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断罪ディストーション  作者: 梦月みい
第二十五章『叙任』

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223話「論功行賞式典」

翌朝、人の気配があるのを確認してからガーネは特務の部屋の扉を開いた。

相変わらず『いつもの服装』の面々ではあったが、ガーネはもはや何も言わなかったし言う気力も元気もなかった。

まともなのはスメイラとカルセくらいなもので、スメイラはいつものオフィスカジュアル的な装いからもう少しかっちりとしたパンツスーツにスカーフ、カルセの正装はいつもの聖衣であるためにその身嗜み。ラズリは、先日ガーネが買ったドレスの一枚を着こなしており、サイフィルとアメジはいつも通りで前回の外遊と同じように『装飾品が整えられている』程度の違いしかガーネにはわからなかった。

「きゃ!ガーネ様今日も素敵!」

「あっそ」

ガーネはアメジのいつもの声に盛大に舌打ちを漏らし、『どうしてウチはいつもこうなんだ』と一層胃が痛くなった。

「…ラズリ、胃薬」

「はいはい、用意してるわよ」

ラズリから胃薬を受け取り、ガーネは水でそれを流し込む。

「…顔、死んでる」

「そりゃ、…『こんなの』見たら死ぬだろ…」

視線をサイフィルとアメジに投げて深い溜息を漏らしながら、胃の辺りを抑える。

「なんでもいい、とにかく行儀良くしてくれ…カルセ、行くぞ」

「はいガーネ様」

ガーネとカルセはそもそもスメイラたちと席が異なる為、この時点で別行動となりガーネはカルセを連れて部屋を出た。

「ガーネ様、今朝は何をお召し上がりになりましたか?」

「…フルーツゼリー、半分」

「食べられたのなら良かったですわ。もし途中で体調が悪くなるようでしたら、目配せして下さいまし」

「すでに始まる前から体調悪ィよ、いろんな意味で」

会場に入り、別の入口から入ってきたスメイラたち特務の見た目の異質さを視線で指しながらガーネは深く溜息を漏らした。高位職者席に移動しカルセが当たり前のようにガーネの正面に立って特に乱れてもいないネクタイや飾緒を直しにかかる。正装をした時は毎回彼女は『こう』なので、これに関してもガーネは好きにさせていた。

「よ、ガーネ。顔死んでるな」

衛兵長がガーネの肩を軽く叩き顔を覗き込み、首を傾げたところで近衛長も席にやって来た。

「ガーネ、体調でも悪いのか」

「ガーネ様は胃のお加減が悪いんですの」

何故かカルセがガーネの代わりに返答すると、お決まりのように「お前はお母さんか」と小さく呟きを漏らしながら一般参列席の特務を顎でしゃくる。

「……何回も何回も、『正装』だって言ったはずなんだがな、俺は」

ガーネの示した先を見て二人とも納得したように小さく「ああ…」と呟いた。

「…だが……まぁ、ほら。アレが特務のアイデンティティ…なのではないだろうか」

「ジェレイドお前、別に無理してフォローしなくていいっつの。俺ですらフォロー出来ねぇのに」

半ば無理矢理フォローの言葉を見繕ったジェレイドに対して苦笑いで返したガーネは、どこか遠い目をして小さく溜息を漏らした。

「しかしガーネ、お前外遊ン時から胃の調子悪いだろ。引きずってんのか」

「引きずってるっつーか、悪化した」

「あーあ、苦労すんなぁお前も」



「…ガーネくん、大丈夫かな…」

スメイラが少し離れた一般参列者席の特務に割り振られた区画で座り、小さく呟いた。

「なんか見てるこっちが胃痛してくるわ、……辞令まで長いなぁ…」

ラズリも思わずと言った様子で高位職者席のガーネを眺めて胃の辺りをさすった。

「……でもさ、一昨日よりは若干だけと顔色良さそう、だよね?」

「エナに聞いたけど、今日はゼリー半分食べれたって。まああとは昨日も今朝も、栄養剤点滴してるし」

サイフィルも少し前屈みになってガーネを眺め、顔色を観察した。


「エイミーちゃんお疲れー今日も服可愛いね」

続々と集まり席が埋まっていく中、参列者席に何人か衛兵の女性隊員が固まって座りアメジに声を掛けた。

「うふ、今日のあたしの『正装』よ」

わりと親しい様子で衛兵の女性たちときゃっきゃと楽しげに会話をするアメジの女子力にスメイラとラズリはある意味感心した。

「わっ!見て見てやば!『王城四壁』の3人集まってる!眼福〜!」

「……『王城四壁』?なにそれ」

ラズリが女性隊員に声を掛けて首を傾げると、アメジが高位職者席のガーネたちを指差した。

「端的に言えば、王城顔面偏差値最強軍団よ。王道派王子様顔の近衛長に、大人のイケメン枠衛兵長、そして我らがガーネ様!」

「もう一人は?あ、僕?」

なにかを期待したサイフィルをバッサリと切るように女性隊員が首を振った。

「ウチの二番隊長様でしたー、残念ね」

「でもあたしはやっぱりガーネ様派!身内贔屓ってわけじゃないけど、あの圧と色気最高」

アメジがうっとりとガーネを見つめ、衛兵女子もそれぞれ「あたしも統裁官派」やら「衛兵長派」やら「近衛長派」などと漏らしながら目の保養をしていた。

「……毎日一緒にいて忘れるけど、遠巻きに見るとやっぱりあのクソガキ顔面はいいのね」

「クソガキ過ぎて忘れますもんね、あれでいて可愛いところもあったりするんですけどねぇ……何せ口と性格と態度が最悪過ぎて、一緒にいるとあの子が顔がいいんだって忘れちゃう」

ラズリとスメイラがそれぞれガーネの評価をしながら、同じように視線を投げる。

「ちなみにラズリちゃんとスメイラちゃんは、誰派?」

アメジの問いかけに2人は「うーん」と考え込む。

「…アタシは、『見た目の好みだけで言ったら』ガーネか衛兵長」

「難しいなぁ…確かに『顔だけで言うなら』、私もガーネくんは入るかなぁ…あとは近衛長かな」

「スメイラの元旦那も近衛長タイプだしね」

「あの人はあそこまで整ってませんて」


俗な話をしているうちに、特務は『別の緊張』を紛らわすことが出来た。

高位職者席側でぽつぽつと着席し始めると、それに倣うようにそれぞれが自然と席に腰を下ろした。

全員が着席した中でも、多少の会場内のざわめきは残っていた。

背筋を伸ばしている割にはいつもよりもやや前屈み気味に胃の辺りを押さえたガーネが、隣の衛兵長と会話をしているのを眺め、特務のそれぞれに再び、せっかく紛れたはずの緊張が戻って来た。


「陛下のお成り」

会場内に響いた声に、それまでのざわめきは消えて全員が規律して頭を下げた。


ディアマントとヘルソニアが会場に入り、ディアマントは玉座に、ヘルソニアは司会進行の立ち位置にそれぞれおさまり着席を促した。

「これより、論功行賞式典を執り行う。列席の者は、粛然と」


特務にとってもガーネにとっても、逃げ場のない論功式がついに始まってしまった。

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