから上体を起こし、侍従からマントを受け取るとガーネの背後に回り、双肩へと静かに掛ける。

再度、ガーネの前へ回り直すと一つずつゆっくりと留め具を留めていった。


髪も吐息も触れそうなほどの至近距離で、ガーネは黙って目線を落として姿勢を保っていた。

最後の留め具を留め終え、ディアマントが静かに声をかけた。

「顔を上げよ」

その声に、ガーネがゆっくりと目線と共に顔を上げると、数秒であるがしっかりと視線を絡ませて見つめ合った。

「これよりお前は、妾の騎士じゃ。立て」

ガーネが立ち上がり、低くはっきりとした声で返答をした。

「拝命いたします」

最後に深く頭を下げたところで、会場内は今まで以上にしんと静寂に包まれた。


一拍置いて、ヘルソニアと近衛長ジェレイド、衛兵長エーリックが拍手をすると、高位職者席から順に拍手が起こり会場全体に伝播していった。


「え、き、騎士?ガーネくんが?」

完全に寝耳に水だったスメイラを筆頭とした特務の面々は拍手の波に出遅れつつも同じように拍手をして周囲を見回した。

「……なんか、ごめん。ますますアタシ、あの子があんなに病んでた理由がわからない…」

ラズリも拍手をしながら原因のわからないガーネの病みに首を傾げた。

ガーネが病んでいた理由を、彼らはずっと別のところに求めていたからだ。

それもそのはず、特務の一同はガーネが病んでいた理由を『近衛長がそのまま順当に騎士に叙任されることへのやり場のない嫉妬』もしくは『不当な更迭に準ずるような人事』『厄介払いと受け止めかねない配置換え』のどれかかと思っていたからである。結果、昇進もして騎士に叙任された自分たちの直属の上長を見て、疑問符を浮かべた。

「ま、まあ!でもさ!おめでたいじゃん!」

「そうね、すごいわガーネ様」

サイフィルとアメジの声に、スメイラとラズリは小さく頷き改めて拍手を送る。


「以上をもって論功行賞式典を閉じる。なお、夕刻より慰労の席を設ける。列席の者はそれまでに各自支度を整え、再び参集せよ」

ヘルソニアの声で式典は終了し、参列者が退出の空気になる。

女王が侍従やヘルソニアに囲まれるが、一度ガーネの傍に歩み寄った。

「ガーネ、少し休んで参れ。…夕刻、遅れるでないぞ」

「……は」

ガーネは再度一礼し、侍従に預けていた辞令書などの一式を受け取ると参列者席の方へ目を向けた。特務の面々と視線が合うと、ラズリに視線を投げ指先で『来い』と合図を出す。


「…『胃薬持って来い』、だって。行ってくるわ、ついでに点滴ぶち込んでくる」

「じゃあ、私たち先着替えて来ますね。サイフィルくんとエイミーちゃんは着替えるの?」

「着替えはするけど、女の子先行ってきなよ。僕ら部屋の留守番してるから」

「じゃ、お願い。カルセさんと先行ってくる」


想定外のガーネの『騎士叙任』に、一同色々と投げたい言葉があるのを飲み込んで次の支度に向けて動き出した。

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