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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十五章『叙任』

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224話「昇進辞令」

深紅のドレスに、白銀の髪を低めのシニヨンでまとめ、ティアラを冠したディアマントが玉座からゆっくりと立ち上がる。

視線を会場内隅々まで投げてから、拡声用の魔道具に向かって口を開く。

「此度の外遊における任務、いずれも大儀であった。均衡教徒の脅威に対し、各々が己の役目を果たし、王都の安寧を守ったこと…妾は深く評価しておる。今回の働きは、ただの一任務にあらず。今後の脅威対策においても、極めて重要な意味を持つものじゃ。……よって、これより各々の功績に応じ、論功行賞を執り行う」

ディアマントの涼やかで澄んだ声が会場内に響き、一同は無意識に背筋が伸びるようだった。


「では、部門ごとの褒賞を陛下より賜る。王都衛兵隊、代表して衛兵長。前へ」

「は」

衛兵長が短く返事をして起立すると、女王の前へ歩み出て頭を下げた。

侍従がディアマントの傍に褒賞の品の載った賞状盆を持って傍に控え、ディアマントは褒詞を読み上げた。

「王都衛兵隊一同、此度の外遊における混乱の最中、民衆保護・避難誘導・現場統率を成し、死者を一人も出すことなく民を守り抜いた。その働きを高く評価し褒状と金一封、特別休暇を与える」

衛兵長はディアマントから褒状を受け取り、続けてディアマントが盆から取り上げた目録を両手で受け、恭しく頭を下げる。会場内から控えめな拍手が湧き、横にずれてから少し離れた場所で待機する侍従へと下賜品を預けて席に戻った。


「あー、一番最初かよ緊張したわ」

「はは、そんなようには見えないっすけどね」

着席した衛兵長が小さな声でガーネに声を掛け、ガーネは軽く笑いながら続けて呼ばれた近衛長の背中に視線を向けた。

「王室近衛隊一同、此度の外遊において、近衛として警護の任を全うし、混乱下にあっても王権の威を損なうことなく守り抜いた。その働きを高く評価し、褒状と装具を下賜する」

近衛長も女王より褒状と下賜品目録を受け、静かに一礼をする。席に戻る前に控えの侍従へ下賜品を預け渡し席に戻ると、やや緊張したように小さく息を漏らして座り直した。


「次、異界対策特務局。前へ」

ガーネは代表として席を立ち、ディアマントの前へ歩み寄る。ディアマントはほんの一瞬だけガーネの右耳を見て僅かに笑みを浮かべるも、すぐに女王たる表情へと戻して褒詞を読み上げた。

「異界対策特務局一同、此度の外遊において、異界及び均衡教徒への対処にあたり、脅威を排除し、王都と民の安寧を守り抜いた。その働きを高く評価し、褒状と特別手当、並びに徽章を与える」

両手で褒状を受け、目録と徽章の入った箱を受け一礼する。

拍手を受け席に下がる際に、同様に侍従へと下賜品一式を預けて席に座り直した。

まずは『一つ』終わったと、小さく息を吐いた。


その後も宮廷医局や魔導局、巫術局、その他協力部門がそれぞれ呼ばれ、各所属代表が褒状や目録などを受け取った。


「以上をもって、部門ごとの褒賞を終える。これより、各人の功績に基づき、昇進を伴う任命を執り行う。該当者は、呼名に従い前へ」

ヘルソニアの声に、特務一同の顔は一気に緊張へと変わった。特にスメイラは、自分が昇格対象であることは知ってはいるが、ガーネより正式な役職名はこの場で聞けと言われており詳細は把握していない。

以前のように、代行のような立場に据えられてしまったらという『責任者になること』への不安よりも、その自分の人事によってガーネがどうなるのかの不安の方がずっと大きかった。


そして周辺の注目がディアマントに注がれ、別の盆に辞令任命書と役職徽章を載せ傍に控えた。

「まずは王都衛兵隊、衛兵長。エーリック・ケイト・アウフリッチ。前へ」

名を呼ばれた衛兵長が起立して、再度女王の元へと歩み寄った。

ディアマントは辞令書を手にし、中身を読み上げた。

「王都衛兵隊衛兵長エーリック・ケイト・アウフリッチ。其方は此度の外遊において、衛兵を率い、混乱下にあっても迅速に民衆誘導と現場制圧を成し、王都帰還後の初動連携においても手腕を示した。その働きを評し、其方を『衛兵総監』に任ずる。以後、その任は衛兵総監とする」

辞令書と役職徽章の入った小箱を手渡され、衛兵長改め衛兵総監となったエーリックは深く頭を下げた。

先ほどと同じように自席に下がる際に、控えの侍従に辞令書と徽章の箱を預け、席へと戻った。

「次、王室近衛隊近衛長。ジェレイド・エルンスト・ジェスチェルト」

「は」

近衛長も起立し、静かに女王の元へと歩んだ。

「王室近衛隊近衛長ジェレイド・エルンスト・ジェスチェルト。其方は此度の外遊において、近衛を率いて警護の任を全うし、自らも脅威の排除にあたり、その統率と武功を示した。その働きを評し、其方を『近衛総監』に任ずる。以後、その任は近衛総監とする」

「ありがとうございます」

ジェレイドは短く返答をし、両手で辞令書と徽章を受け取り小さく笑みを浮かべた。

そのまま深く一礼をし、自席へと戻る。その前に同じように侍従へと一式を預け渡してから、ジェレイドの視線は無意識にガーネに向いた。しかし、ガーネは驚くほどに真顔で正面を向いていて感情の程は伺い知れなかった。

「…次、異界対策特務局。スメイラ・フレイブ・グリウ」

「……っはい」

震えた声でスメイラが返事をし、起立して女王の元へと進んだ。

ここまで高位職者席からの起立ばかりだったものが、一般参列者席で名前を呼ばれたため視線は一気にスメイラへと注がれる。

「スメイラ・フレイブ・グリウ。其方は此度の外遊において、異界対策特務局の一員として職務を全うし、局務の補佐ならびに現場支援において大きく寄与した。その働きを評し、其方を『総監補佐』に任ずる。以後、統裁官を補佐し、その任を全うせよ」

「…あ、ありがとう、ございます」

緊張で震える声で返し、スメイラも同じように辞令書と役職徽章の入った小箱を両手で受け取る。


────補佐。

補佐が不満では、当然ない。今までも『補佐』の仕事をして来た。ただ、これで『自分が一番上に据えられる』という、あの時の地獄のような人事ではないことに、スメイラは『何かの引っ掛かりを残したまま』酷く安堵した。

深々と頭を下げ、そのまま自席へと戻る。

緊張のあまり、自分の人事のそれ以上の思考が追いつかないままに席に座る。スメイラの着席を確認し、ディアマントの声がガーネを呼んだ。


「最後に、異界対策特務局統裁官ガーネ・ディーム・ロット」

「はい」

辞令書を確認し、何かに気付きかけたところでガーネの名前が呼ばれたのが聞こえ、特務全員弾かれたように顔を上げた。

「そうだ、ガーネくん…」

スメイラがか細い声で、『引っかかっていた原因』を思い出して不安そうに小さく呟いた。


ガーネが静かに立ち上がり、腰の儀礼剣が僅かにかちゃりと音を立てた。

こつこつと足音がしんとした会場内に響き、ディアマントの前で立ち止まる。

「異界対策特務局統裁官ガーネ・ディーム・ロット。其方は此度の外遊において、警備最高責任者として全体を統率し、異界及び均衡教徒への対処にあたり、王都と民の安寧を守り抜いた。その働きを評し、其方を『特務総監』に任ずる。以後、その任は王命執行最高責任者兼異界対策統裁官兼特務総監とする」

両手で辞令書を受け、他の者と同じように新たな役職徽章の入った小箱を手渡されると、深く一礼した。


顔を上げ、ディアマントと目が合う。

その目は、『覚悟』がしっかり決まったと訴える視線であり、ディアマントは小さく頷いた。


ガーネは最後まで流麗な所作で寸分の無駄も隙も無く、席へと戻る。

控えの侍従へと辞令書と徽章の入った箱を預け、静かに着席した。


「……い、異動…配置換えとかじゃ、なかったよね…普通に昇進、だよね…?」

サイフィルが小さな声で特務の全員に確認する。

自分の聞き間違いや勘違いではないかと念押しするその行為に、全員小さく頷きあった。そして安堵の息を小さく漏らした。

「…まずは、とりあえず…よかった」


「以上をもって、此度の『昇進を伴う任命』を終える」

ヘルソニアの言葉で、論功行賞式典そのものが終わりのような雰囲気に包まれ、功労者や昇進者に向けた拍手が響いた。

しかし、ディアマントとヘルソニアが互いに目配せをしたのを見て、数拍後には自然と拍手がおさまった。


「最後に、妾自ら下す任がある」

再度女王の澄んだ声が響き、再び会場内がしんとする。

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